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第五十二話:『銀の招集:不遜なるプロたち』

王都ギルド本部の最上階。


そこに漂う空気は、かつてないほど刺々しかった。


Bランクダンジョン『嘆きの森』で観測された、魔獣の異常増殖――「スタンピード(大氾濫)」の予兆。事態を重く見たギルドが、招集可能なBランクパーティーを緊急召喚したのだ。


 円卓を囲むのは、いずれも一癖ある猛者たち。


「おい、冗談だろ? なんでこんな場に、おむすび齧ってるガキが混ざってんだ?」


 真っ先に声を荒らげたのは、重装歩兵団『アイアン・シェフ』のリーダー、**「鉄鍋のボルグ」**だ。


身の丈二メートルを超える巨体に、返り血を拭うことすら忘れたような傷だらけの甲冑。


彼はギルド長が差し出した資料を叩きつけた。


「昇格したての銀バッジだと? ギルドも血迷ったか! スタンピードは保育園じゃねえ。……おい、芋ジャージ! さっさと家帰ってママのミルクでも飲んでな!」


 ボルグの怒鳴り声に、優雅にバイオリンを構えた『エレメンタル・オーケストラ』のヴィオラが冷笑を浮かべる。


「あら、ボルグ。そんな野蛮な言い方はやめて差し上げて?……でも、確かに。私たちの美しい旋律に、ジャージの擦れる音が混じるのは耐え難いわね」


 壁際で気配を殺す『鴉の巣』のクロウだけは、無言でナイフを弄んでいるが、その隻眼は「足手まといなら即座に切り捨てる」と告げていた。


 一ノ瀬が屈辱に顔を歪め、ルナがミオの影に隠れて震える。


だが、ミオ本人はマイペースに最後の一口を飲み込んだ。


「……じいじ……。あの大きいおじさん、……すごい血管浮いてる。……カルシウム、足りてない?」


「あぁん!? 誰がカルシウム不足だコラァッ!!」 


 ボルグが激昂し、拳で円卓を粉砕せんばかりに叩きつける。


その瞬間、ミオの瞳から温度が消えた。


「……机を叩くのは、お行儀悪い。……それに、ボルグさん。……そんなに興奮してると、……肝臓に負担がかかって、お肉が美味しくなくなるよ」


「なんだと……っ!?」 


 ボルグが殴りかかろうと一歩踏み出した。しかし、彼は気づく。


 踏み出した足が、地面に縫い付けられたように動かない。


ミオが発した、獅子王譲りの「剛」の重圧プレッシャーが、ピンポイントでボルグの膝だけを叩き潰していたのだ。


『……ふん。躾が必要な野犬がいますね』


 周防の冷徹な声がミオの脳内に響く。


『……お嬢さん。影を使って、あの男の足元の「力」を少しだけ奪いなさい。……喧嘩っ早いのは、血の巡りが良すぎる証拠です』


 影縫のアドバイス通り、ミオの影がボルグの足元に絡みつく。


「ぐ、おぉっ……!? なんだ、この重さは……!」


「……みんな、忙しいから。……喧嘩は、あと。……魔獣を狩ったら、……お肉、焼いてあげる」


 ミオが静かに圧を解くと、ボルグはたたらを踏んで椅子に倒れ込んだ。


 ヴィオラは言葉を失い、クロウの指先がわずかに止まる。


彼らは悟った。目の前の少女は「ガキ」などではない。


規格外の師匠たちに育てられた、得体の知れない「捕食者」なのだと。


「……チッ。気に入らねえが、その度胸だけは認めてやる」


 ボルグは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、

それ以上、ミオを嘲笑う者はいなかった。


「……よし。……作戦は、『全部食べる』。……行くよ」 


 プロのプライドと、新人の異常な実力が火花を散らす中、大氾濫の森への出撃が始まった。

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