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第九十一話:新たなBランク


 復興支援のボランティアも一段落し、ミオは久しぶりに探索者協会の支部へと足を運んでいた。特級探索者としての活動は休止しているが、免許の更新や細かな手続きは必要だからだ。


 ロビーの隅で、一人の少女が震えていた。  使い込まれた、けれど手入れの行き届いた安物の防具。手元には、自分の身の丈ほどもある大きな槍。


「……無理、無理だよぉ。あんな不気味な場所、一人で行けっこない……」


 少女は「Bランク」のバッジを握りしめていた。ランクとしては中堅、本来ならある程度の修羅場をくぐっているはずだ。だが、彼女が受けた依頼書を見ると、行き先は「世田谷区・旧市街の廃ビル」。かつて魔力汚染が酷かった場所で、幽霊ゴースト系の魔獣が頻出する、いわゆる「事故物件」的なポイントだった。


「……あの、大丈夫?」


 ミオは反射的に声をかけていた。昔の自分を見ているようだったからだ。


「ひゃいっ!? ……あ、えっと、ごめんなさい。私、サキって言います。Bランクに上がったばかりなんですけど……幽霊だけはどうしても怖くて……」


 サキという少女は、涙目でミオを見上げた。 「だって、幽霊って物理が効かないじゃないですか! 槍で突いてもスカッてなるし、暗いし、なんか冷たい声聞こえるし……」


 ミオは、かつて自宅の古井戸から這い出してきた三人の師匠たちを思い出し、ふふっと笑った。


「わかるよ。私も昔、古井戸が怖くて泣いてたもん。でもね、サキちゃん。幽霊だって、元を辿れば私たちと同じ『心』を持ってた存在なんだよ」


「え……?」


「物理が効かないなら、こっちの『気合』を乗せればいいの。獅子……あ、近所のおじさんが言ってたんだ。『筋肉は魂で動かせ』って。それに、ちゃんと相手の動きの法則を見れば、どんなに不気味な動きでも、必ず隙はあるよ」


 ミオはサキの槍をそっと手に取り、一瞬だけ、かつての「銀色の光」を指先に宿らせて、槍の穂先をなぞった。


「これ、おまじない。……もし本当に怖くなったら、この槍に『一緒に戦って』ってお願いしてみて。きっと、誰かが背中を押してくれるから」


 数日後。  ボロボロになりながらも、晴れやかな顔で協会に戻ってきたサキの姿があった。 「ミオさん! できました! なんか、槍が勝手に動くみたいにスッと……! 私、もう幽霊怖くないです!」


 はしゃぐサキを見送りながら、ミオは自分の掌を見つめた。   「……私、教える側になっちゃったんだね。周防さん、私のアドバイス、何点だったかな?」


 返事はない。けれど、窓から差し込む陽光が、ミオの肩を優しく叩いた気がした。    師匠たちから受け取ったものは、ただの力ではない。  誰かの背中を、そっと押してあげるための「勇気の連鎖」なのだ。

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