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第七十話:師匠たちの消滅危機


 東京の空を埋め尽くしていた魔獣の群れが、黄金の軌跡によって次々と両断されていく。


ミオはガルドの言葉を胸に、止まれば心が壊れてしまうと分かっているかのように、一心不乱に「掃除」を続けていた。


「……次。……次は、どこ……?」


 ミオの声は低く、平坦だった。


かつての明るいトーンは消え、ただ機械的に敵を殲滅する姿には、一ノ瀬やルナでさえ声をかけるのを躊躇うほどの凄愴せいそうさが漂っていた。


 だが、限界は確実に近づいていた。  


一体の大型魔獣を殴り倒した瞬間、ミオの視界が急激に白く染まる。脳内を駆け巡っていた周防のナビゲーションが、テレビの砂嵐のように激しく乱れた。


「……あ、……ぁぁ……っ!」


 ミオは頭を抱えて地面を転がった。脳を直接針で刺されるような激痛。


それはミオの肉体の限界ではなく、彼女と繋がっている師匠たちの「存在」が、消滅の閾値を越えようとしている悲鳴だった。


『……お嬢……さん……。……聞こえ……ます、か……』


 周防の声が、風前の灯火のように揺らいでいる。


「周防さん……!? ダメ、喋らないで! 霊素を……私の魂を全部持っていっていいから、消えないで……!」


『……無理、です……。器が……もう、空っぽなのです……。ですが、……最後に、……宿題の、答えを……』


 周防は、消えゆく意識の残滓をすべて燃やし、ミオの脳内に一筋の光の経路を映し出した。それは、日本全土のゲート暴走を制御している「因果の糸」が収束する、唯一の地点。


『……全ての、……コアは、……あなたの、実家……。……折原家の、……あの古井戸の、……直下……』


「……おうち? ……あそこが、全部の始まりなの……?」


『……アルカディアは、……そこに、……潜んで、います……。……そこを、叩けば……世界は、……救え、る……』


 その言葉を最後に、周防の銀色の光がふっと消えた。同時に、ミオの右腕を支えていた獅子王の剛力も、影から背中を守っていた影縫の気配も、急速に冷たくなっていく。


「……やだ。……やだよ……。まだ行かないでよ……っ!!」


 ミオは狂ったように自分の胸を叩いた。内側にいるはずの彼らを探して、魂の奥底まで手を伸ばす。けれど、返ってくるのは虚無という名の静寂だけだった。


「……師匠……? ……筋肉師匠? ……影のじいじ? ……おっさんさん……?」


 ミオは、瓦礫の街で独り、幼子のように師匠たちの愛称を呼び続けた。  


返事はない。    震えるミオの肩に、再びガルドの手が置かれた。


「……泣くなとは言わん。だが、歩みを止めるな。……あやつらが最後に残した『答え』を、無駄にするつもりか」


「……わかってる。……わかってるよ……っ」


 ミオは立ち上がった。その足取りは重く、ジャージの裾はボロボロに引き裂かれている。  瞳からは涙が枯れず、視界は歪んだまま。  


それでも、彼女は周防が指し示した「故郷」の方角を見据えた。


「……行こう。……おうちに、……帰ろう」


 パパとママが命を懸けて守り、師匠たちがミオと出会った、あの事故物件。  そこが、すべての決着の地。    ミオは、もう声も出せなくなった師匠たちの「存在の温もり」を逃さないように、自分自身の体を強く抱きしめながら、世田谷へと向かって地を蹴った。

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