表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/105

第九十三話:ミオの決断


 霊園からの帰り道、ミオが向かったのは復興のシンボルとなった探索者協会本部、その最上階だった。


 そこには、かつて「世田谷の事故物件」をミオに押し付けた鬼瓦教官や、今や協会の顔となったルナ、そして公務の合間を縫って駆けつけた九条院が待っていた。


「……折原。本当に、いいんだな?」


 鬼瓦が、いつになく真剣な、そして寂しそうな声で問いかける。机の上には、ミオが先ほどまで持っていた「特級探索者証」が置かれていた。


「はい。……私、お掃除はもう十分やりました」


 ミオは真っ直ぐに彼らを見つめた。  かつては芋ジャージを震わせ、幽霊に怯えていた少女の瞳には、迷いのない意志が宿っている。


「もちろん、もしまた世界が危なくなったら、全力でお掃除に駆けつけます。でも……今は、ただの『折原ミオ』として生きてみたいんです。師匠たちが守りたかった、この世界をちゃんと自分の足で歩いてみたいから」


「……ミオさんらしいですわ」  ルナが目尻を拭いながら微笑んだ。 「私たちは、貴方が守ったこの平和な日常を、全力で維持していきます。……だから、貴方はどうぞ、一番幸せになってくださいませ」


「ふん。まあ、妥当な判断だ」  九条院が腕を組み、窓の外の街並みを見下ろす。 「お前のような規格外がのさばっていては、僕が作る新しい法の秩序が乱れるからな。……大人しく、その辺のスーパーの特売にでもうつつを抜かしていろ」


 不遜な言い方だが、それが九条院なりの「お疲れ様」であることを、ミオはよく知っていた。


「一ノ瀬くんにも、よろしく伝えておいてね」


「ああ。あいつは今、Sランクの任務で海外だが……きっと、笑って頷くはずだ。あいつが一番、お前の幸せを願っていたからな」


 ミオは深く頭を下げ、部屋を後にした。  エレベーターを降り、ロビーに出ると、そこにはかつて自分が救った探索者たちや、ミオに憧れて門を叩いた若者たちが溢れていた。  誰も、彼女が「最強」を返上したばかりの少女だとは気づかない。    自動ドアを抜けると、夕暮れ時の街が広がっていた。  ミオは、もうカードの入っていない空のポケットを叩き、大きく伸びをした。


「……さて。今日の夕飯、何にしようかな」


 最強の探索者は、今、この瞬間に引退した。  けれど、折原ミオの「本当の物語」は、ここから始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ