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シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
弐乃巻:ダスト

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17/23

シノ(後)

引かない。


それだけは、最初から決めている。


忍びは、勝てる戦いだけを選ばない。

ましてや――負けが見えている相手から、目を逸らすことなどありえない。


シンの拳は、相変わらず正確だった。

速度も、威力も、衰えていない。


時間が経過している。

それは、肌で分かる。


床に刻まれた無数のひび。

空気に残る、衝突の余韻。

呼吸の回数が、確実に増えている。


(……削れてはいる)


だが、致命には至らない。


走馬。

死を先読みする思考。


それは、戦闘が長引くほど、

“慣れ”という形で洗練されていく。


私は、それでも試し続ける。


現実に存在した忍術。

派手さのない、地味な技。

だが、確かに「人を殺さず、制するため」に磨かれてきたもの。


撒菱、逆木、目潰し。

蜘蛛走り、隠れ身、壁走り。


一つひとつは、防がれる。

かわされる。

読まれる。


それでも、

組み合わせた瞬間に意味が変わる。


空間が、少しずつ歪む。


「……いい」


シンの声に、疲労はない。

むしろ、楽しげですらある。


「まだ、そんな手があるのか」


私は答えない。


忍びは、説明しない。


拳が来る。

今までよりも、重い。


身体強化。

踏み込みが、深すぎる。


(……危ない)


判断が、ほんの一瞬遅れた。


肩口に衝撃。

骨が、悲鳴を上げる。


続けざまに、腹部。


視界が、跳ねる。

足元が、消える。


私は、地面を転がった。


生命の丸薬が、内部で働き始める。

だが、回復が追いつかない。


忍耐の丸薬が、意識を縛る。

逃げ場はない。

ただ、状況を“理解し続ける”しかない。


(……限界が近い)


筋肉は、すでに悲鳴を越えている。

関節は、いつ外れてもおかしくない。


それでも。


私は、まだ、

奥の手を使っていない。


シンが、距離を詰めてくる。


今度こそ、

確実に終わらせに来ている。


私は、逃げない。


膝をついたまま、

顔を上げる。


「……うん」


声は、震えていない。


私は、目を閉じる。


アイズではない。


忍びとしての、

**もう一つの“目”**を、開く。


魔眼。


それは、この世界の魔法体系に含まれない。

アセットでも、魔行でもない。


忍術として、

“見る”という行為そのものを拡張する技。


視界が、反転する。


色が、消える。

形が、意味を失う。


代わりに見えたのは――

意志の流れだった。


シンの中に、一本、太く刻まれた命令。


生きろ。

戦え。

倒せ。


それは、身体強化よりも、

走馬よりも、

深い場所にあった。


私は、それを掴む。


状態異常ではない。

感覚操作でもない。


「絶対命令の、上書き」


忍びの声は、低く、静かだ。


「――自害せよ」


世界が、止まった。


シンの身体が、

一瞬、固まる。


完全異常耐性は、反応しない。

これは異常ではない。


命令だ。


シンの腕が、

自分の喉へ向かう。


筋肉が、

自分自身を殺そうと動く。


「……っ!」


走馬が、暴れる。


死の未来を、

必死に回避しようとする。


だが、命令は、上書きされている。


死にたい。

だが、死ねない。


究極の肉体。

超反射。


自分を殺す動作すら、

“最適ではない”と弾かれる。


矛盾。


身体が、震え、

動きが、乱れる。


「……はは」


シンが、初めて苦しそうに笑った。


「これは……」


膝をつく。


「……きついな」


私は、息を吐く。


魔眼は、長く使えない。

視界が、急速に戻る。


色が、戻る。

音が、戻る。


その瞬間、

アイズが、淡々と告げた。


【魔法対戦:時間超過】

【結果:無決着】


領域が、解ける。


現実が、戻ってくる。


シンは、その場に座り込み、

大きく息を吐いた。


「……参った」


私は、立ったまま、何も言わない。


「殺せなかった」

「殺されなかった」


シンは、空を見上げる。


「……興味が、わいた」


立ち上がり、

私を見る。


「俺も、ついていく」


レイザーが、思わず声を漏らす。


「……正気か?」


「正気だ」


即答だった。


「こんな戦い、久しぶりだ」


私は、少しだけ考える。


「……邪魔しない?」


「しない」


迷いのない返事。


それだけで十分だった。


私は歩き出す。

レイザーが少し遅れて続き、

その後ろを、シンが並ぶ。


――今もなお。


あの絶対命令は、解けていない。


自害せよ。


その命令は、

シンの奥底に、確かに残り続けている。


それでも。


「……はは」


背後で、シンが小さく笑った。


苦しさを含んだ声。

だが、どこか楽しげな響き。


「面白いな」


命令に縛られ、

それでも前に進める身体。


「こんな状態で、歩いてるのは初めてだ」


走馬は、働いている。

身体強化も、解けていない。


それでも、

死ねない命令と共存しながら、

彼は笑っている。


私は、振り返らない。


忍びは、

背中で語る。


三人分の足音が、重なる。

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