第五十一話:『ギルドの銀バッジ:不機嫌な伝説』
『黄昏の廃坑』でプロのパーティーを救出した実績は、瞬く間に探索者ギルドへと知れ渡った。
学生でありながらBランク級の変異種を無傷で仕留めた三人に対し、ギルドは異例の「Bランク昇格試験」を提示する。
合格すれば、授与されるのはプロの証である「銀バッジ」。
「……銀バッジ。……銀色だから、……スプーンの代わりになるかな」
「師匠、それは流石にもったいないですよ……。でも、これで僕たちも本当の意味で『プロ』の仲間入りですね」
一ノ瀬とルナが緊張の面持ちでギルドの奥にある特設試験場へ向かうと、そこには一人の老人が待っていた。
使い古された革鎧を纏い、腰には一本の錆びたような古剣。
だが、その佇まいは、周囲の空気をピリつかせるほどの威圧感を放っている。
「……じいじ。……強そう」
ミオが呟く。
『……ほう。お嬢さん、こいつは本物ですよ。……名は「剣聖ガルド」。かつて私と何度も拳を交えた男だ』
獅子王が珍しく、闘志を隠さずに霊体として身を乗り出す。
『……周防。解析は?』
『……不可能です。この老人の霊素、完全に「無」に等しい。……つまり、完全に内側に封じ込めている。……影縫さんと同じ、極限の隠密と武の体現者です』
老剣士ガルドは、濁った瞳をゆっくりと動かし、ミオたちを見た。
「……救援の報告は聞いた。だが、ガキの幸運だったのか、実力だったのか……。この老いぼれの木刀に、三本かすらせてみろ。それができれば、銀でも金でもくれてやる」
試験の内容は、ガルドとの模擬戦。
開始の合図もなく、ガルドが動いた。
「っ……!? 速いっ!」
一ノ瀬が抜刀するが、ガルドの木刀は既に彼の喉元寸前。ルナが間一髪で盾を差し込み、火花が散る。
「……ルナ、そのまま。……一ノ瀬くん、三歩下がって、右から『撫でるように』。……力は入れなくていい」
ミオが指示を出す。
彼女の瞳には、ガルドが放つ「無」の境地のわずかな揺らぎが見えていた。
「……じいじ、お腹空いてるでしょ。……おにぎりの匂い、わかる?」
「……何?」
ガルドの動きが、ほんの一瞬、ミオの突拍子もない言葉に戸惑った。
その隙を、ミオは見逃さなかった。
彼女は自身が繋いでいる一ノ瀬とルナのネットワークを「極小」に絞り、二人の存在感を一時的に消滅させた。
影縫から教わった、姿ではなく「因果」を消す隠密。
「――っ!?」
ガルドが気づいた時には、一ノ瀬の剣先が彼の肩に触れ、ルナの盾が彼の脇腹を掠め、そしてミオの指先が彼の古剣の鞘を「トントン」と叩いていた。
「……三本。……合格?」
静寂が試験場を支配する。
ガルドは数秒の間、呆然としていたが、やがて腹の底から笑い声を上げた。
「……カッカッカ! 参ったな。この年になって、小娘に『飯の心配』をされて集中を乱されるとは……。剛勇と知略、そして隠密……。それを混ぜて、おにぎりにしたようなガキだ」
ガルドは懐から、三つの銀色に輝くバッジを取り出し、ミオたちの手に握らせた。
「おめでとう。今日からお前さんたちはBランク探索者……『銀バッジ』だ。……だがな、ミオ。その力、あまり食べ過ぎるなよ。世界が空っぽになっちまう」
「……大丈夫。……美味しいものは、……世界中に、まだいっぱいあるから」
ミオは銀バッジを掲げ、太陽の光にかざした。
その横で、ルナと一ノ瀬は感極まった様子でバッジを抱きしめていた。
プロとしての実績、そして「真の強者」に認められた誇り。
芋ジャージの少女は、ついに学園という鳥籠を飛び出し、世界の美食(獲物)へと手を伸ばし始めた。




