表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/105

第八十七話:古井戸の変異

新宿への出発を控え、ミオは最後に一度だけ、庭の古井戸の前に立った。  


かつて三人の師匠が噴き出し、ミオの運命を大きく変えた場所。

今はただ、冷たい石の縁が朝露に濡れているだけのはずだった。


 だが、ミオがその縁に手をかけた瞬間、井戸の底から地鳴りのような重低音が響いた。


「え……? まさか、また魔獣が……っ!」


 ミオは瞬時に身構えた。しかし、そこから溢れ出したのは、かつての禍々しい黒い霧ではなかった。  それは、目を開けていられないほどに純粋で、澄み渡るような純白の光だった。


「これ……霊素なの? でも、今までのとは全然違う……」


 光の柱は天を突き、折原家の庭を幻想的な白銀の世界へと変えていく。ミオはその光の奔流の中に、懐かしい「三つの波導」を感じ取った。


 獅子王の熱烈な輝き。  周防の静謐な煌めき。 影縫の底知れぬ深淵。


 それらが井戸の底で複雑に絡み合い、一つの「門」を形成していた。

ミオの脳裏に、師匠たちの生前の記憶が、断片的な映像となって流れ込んでくる。


(これは……師匠たちが生きている間に、ついに行き着けなかった「境地」……?)


 三人は生前、それぞれが最強を極めながらも、その先にある「世界のことわり」そのものを書き換える領域には届かなかった。


彼らは死してなお、ミオという器を通じて、その未踏の領域――**「神域の清掃」**の準備を整えていたのだ。


「……そっか。みんな、私にこれを見せたかったんだね」


 白光がミオの肉体に吸い込まれていく。  


かつての「完全同化」は、師匠たちの魂を無理やり繋ぎ止める「禁忌」の力だった。

しかし、今ミオの身体に馴染んでいくこの光は、師匠たちが遺した「純粋な意志の結晶」だった。


 痛みを伴うひび割れはない。  

ただ、自分の存在が世界そのものと調和していくような、絶対的な全能感。


 光が収まった時、井戸の底には、三本の小さな「苗木」のような光が静かに根を張っていた。


それは、この家がこれからも「世界の守護」の起点であり続けるという、師匠たちからの最後の贈り物だった。


「待ってて、みんな。……新宿のゴミ、全部片付けてくるから。帰ってきたら、この庭でまた、一緒にお茶しようね」


 ミオの背中から、白銀の翼のような霊素が広がる。  


彼女は一歩、地を蹴った。  その跳躍はもはや物理法則を無視し、瞬く間に新宿の空へと彼女を運んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ