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第五十八話:嵐の予兆


 「……私の家が、狙われてる。パパとママが守っていた、この井戸の封印を解くために。……みんな、一緒に戦ってほしい」


 実家の居間。ミオの絞り出すような言葉に、真っ先に答えたのは一ノ瀬だった。


「当然です、ミオ先生。……あなたの『お片付け』は、僕の仕事でもありますから」


 一ノ瀬は愛刀の鯉口を静かに切り、その瞳にはかつての不登校児の影など微塵もなかった。


ルナもまた、巨大な盾を床に置き、力強く頷く。


「私たち、仲間ですから! 師匠の家は、私たちの修行場キッチンでもあります!」


だが、事態は彼ら三人だけで抱えきれるものではなかった。  


ミオは先日のスタンピードで共闘したプロたちにも連絡を入れた。


「折原、お前の戦いなら、俺も加勢する。……九条院家の名にかけて、不法侵入者は重力(G)の藻屑にしてやろう」  


九条院は不敵に笑い、どこから聞いたのか駆けつけてくれた。

私に良い思い出などないだろうに律儀な生徒会長である。


結衣は「私は戦えないけど……これ、回復薬。みんなで無事に帰ってきて」とお守り代わりの小瓶を握らせた。


さらに、招集に応じたのはあの「曲者」たちだ。


  「ガキの飯の恩は、高くつくぜ。……ジャージの嬢ちゃんのキッチンを汚す奴は、俺が叩き潰す!」  


ボルグが巨大な鍋盾を担いで現れ、ヴィオラも「一応、借りはあるわね。……旋律を乱す不快な客を追い出すのは、私の得意分野よ」とバイオリンを調律する。


クロウはただ一言、「影縫の継承者を見届ける」と、天井の影に溶けた。


 しかし、ミオの心には一つの疑問が残っていた。


「……師匠。……なんで、エリュシオンの人は、今まで私を放っておいたの? ……もっと早くに来れば、簡単に井戸を奪えたはずなのに」


 その疑問に答えたのは、脳内の軍師、周防だった。


『……お嬢さん。それは「熟成」を待っていたのですよ』


「……熟成?」


『ええ。あの古井戸の封印は、折原夫妻の命を賭した術式……。強引にこじ開ければ、中の「不純物」が霧散し、彼らの望む「純度の高い門」は得られなかった。……封印を解くには、両親の血を引き、かつ「圧倒的な霊素密度」を持つ鍵……つまり、三人の師匠の力を受け継ぎ、それを肉体に馴染ませた「現在のあなた」が必要だったのです』


『……つまり、お前を泳がせていたのは、お前を「最高の開栓道具」に育てるためだったってことだ。……癪だが、あいつらの忍耐強さは、一流の料理人並みだな。俺たちすら利用されてたってことだ』  獅子王が忌々しげに吐き捨てる。


 これまでの学園生活、そしてダンジョンでの数々の死闘。それらすべてが、エリュシオンに仕組まれた「育成プログラム」の一環だった。


ミオが強くなればなるほど、封印を解くための「鍵」としての価値が高まる――。

その事実に、ミオは冷たい怒りを感じた。


「……私は、道具じゃない。……私は、……うまいもんが食べたいだけのただの高校生だよ」


 決戦の準備が始まった。  


周防の指揮下で、家の周囲には多層展開の魔法陣が敷かれ、古井戸を中心とした絶対防衛線が構築される。  


庭では獅子王による過酷な特訓が行われていた。


「……ミオ! 全身の毛穴から霊圧を噴かせろ! シンクロ率三五%……そのまま三分間、維持しろ!」


「……ううっ、……重い、けど……負けない!」


 一方、影縫の技術により、家の周囲数キロにわたる「感知結界」が張り巡らされた。


 そして、運命の深夜。  


『……来たぞ。数は……二十以上。……全員、並のAランクを凌ぐ霊素の濁りだ』  


影縫の冷徹な報告が全員の意識に響く。


 月明かりの下、芋ジャージを揺らしたミオが、庭の中央に立った。  


暗闇から、無数の紅い光――改造探索者たちの電子眼が、獲物を見据えて浮かび上がる。


「……開店時間。……お行儀の悪いお客さんは、……一列に並べて、ポイするね」


 エリュシオンの部隊が、一斉に家を包囲する。  


折原家防衛戦――地獄のディナータイムの幕が、ついに上がった。

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