第七十五話:アルカディアとの再戦
第七十五話:最後の教え
「……馬鹿な。個を捨て、魂を一つに溶かし合わせるなど……。それはもはや、生者の選ぶ道ではない!」
アルカディアの叫びが、崩落する地下神殿に響き渡った。彼は自身の胸元を掻きむしり、そこに埋め込まれた「冥府の種」を強制的に起動させる。 彼の肉体は膨れ上がり、皮膚は黒い鱗に覆われ、もはや人間ではない異世界の理を体現する「神」に近い怪物へと変貌していく。
だが、白銀の光を纏うミオの内側では、アルカディアの変貌よりも過酷な対話が行われていた。
『お嬢さん。……「完全同化」を使ってください。そうすれば、アルカディアに勝てます』
周防の静かな、けれど逃れようのない事実を告げる声。ミオは激しく首を振った。
「でも……それをしたら、師匠たちが……!」
『ああ。俺たちは消える』
獅子王が、まるで明日の天気を話すような軽さで言った。
「そんなの嫌だ! 嫌だよ! 他に、他に方法があるはずだ!」
『……ない』
影縫の冷徹な一言が、ミオの希望を断ち切る。
「探せば……絶対にある! 私がもっと頑張れば……!」
『時間がない。このまま戦えば、いずれ出力負けして俺たちは消える。その時、お前も死ぬ。そして世界も滅ぶ。……ミオ、最善を選べ』
影縫の声に、ミオは絶望して膝をつきそうになる。
「そんな……そんなの……っ」
『ミオさん。私たちは、もう二十年前に死んだ身です。この二十年は、あなたに出会うための、おまけのようなものでした』
『そうさな、ミオ。お前と過ごした時間は、俺たちにとって最高の「おまけ」だったぜ』
『……ありがとう』
三人の師匠たちの、慈愛に満ちた声。ミオの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
「師匠たち……。行かないで、私を一人にしないで……」
『だから、私たちの最後を、あなたに託します。……あなたなら、この力を正しく使える。悲しみの連鎖を断ち切るために』
『泣くな、バカ。戦士は、泣きながら戦うもんじゃねえ』
「でも……でも……っ!」
『涙は、勝ってから流せ。……さあ、行くぞ!』
獅子王の喝が、ミオの魂を震わせた。 大切な人を失う痛み。世界を救う責任。その巨大な天秤の間で、ミオは震える拳を握りしめた。
「……いただきます。……パパ、ママ、師匠……。……最高の、……デザートだよ」
完全同化。 ミオの皮膚にはひび割れが走り、そこからまばゆい光が漏れ出す。彼女という「器」が、四人分の魂の熱量に耐えきれず、内側から崩壊を始めていた。
アルカディアは狂気に満ちた笑みを浮かべ、自身の全生命を賭した最終崩壊魔法を練り上げる。 「一緒に地獄へ来い、折原ミオ!!」
ミオの右拳に、獅子王の剛力、周防の知略、影縫の技術、そして両親から受け継いだ「封印の意志」が、一つの特異点となって凝縮される。 それは、世界を救うための「神殺し」の一撃。 そして、愛する家族のような師匠たちとの、永遠の別れへのカウントダウン。
地下最深部が、眩い純白の光に包み込まれた。




