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シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
弐乃巻:ダスト

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物品店

巨大な箱だった。


街に点在する豆腐建築と、構造そのものは変わらない。

四角く、白く、無機質。

ただし――大きさの質が違う。


一歩外から見ただけで分かる。

これは住居じゃない。


巨大なスーパー。

あるいは、かつての世界で見た家電量販店。


そんな連想が、自然と頭に浮かぶ規模だった。


「……でけぇな」


レイザーが、思わず口にする。


入口に扉はない。

中は、がらんどう。


天井が高く、

壁も床も、装飾はない。


だが――

そこいら中に、物品が置かれている。


無秩序に。

しかし、雑然とはしていない。


箱。

筒。

板状のもの。

意味がありそうで、なさそうな形。


レイザーは眉をひそめる。


「……何だ、これ」


「……」


私は、ゆっくりと周囲を見渡す。


分かるものと、分からないもの。

でも――

何となくイメージがつくものが多い。


それは、知識というより、

記憶の奥が反応している感覚だった。


その時。


「あらぁ!」


奥から、声がした。


どしん、どしん、と床を揺らす足音。

現れたのは、体の大きな女性だった。


この世界では珍しい、肥満体型。

丸い腹。

厚い腕。

だが、表情は柔らかい。


「久しぶりのお客さんだわぁ!」


彼女は、アセットによる移動など一切使わず、

自分の足でこちらへ駆け寄ってくる。


「ようこそ、物品店へ!

 私は店主のプッコよ!」


息を切らしながら、満面の笑み。


レイザーが、一瞬だけ戸惑う。


「……客、来るのか?」


「相変わらず来ないわぁ!」


即答だった。


プッコは、私の視線に気づくと、

ぱっと顔を輝かせた。


「待ってたのよぉ!」


言わんばかりに、手を引く。


「まずは、これ!」


巨大な縦長の箱。


片側を手前に開くと――

ひんやりとした空気が、流れ出した。


「これはね、“冷蔵庫”っていう物品なの」


中には、透明な容器。

水。

コップ。


「ほら、喉乾いてない?」


プッコは、水を注ぎ、

そのまま手渡してくる。


冷たい。


誰にも気づかれることなく、

私は一瞬で口内に丸薬を即興生成し、飲み込んだ。


それから、

プッコの善意と思われる水の入ったコップを口につける。


舌に触れた瞬間――

ひんやりとした感覚が、静かに広がった。


「……冷えてる」


「でしょぉ?

 美味しいでしょぉ!」


横で、レイザーが苦笑する。


「面白いだろ?」


彼は、私に向けて言った。


「料理してる俺が人のこと言えた質じゃねぇけどさ。

 アセットで冷えた水、出せばいいのに」


肩をすくめる。


「わざわざ、こんなもん作ってんだぜ?」


私は、冷蔵庫を見つめる。


(……知ってる)


これは――

元の世界では、当たり前にあった発想だ。


家電。

生活を補助するための道具。


久々に、

記憶の先にある“馴染み”に触れた気がした。


胸の奥が、少しだけ静まる。


「ほしい物品、ある?」


プッコは、次の箱を指さす。


「これなんかも、おすすめよぉ!」


四角い箱。

前面に扉。

中は空洞。


(電子レンジ……)


名前が、喉まで出かかった。


レイザーが、腕を組む。


「今さらだけどよ」


彼は、率直に聞いた。


「なんで、こんなもん作ってるんだ?

 アセット化してるんだろ。

 そもそも、必要なくねぇか?」


プッコは、一瞬だけ黙った。


それから、穏やかに笑う。


「魔法対戦中にね、

 私、光の目つぶしをくらったことがあるの」


「……」


「その時、考えちゃったの」


プッコは、冷蔵庫に手を置く。


「もし、アイズが使えなくなったら。

 もし、アセットが呼び出せなくなったら」


少しだけ、声が低くなる。


「そもそも、この力って、どうして使えるのかしらって」


管理者が教えてくれたこと。

フェムトデバイス。

便利な世界。


「でもね」


プッコは、首を振った。


「“なぜ”は、教えてくれなかった」


「もし、無くなったら。

 もし、止まったら」


そう考えた時。


「……作らずに、いられなかったの」


レイザーは、軽く笑った。


「使えなくなるわけねぇだろ」


それが、この世界の普通の反応だ。


だが。


私は、違った。


忍術は、

対策されれば使えなくなる。


何度も、何度も味わった。


だからこそ、

対策されない準備をする。


それは、忍びの心得だ。


私は、プッコを見る。


「……他にも、ある?」


その一言で。


プッコは、満面の笑みを浮かべた。


「もちろんよぉ!」


大きな体を揺らしながら、

嬉しそうに店内を案内し始める。


レイザーは、少しだけ呆れた顔で、

それでも黙ってついてきた。


物品の山。

使われない道具。

それでも残る、“考える痕跡”。


――悪くない。


私は、そう思いながら、

次の棚へと歩いた。


今は少しだけ、立ち止まってもいい。

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