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第五十四話:スタンピード開始


 深夜の静寂を切り裂いたのは、地鳴りのような咆哮だった。


 『嘆きの森』の闇から溢れ出したのは、漆黒の毛並みを持つ中型魔獣「シャドウ・ウルフ」の群れ。その数、二百体以上。


「野郎ども、開店だ! 一匹も通すんじゃねえぞ!」


 最前線に躍り出たのは、巨漢ボルグ率いる『アイアン・シェフ』だ。  


ボルグは巨大な盾兼大鍋を地面に叩きつけ、突進してくる魔獣の群れを正面から受け止める。


衝撃で火花が散るが、筋肉の壁は微塵も揺るがない。


「来いよ、雑魚ども! 最高の出汁にしてやるぜ!」


 前衛が敵を固定した瞬間、後方から暴力的な旋律が響き渡る。  『エレメンタル・オーケストラ』のヴィオラがバイオリンの弓を振り抜いた。


「聴きなさい、おぞましい獣たち。――『交響曲第五番・運命』!」


 旋律と共に、大気を焦がす火柱と、闇を切り裂く雷鳴が交互に森を薙ぎ払う。


一撃で数十体の魔獣が炭化し、戦場は鮮やかな破壊の光に包まれた。


 その光景を横目に、防衛線の隙間を縫って漏れ出そうとする個体があった。


「……一ノ瀬くん、左。……ルナ、一歩前。……『余り物』が来るよ」


 ミオの静かな指示に、二人が動く。  一ノ瀬は抜刀することなく、魔獣の突進を最小限の動きで回避。


すれ違いざまに一閃――魔獣の急所である喉元だけを、文字通り「精密切断」して絶命させた。


「一匹、仕留めました!」


「次、来ます! 背中を任せてください!」  


ルナは、重装歩兵役のボルグの間に割り込むと、ミオ直伝の「衝撃透過」を発動。


ボルグですら顔をしかめる魔獣の体当たりを、柳に風と受け流し、周囲のプロたちを驚愕させた。


「……おかしい」  通信魔導具から、偵察中のクロウの低い声が響く。


「魔獣が、ただ暴走しているんじゃない。……誘導されている。まるで行軍のように、組織立って弱点を突いてくるぞ」


『……その通りです、お嬢さん。解析完了しました』  ミオの脳内で周防が眼鏡を光らせるような気配を見せる。


『これは自然発生のスタンピードではありません。地下の霊素パイプラインが強制的に書き換えられている。……何者かが、意図的にこの氾濫を引き起こしています』


「……お料理に、変な毒を混ぜた犯人がいるんだね」


 ミオが目を細めたその時、森の奥から地響きが一段と激しくなった。  


現れたのは、これまでの倍以上の体躯を持つ大型魔獣「アイアン・ゴーレム」と、Bランク相当の魔獣たちの混成部隊。


「第二波……!? 嘘だろ、大型が三体も混ざってやがる!」  ボルグの悲鳴が夜空に響く。戦線が、一気に崩壊の危機へと追い込まれた。

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