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第九話:『ジャージJKの初仕事』

 探索者協会から割り当てられた初依頼は、新宿の地下に広がる「遺棄地下道」の定期清掃だった。


清掃といっても、やることは単純。


龍脈から染み出した霊素が結晶化する前に、そこに巣食う低級魔物を間引くこと。


通常、新人が数人でパーティーを組んで挑む、いわゆる「慣らし」の依頼だ。


「……暗い。カビ臭い。帰りたい」


 ミオは支給された安物のライトを片手に、水が滴る通路を歩いていた。  


本来なら三人一組が原則だが、首席合格という経歴が災いしたのか、あるいは掲示板の噂を嫌った志望者が避けたのか、ミオに同行する新人は一人もいなかった。


『お嬢さん、愚痴をこぼす暇があるなら足元に集中なさい。ここは龍脈の枝分かれ。地上の屋敷ほどではありませんが、霊素の密度が不安定です』  


周防の冷静な声が、暗闇の中で響く。


『へっ、ビビることはねえ。お前なら、こんなところのネズミ共相手に遅れは取らねえよ』  


獅子王が退屈そうに欠伸をする。


 その時だった。  


通路の奥から、複数の足音と、下卑た笑い声が聞こえてきた。


「おいおい、噂の『幽霊首席』様が一人でこんなところに来るなんて、不用心すぎやしないか?」


 現れたのは、三人の男たち。  


ライセンス証を見れば、彼らはDランク。


新人たちの収穫を奪ったり、高額な「護衛料」を要求して小銭を稼ぐ、通称『ルーキー・キラー(新人狩り)』だ。


「……何?」  ミオが立ち止まり、無機質な視線を向ける。


「首席合格の特別ボーナス、結構持ってるんだろ? 没収だよ。お前みたいなガキに大金は毒だ。……大人しく出せば、痛い思いはさせな――」


 男の言葉は、最後まで続かなかった。  


ミオの後ろに立つ影縫が、冷たく囁いたからだ。


『……ミオ、五秒やる。無力化しろ。殺すのは、まだ早い』


「……了解」


 刹那。  


ミオの姿が、男たちの視界からかき消えた。


「あ?」と間抜けた声を上げる暇さえなかった。


ミオは影縫直伝の歩法で、一瞬にして先頭の男の懐に滑り込む。  


獅子王の『魔息法』を練り上げ、強化された掌が、男の顎を、そして鳩尾を的確に突いた。


 ドゴッ、ボキッ!


 鈍い音が響き、一九〇センチ近い大男が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


「な、なんだ今の!? こいつ、速す――」  


残りの二人が武器を抜こうとするが、遅い。  


ミオは回し蹴りの要領で、一人の膝を粉砕し、もう一人の顔面に肘を叩き込んだ。



 わずか三秒。  


通路には、苦悶の声を上げることさえ許されず絶命に近い気絶をした、Dランク探索者たちが転がっていた。


「……弱い。特訓の方が、百倍きつい」


 ミオは服に付いた埃を払い、再び歩き出す。  


だが、その直後。通路の奥から、男たちの笑い声をかき消すような、異様な「咆哮」が響き渡った。


 地響きと共に現れたのは、低級ダンジョンには存在するはずのない、体長五メートルを超える巨大な魔物。  


龍脈の異常流動によって突然変異した『変異種ディザスター』だ。


『……ほう。これは面白い』  


獅子王の闘気が、ミオの背後で膨れ上がる。


『お嬢さん、初依頼のボーナスチャンスです。これの核(魔石)は、先ほどの男たちの財布より、ずっと価値がありますよ』  


周防が、まるでお買い得商品を見つけた主婦のようなトーンで言った。


 ミオは、腰に差した安物の模擬刀を抜いた。  


化け物の眼光がミオを捉え、狂暴な突進が始まる。


「……わかった。これ売って、明日は美味しいケーキ買う」


 少女は、圧倒的な巨躯を前にして、初めて「戦士」の笑みを浮かべた。


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