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シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
弐乃巻:ダスト

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14/20

シン(後)

私は、距離を詰めない。


それだけで、

この戦いは、さっきまでと形を変えた。


シンは一歩も動かない。

追ってこない。


(……追えない)


正確には、

追う理由が見えない。


走馬は、死を起点に思考が加速する。

致命の未来が見えた瞬間、

最適解を選び続ける能力。


だから――

殺意のない行動は、

“読む対象”にならない。


私は、巻物を使わない。

刃も投げない。

罠も張らない。


ただ、動く。


粉末を撒く。

煙でもない。

視界阻害でもない。


床に落ちた粉が、

空気をわずかに変える。


「……?」


シンの視線が、揺れた。


初めてだ。


完全異常耐性があっても、

異常を“与えていない”以上、

反応しようがない。


(異常じゃない)


(ただの環境変化)


私は、紐を張る。


絡めない。

縛らない。


ただ、位置を示す。


シンの足が、

わずかに止まる。


その一瞬。


私は、気づいた。


(走馬は――)


(選択肢の中から最適を選ぶ)


(でも)


(選択肢が“生死”しかない前提だ)


私は、空を蹴る。


攻撃しない距離。

触れない間合い。


ただ、

邪魔をする。


拳の軌道に、

手裏剣を投げる。


当てない。

掠らせない。


視界に入れるだけ。


シンの身体が、反応しかけて――

止まる。


(殺意がない)


(回避の必要がない)


思考が、

一瞬、空白になる。


私は、その空白に踏み込まない。


忍びは、

相手の“判断”を奪う。


「……」


シンの眉が、初めて寄った。


困惑。


それは、

この男にとって初めての感覚だ。


「攻めないのか」


「うん」


私は答える。


「今は」


次の瞬間。


私は、地面に手をついた。


――土遁。


だが、潜らない。


地面が、柔らかくなる。


足場が、不安定になる。


それだけ。


身体強化があっても、

踏ん張るための“基準”が失われる。


シンは、踏み込めない。


走馬が、

「死ぬ未来」を探す。


――ない。


殴っても、

蹴っても、

当たらない。


当たっても、

致命にならない。


判断材料が、消えていく。


「……なるほど」


シンが、低く言った。


「俺は」


拳を握る。


「殺す戦いしか、知らない」


私は、頷く。


「忍びは」


一歩、下がる。


「殺さずに、終わらせることもある」


その瞬間。


シンの動きが、止まった。


完全に。


走馬が、

働かなくなった。


死の未来が、

一切、見えない。


選ぶべき“最適解”が、存在しない。


私は、そこで初めて近づいた。


一歩。

二歩。


間合いに入る。


首元に、手を添える。


「――」


言葉にしようとした、その瞬間。


「面白い。だがソレは悪手だな」


声が、近い。


速い。


反応ではない。

割り込まれた。


次の瞬間、

鋭利な感触が首筋をなぞった。


刃――否。

拳に沿わせた“意図的な殺線”。


だが。


傷は、つかない。


身体強化された皮膚が、

そのすべてを拒む。


(――っ)


思考が追いつく前に、

拳が伸びる。


まっすぐ。

無駄のない軌道。


腹部を、えぐられた。


衝撃。


想像を絶する膂力。


腹と背中が、

一瞬でくっついたと錯覚する。


空気が、抜ける。


視界が、白く飛ぶ。


――意識が、途切れた。


ほんの一瞬。


地面に倒れる感覚すら、

理解が遅れる。


「……」


シンの声が、上から落ちてくる。


「走馬は“まだ使ってない”」


淡々とした口調。


「使うまでもない、が正解か」


私は、咳き込みながら起き上がる。


身体は、つながっている。

骨も、内臓も。


だが――

衝撃だけが、内部を揺さぶっている。


「しかし」


シンは、拳を軽く振った。


「よく鍛えられている体だ」


視線が、私を測る。


「たいていのやつは、真っ二つなんだがな」


嘲りはない。

事実を述べているだけだ。


私は、呼吸を整える。


(……なるほど)


(“殺さない戦い”は、通じない)


相手は、

殺す以前の強さで立っている。


走馬は、まだ見せていない。

身体強化だけで、これだ。


私は、立ち上がる。


意識は、はっきりしている。


「続ける?」


私が聞く。


シンは、初めて口角を上げた。


「当然だ」


地面が、軋む。


彼が踏み込む。


今度は――

逃げる余地がない。


この戦いは、

まだ始まったばかりだ。

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