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第六十二話:エリュシオン本部強襲(前編)


 新宿。かつて世界で最も多くの人間が往来した巨大迷宮のような駅のさらに下、廃棄された旧国立ダンジョン跡地。


エリュシオンの本拠地へと続く鋼鉄の扉の前に、ミオたちは立っていた。


「……始めるよ」


 ミオの合図と共に、最前線のボルグが巨大な鍋盾を構えて突進した。


「野郎ども、焼き尽くせぇ! 本物の探索者の筋肉、その身に刻んでやるぜ!」


 第一波(陽動作戦)開始。  


地上の搬入口からなだれ込んだボルグとヴィオラの部隊が、待ち構えていたエリュシオンの改造探索者部隊と激突する。


ヴィオラの奏でる『ワルキューレの騎行』が、地下通路を震わせる物理的な衝撃波となって防衛網を粉砕した。


「一ノ瀬、ルナ! 露払いは任せたわよ!」 「了解! ――一閃・千本桜!」


 一ノ瀬の剣が空を舞う。無数の斬撃が桜の花びらのように散り、改造探索者たちのセンサーを次々と斬り裂いていく。


ルナもまた、傷ついたプロたちを『絶対領域』で包み込み、完璧な後方支援を担っていた。


 その混乱を突き、ミオはクロウと共に闇へと沈んだ。


「……影縫シンクロ、四十パーセント。……気配を、消す」


 ミオの輪郭が周囲の影に溶け込む。


それはもはや隠密というレベルを超え、空間そのものから「存在」を抹消する、影縫直伝の極致。


『……お嬢さん、左に監視センサー三基。……三秒後にブラインドスポットが生まれます。そこを……今です!』


 周防の完璧なナビゲーション。


ミオとクロウの二人は、一度も戦闘音を立てることなく、警備の網をすり抜けて本部の心臓部へと肉薄する。二人の影が重なり、舞うように進む様は、まさに死神のデュエットだった。


 だが、本部最深部へと続く大扉の前に、その男は立っていた。  エリュシオン第三幹部、ネメシス。


 元A+ランク探索者。全身の皮膚を人工魔皮へと置換し、背中から生えた六本の機械腕がそれぞれ異なる魔導具を保持している。


「……来るとは思っていたが、まさかこれほど早いとはな」


 ネメシスがゆっくりと六本の腕を広げた。その瞬間、ミオの全身を猛烈な寒気が襲う。


『……気をつけろミオ! こいつの匂い……パパとママの最後の日の匂いと同じだ!』  獅子王が脳内で吠える。


「君の親は、実に粘り強かったよ。折原夫妻……。彼らの喉笛を、この腕で断ち切った時の感触、今でも覚えている」


 ミオの足元から、黄金の霊圧が噴き上がった。  静かだった影の隠密が、怒りによって「暴風」へと変わる。


「……お前が、……パパとママを」


『……お嬢さん、落ち着いて! シンクロ率が不安定です!』  周防の制止も虚しく、ミオの瞳は黄金を通り越し、紅い怒りに染まっていく。


「……許さない。……絶対、お前だけは、残さず食べてやる」


 シンクロ率、四十五パーセント――。  制御不能に近い暴力の塊が、ネメシスに向かって弾け飛んだ。


「ハハハ! 怒れ、聖杯の器よ! その怒りこそが扉を開く糧となるのだ!」


 新宿の地下深く、復讐の炎が最深部の闇を焼き払う。

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