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第五十話:『ジャージ姿の救世主』

学園外、不毛な岩場に口を開ける『黄昏の廃坑』。


本来はCランクの安定したダンジョンだが、突如発生した変異個体「岩食いの大蜘蛛ロック・イーター」によって、調査中の中堅パーティー『銀の風』が最下層で孤立した。


「……クソッ、魔法が通じない……! なんだあの外殻の硬さは!」


 リーダーの男が吐き捨てる。彼らはBランクに近い実力者だが、変異種が放つ、空間を歪ませるほどの粘着糸に絡め取られ、魔力も底を突きかけていた。


そこへ、救援要請を受けた「ギルドの増援」が到着する。


「お待たせしました。……救援、来たよ」


 現れたのは、芋ジャージを羽織った少女と、抜刀した美少年、そして巨大な盾を構えた少女の三人組。あまりにも場違いな姿に、プロの探索者たちは呆然とした。


「……子供? ギルドは何を考えて……っ、逃げろ! そいつはただのCランクじゃない!」


 だが、ミオは動じない。彼女の瞳には、蜘蛛の巣に捕まった獲物ではなく、別のものが見えていた。


「……一ノ瀬くん。……あの子、お腹のところが、一番柔らかそう」


「承知しました、師匠。……これだけの巨体なら、当たり判定でかそうで助かりますね」


 ルナが静かに前に出る。


彼女はもう「プリンの構え」のような奇をてらった動きはしない。


ただ、ミオから教わった「不動の重心」を意識し、一歩を踏み出す。


「……ルナ、受け止めて」


「はいっ!」


 大蜘蛛が放つ、岩石混じりの強烈な糸の奔流。プロの盾役タンクが吹き飛ばされたその一撃を、ルナは盾一枚で正面から受け止めた。


 衝撃は彼女の肉体を通り、ミオの教え通りに「足裏から地面」へと完全に逃がされる。


ルナの足元の岩盤が円状に砕け散るが、彼女自身は一ミリも動かない。


「……うそだろ。あの一撃を、あの細い腕で……?」


「……一ノ瀬くん。……殻の、継ぎ目。……影縫……じゃなくて、私が教えた『透き通る視界』で、突いて」


「――見える」


 一ノ瀬の意識が研ぎ澄まされる。


 蜘蛛が糸を吐く瞬間の、わずかな霊素の淀み。


物理無効の外殻に守られていない、魔導のバイパス。


 彼は音もなく踏み込むと、銀光一閃。


大蜘蛛の頑強な脚の関節を一瞬で断ち切った。


「ギィィィィッ!?」


 悲鳴を上げる魔獣。しかし、トドメはミオだった。


 彼女は空中を歩くように跳ねると、獅子王から受け継いだ「剛」の霊圧を右拳に集約させる。


「……素材、傷つけないように。……心臓だけ、止める」


 ドォンッ!!


 衝撃波すら発生させない、極限まで指向性を高めた一撃。


 ミオの拳が大蜘蛛の頭部を叩いた瞬間、巨大な魔獣は一瞬で全機能を停止し、その場に崩れ落ちた。


「……よし。……確保」


 救出されたプロたちは、ただ口を開けて見ていることしかできなかった。


 自分たちが死を覚悟した難敵を、この少年少女たちは「夕飯の買い物」でもするかのような手際で片付けてしまったのだ。


「……大丈夫? ……これ、予備の非常食。……おにぎり、食べる?」


 ミオが差し出したのは、いつもの特製おにぎり。


 プロの探索者たちは、その圧倒的な実力差に震えながら、泥だらけの手でおにぎりを受け取った。


(補足 一ノ瀬は元々Cランク、ルナはEランクだったので、この話の前に全員Cランクに昇格してます)

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