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第五十五話:ミオの覚醒とプロの認識


 「ガッ、ハァッ……!」


 鈍い破砕音と共に、巨漢ボルグの体が宙を舞った。Bランク相当の大型魔獣『アイアン・ゴーレム』。



その丸太のような剛腕が、プロの誇りである『アイアン・シェフ』の防衛線を紙細工のように突き崩したのだ。


「ボルグ!」  ヴィオラの悲鳴が響く。彼女の指先は、連射し続けた魔力弦の摩擦で血に滲んでいた。


「……もう、弦が……。魔力が、空っぽよ……っ!」


 絶望が戦場を支配する。大型三体を含む第二波の群れが、蹂躙を開始しようとしたその時。


「……みんな、下がって。……火加減、間違えちゃった」


 芋ジャージの少女が、トコトコと前へ歩み出た。  一ノ瀬とルナは、阿吽の呼吸でプロたちの救護へと回る。


それが「ここから先は師匠の独壇場だ」という合図であることを、二人は誰よりも理解していた。


「おい、逃げろガキ! 死にてえのか!」  

倒れたボルグが叫ぶ。だが、ミオの耳には届かない。


『……ミオ。三割だ。……それ以上は、この場所が保たんぞ』  脳内で、獅子王の野太い声が轟く。


「……うん。……三割。……一気に、片付ける」


 刹那。  


ミオを中心に、黄金の霊圧が噴き上がった。それは光というよりは質量。


周囲の空気が一瞬で圧縮され、重力そのものが変質したかのような錯覚を周囲に与える。


 大型魔獣の一体が、本能的な恐怖に駆られて拳を振り下ろした。  


ミオはそれを避けない。ただ、小さな拳を、迎え撃つように突き出した。


「――獅子王流・崩山撃ほうざんげき


 ドォォォォォンッ!!!


 衝撃波が夜の森を白く染めた。  


大型魔獣の巨体が、まるで内部から爆発したかのように四散する。それだけではない。


一撃の余波は直線上の木々を数十本まとめてなぎ倒し、地面に巨大な陥没のシュプールを刻みつけた。


 残る二体の大型魔獣が、恐怖で動きを止める。  ミオは流れるような動作で背中の特大フライパンを抜き放ち、独楽のように回転した。


「……これは、お掃除。……ポイするね」


 影縫の歩法で死角に入り込み、獅子王の剛力で叩き伏せる。  


数分前までプロたちを死の淵に追いやっていた怪物たちが、ただの「手際のいい調理」のように、次々と沈黙していった。


「…………は?」  ボルグは、口から血を流したまま呆然と立ち尽くした。  


自分が命懸けで食い止めていた絶望を、あのジャージの少女は「掃除」でもするかのように終わらせてしまった。


「何だ……あのガキは……。人間か……?」


「あれが……新人……? 嘘よ、あんな密度の魔力、見たこともない……」  

ヴィオラの手からバイオリンの弓が滑り落ちる。


 暗闇の中から、クロウが音もなく姿を現した。


彼の隻眼は、ミオの背後に揺らめく「影」の正体を、その歴史を、冷徹に射抜いていた。


 第二波は一掃された。  


戦場に訪れたのは、勝利の歓喜ではなく、圧倒的な「個」に対する畏怖と静寂。  


ミオはふぅと短く息を吐き、芋ジャージの袖で額の汗を拭った。


「……一ノ瀬くん。……ルナ。……これでお片付け、終わり?」


「はい、師匠! 周囲の残党も、今の衝撃で逃げ出しました!」


 だが、安堵の時間は短かった。  


森の奥、不自然に揺らめく闇の中から、ゆっくりと拍手の音が響いてくる。


『……ミオ、お嬢さん。……敵です。……ただの探索者じゃありませんよ。……ひどく、冷たくて、不味そうな匂いがします』


 影縫の警告と共に、黒いローブを纏った人影が姿を現した。


「素晴らしい。実験は成功だ。……折原ミオ、君の力、確かに確認したよ」


 その男の瞳に宿る不気味な光が、ミオの平穏な日常の終わりを告げていた。

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