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第六十七話:立ち上がる意志


 東京の空を覆う「逆さまの穴」から、絶え間なく魔獣が降り注ぐ。瓦礫の山となった新宿の路上で、ミオは涙を拭い、立ち上がった。


「……一ノ瀬くん、ルナ、九条院くん。……ありがとう。私、もう大丈夫」


 その声には、先ほどまでの震えはなかった。


だが、背後に漂う師匠たちの霊体は、刻一刻と透き通っていく。魂の供給源である「古井戸の封印」が破られたことで、彼らの存在を現世に繋ぎ止める楔が失われつつあった。


「お嬢ちゃん、湿っぽいのは似合わねえぜ」


 背後から声をかけたのは、ボロボロの着物を揺らした久我だった。彼は腰の古刀に手をかけ、空の穴を睨み据えている。


「お前の両親……折原夫婦はな、もっと絶望的な状況で笑っていた。自分たちの命が削れると知りながら、『これで娘の大好きなケーキが作れる』と冗談を抜かしながら封印を編み上げたんだ。……お前が今、諦めてどうする」


「……パパとママが、笑ってた……?」


「ああ。あの二人が守りたかったのは、封印そのものじゃない。その先にある、お前の『当たり前の日常』だ」


 久我の言葉が、ミオの心に温かな火を灯す。  


その時、ミオの腕に巻かれた通信用魔導具から、ひび割れた音声が飛び込んできた。探索者協会の鬼瓦教官からだった。


『……折原! 聞こえるか! 協会本部は現在、機能を一時停止しているが……生き残った探索者たちは、お前の合図を待っている! 日本中の支部が、お前の背中を追うと言っているんだ!』


 モニターには、各地で孤立しながらも戦い続ける探索者たちの姿が映し出される。ボルグが、ヴィオラが、そして名前も知らない多くのBランク、Cランクの若者たちが、ミオが切り拓いた勇気に報いようと必死に武器を振るっていた。


「……みんな。……待ってて。……すぐに行くから」


 ミオは、透けゆく師匠たちの気配を背中に感じながら、強く拳を握りしめた。


『……ミオ。……よく言った。……最後の一絞りまで、俺の筋肉を貸してやる。……存分に暴れろ!』  獅子王の声が、消え入りそうな震えの中で吼える。


『……お嬢さん。……各地のゲートの座標、及び最短の救助ルートを算出しました。……私の知略、使い切ってくださいね』  周防の銀色の光が、ミオの視界にデジタルマップを投影する。


『……影。……お前が往く道の、……邪魔者は、……全て刈り取る……』  影縫の冷徹な殺気が、ミオの影をさらに深く、鋭く変質させた。


「……よし。……お片付け、再開! ……世界中の魔獣を、一匹残らず『ごちそうさま』しに行くよ!」


 ミオは地面を蹴った。  一ノ瀬、ルナ、九条院がその背を追い、久我が殿しんがりを固める。


 絶望の赤に染まった東京の空に、一条の黄金の光が走り抜けた。それは崩壊の始まりではなく、最強の「掃除屋」による、苛烈なる反撃の幕開けだった。

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