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第八十三話:自覚

仲間たちの温もりに触れ、一晩中泣き明かした翌朝。


ミオは腫れた目を擦りながら、鏡の前に立った。  そこには、やつれてはいるものの、どこか憑き物が落ちたような顔をした自分がいた。


「……いつまでも、なぞってるだけじゃダメなんだ」


 ミオはタンスの奥から、あの日泥だらけになった「芋ジャージ」を取り出した。


新しい服もいいけれど、今の自分には、数々の死線を共に越えてきたこの戦闘服が一番しっくりくる。


 ミオは一ノ瀬の道場へと向かった。


 道場では、一ノ瀬が一人で木刀を振るっていた。ミオの姿を認めると、彼は静かに構えを解いた。


「……ミオ先生。いい目になりましたね」


「一ノ瀬くん、お願いがあるの。私と、手合わせしてほしい」


 一ノ瀬は何も言わず、一本の木刀をミオに放り投げた。  ミオはそれを掴み、中段に構える。


「……獅子王流・剛身!」


 ミオが踏み込む。だが、一ノ瀬の鋭い刺突がミオの喉元で止まった。


「……遅い。形だけを追っています」


「くっ……周防式・魔力加速!」


 理論を組み上げ、速度を上げようとする。しかし、一ノ瀬は軽やかなステップでそれをかわし、ミオの背後に回った。


「理屈に縛られすぎて、心が置いてけぼりだ」


 何度も打ち込まれ、床に転がるミオ。息を切らしながら、彼女は気づいた。  


自分は今まで、脳内の師匠たちに「正解」を聞き、その通りに体を動かしていただけだったのだ。


「私……ずっと、師匠たちの『声』を探してた。

でも、もう聞こえないのは、当たり前なんだ。だって、もう……私の中に溶けちゃったんだから」


 ミオは立ち上がり、木刀を握り直した。  


獅子王の剛力を、知識としてではなく、自分の筋肉の「熱」として感じる。  


周防の知略を、計算としてではなく、自分の直感の「閃き」として信じる。  


影縫の隠密を、歩法としてではなく、自分の心臓の「鼓動」と重ね合わせる。


「教わったことを、思い出すんじゃない……。私が、私として、振るうんだ!」


 ミオの構えが変わった。  

それは獅子王でも周防でも影縫でもない、一人の探索者・折原ミオの構え。


「――折原流、いくよ!」


 踏み込んだ一歩は、一ノ瀬の予想を遥かに超えた速度と重さを伴っていた。  


木刀が激しくぶつかり合い、道場に乾いた音が響き渡る。一ノ瀬は驚愕に目を見開きながらも、嬉しそうに口角を上げた。


「……それです、ミオ先生。それが、あなたの力だ」


 師匠たちは、自分を助けるためにいたのではない。自分という器を完成させるための、礎となってくれたのだ。  


その「自覚」が芽生えた瞬間、ミオの体の中で眠っていた真の力が、静かに、けれど力強く拍動を始めた。

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