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第七話:『放課後の実力テスト』

放課後、校門を出ようとするミオの前に、三人の人影が立ちふさがった。  


中心にいるのは、剣道部の部長であり、探索者養成コースでも期待の星とされている三年生の佐々木だ。


その後ろには、取り巻きの男子生徒たちが二人、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。


「おい、折原。ちょっと面貸せよ」


 ミオは死んだような目で彼らを見上げた。 (……めんどくさい。眠い。早く帰って、井戸の様子を見なきゃいけないのに)


『お嬢さん、逃げるのは得策ではありません。ここで「格」の違いを見せつけなければ、この手の輩は何度でも湧いてきますよ』  


脳内で周防が冷静に分析する。


『がはは! いいぜ、やってやれ! ちょうど「実戦」の前のいいウォーミングアップだ!』  


獅子王が拳を鳴らす音が聞こえる。


 ミオは無言で彼らに従い、校舎裏の倉庫陰へと移動した。  


「首席合格なんて、どうせ協会の測定ミスか、親のコネだろ? お前みたいなやる気のない女が、ライセンスを手にするなんて納得いかねえんだよ」  


佐々木が模擬刀を抜き、ミオに突きつけた。


「少し痛い目を見れば、自分の身の程がわかるだろ。ほら、構えろよ」


 ミオは構えなかった。


ただ、カバンを足元に置き、制服のボタンを一つ外しただけだ。


「……構えないのか? 舐めるなよ!」  


佐々木が激昂し、鋭い踏み込みと共に模擬刀を振り下ろす。


 その瞬間、ミオの意識に影縫が重なった。


『シンクロ率、〇・五%……。ミオ、動くな。影に溶けろ』


 佐々木の視界から、ミオが「消えた」。  


いや、そこに居るはずなのに、焦点が合わない。


振り下ろされた模擬刀は、ミオの鼻先数ミリを空回りし、空を斬った。


「な……!?」


 佐々木が体勢を崩した隙に、ミオは一歩、踏み出す。  


歩くような、自然な動作。


だが、その指先は吸い込まれるように佐々木の喉元へ伸びた。


「……チェックメイト」


 ミオの指が喉仏に触れる直前で止まる。  


ただそれだけの動作。


しかし、佐々木の全身に、氷水を浴びせられたような戦慄が走った。  


ミオの瞳の奥に、数多の人間を屠ってきた「本物の暗殺者」の眼光が宿っていたからだ。


「ヒッ……!!」


 佐々木は情けない声を上げて尻餅をついた。


模擬刀がカランと音を立てて地面に転がる。  


取り巻きの二人も、ミオが放った一瞬の殺気に気圧され、腰を抜かしていた。


「……実力テスト、終わりでいい? 帰って寝たいんだけど」


 ミオは冷たく言い放つと、カバンを拾い上げ、一度も振り返ることなく校門へと歩き出した。  


背後で佐々木たちが震えながら自分たちの無力を噛み締めていることなど、彼女にはどうでもよかった。


『……ふん、合格点だ。無駄な動きが減ってきたな』  


影縫が影の中から短く呟く。


『よっしゃ! 今日の晩飯はさらに美味くなるぜ!』


 夕日に照らされたミオの影が、三人の巨人の形を成して地面に長く伸びる。  


龍脈の終着点。


そこに住まう最強の霊たちとの日々が、彼女を確実に、この世界の「ことわり」から逸脱させ始めていた。


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