第七十八・一話:周防との別れ
黄金の光が空に溶け、獅子王の豪快な気配が消えた。 静まり返った精神世界で、次に周防がゆっくりとミオの前へ歩み寄った。その足元からも、静かに、しかし確実に群青色の光の粒子が立ち上っている。
「……私の番のようですね」
「周防さん……」
ミオは声を震わせ、消えゆく師匠を見つめた。 いつも理知的で、無茶な獅子王のストッパーであり、戦いでは常に最善の道を示してくれた。ミオにとって、彼は厳しくも優しい「家庭教師」であり「保護者」だった。
「ミオさん。あなたは本当に成長しました。私の構築した理論を、実戦でこれほど正確に、かつ大胆に運用できるようになるとは。……正直、驚かされましたよ」
「それは……周防さんが、私がパニックになっても、いつも隣で落ち着かせてくれたから……」
「いいえ。それはあなた自身の知性です。私は、あなたがもともと持っていた才能という名の原石を、少し磨いただけに過ぎません」
周防の霊体が、膝のあたりまで透き通り始める。彼はいつものように眼鏡を指先でクイと押し上げると、少しだけ真面目な顔をしてミオを見つめた。
「ミオさん。一つ、お願いがあります」
「……何?」
「これからのあなたの人生で、必ず困難が訪れます。理不尽なこと、答えの出ないこと。その時、どうか『考えること』を放棄しないでください」
「……うん」
「人は、考えることをやめた時、本当の意味で負けるのです。どんなに絶望的な状況でも、必ず道はあります。それを見つけるのが、知性というものです。……いいですね?」
「……分かった。私、逃げずに、ちゃんと考えるよ」
ミオの返事に、周防は満足そうに口角を上げた。
「それから……」
「……?」
「たまには、お金の管理もしてくださいね。あなたは気が緩むと、すぐに高級スイーツに散財するでしょう? 家計簿を付ける習慣を持つことを強くお勧めします」
「……バレてる」
ミオは涙を流しながら、苦笑いした。最後の最後まで、この人はミオの生活態度の心配をしている。
「ええ、全部お見通しです」
周防の霊体が、胸元まで光に溶けていく。彼は眼鏡を外し、これまで見せたことのないような、穏やかで柔らかな微笑みを浮かべた。
「ミオさん。あなたに出会えて、私は幸せでした。……孤独な私の知性に、彩りを与えてくれたのは、他ならぬあなただ」
「私も……! 周防さんに出会えて……本当に、良かった……! ありがとう……!」
「こちらこそ。では……ごきげんよう、お嬢さん」
周防は最後まで優雅に、礼儀正しく一礼をした。 その体は群青色の光の粒子となって、静かに、そして美しく霧散していった。
「周防さん……っ!」
二人の師匠が消え、光の世界はいよいよ静まり返る。 そこには最後に一人、影のように静かに佇む老人が残されていた。




