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第七十三話:連合軍結成

 ミオが深淵へと足を踏み入れたその時、地上の「折原家跡地」は、もはやこの世の光景とは思えないほど凄惨な激戦区となっていた。


「……折原が、中で戦っている。……我々の役目は、この穴から這い出してくる不純物を、一匹たりとも外へ出さないことだ!」


 九条院の叫びが、爆音の中を突き抜ける。彼が率いる私兵部隊と、全国から命懸けで駆けつけた探索者たちが、中庭を取り囲むように円陣を組んでいた。


「がはは! 任せとけ! 嬢ちゃんが帰ってくるまで、この『筋肉の壁』はビクともしねえぜ!」  ボルグが、ボロボロになった大鍋の盾を叩いて吠える。隣には、指先から血を流しながらもバイオリンを奏で続けるヴィオラと、影のように敵の急所を刈り取るクロウの姿があった。


 そこには、かつての「ランク」や「派閥」の垣根はなかった。  芋ジャージを揺らして、誰よりも先に危険に飛び込み、誰よりも多く「お腹空いた」と笑っていた少女。彼女が救った命、彼女が示した勇気に報いるため、日本の全戦力が「世田谷」という一点に集結していた。


「……ふん。あやつも、随分と果報者だな」  剣聖ガルドが、数千の魔獣を前にして静かに刀を抜いた。 「これほど多くの者たちが、たった一人の少女のために命を捨てに来るとは」


「それだけ、先生の作るごめしが……美味しかったってことですよ!」  一ノ瀬が叫び、新技『一閃・千本桜』を放つ。桜の花びらのような斬撃が、空を覆う魔獣を次々と塵に変えていく。


「ミオさん! 信じてますから! 絶対、帰ってきてください!!」  ルナが涙を拭い、全霊を込めた『絶対領域』を展開した。


 その時、地下の深淵から、大地を揺るがすほどの巨大な衝撃波が噴き上がった。  白光。  この世のあらゆる霊素を「無」へと還す、清冽な輝き。


「……始まったか。……あやつめ、……『禁忌』を選んだか……」  ガルドが悲しげに、しかし誇らしげに目を細めた。


 地下最深部――。  ミオの周囲を、三つの大きな「魂の灯火」が渦巻いていた。  黄金、銀色、そして漆黒。   「……あ、……ぅ……」


 ミオの肉体が、光に焼かれて透け始める。四つの魂が無理やり一つの形に溶け合う苦痛は、全身の骨を砕かれるような衝撃だった。  だが、その激痛の中で、ミオは感じていた。


 背中を支える、獅子王のたくましい腕。  頭を撫でる、周防の穏やかな指先。  そっと隣で歩調を合わせる、影縫の静かな気配。


「……寂しくないよ。……寂しく、……ない……っ」


 ミオは涙を流しながら、笑った。  これが、最後。  これからは、声を聞くことはできない。喧嘩をすることも、褒めてもらうこともない。けれど、彼らは永遠にミオの一部になる。


「――四位一体クアトロ・シンクロ、……完了」


 ミオの瞳が、七色に輝く白銀へと染まる。  彼女が纏う芋ジャージは、純白の霊衣へと姿を変え、その背後には三人の師匠たちの巨大な幻影が、守護神のごとく現界した。


 石扉の最奥から、アルカディアが目を見開いて立ち上がる。 「……馬鹿な。……魂を融合させ、個を消したというのか。……そこまでして、私を……」


「……言ったでしょ。……全部まとめて、私が『ごちそうさま』するって」


 ミオの声は、三人の師匠の声が重なり合ったような、不思議な響きを湛えていた。    制限時間は、十分。  愛と別れ、そして継承を懸けた、最後の十分間が始まった。

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