第四十七話:『嵐の前の一杯と、泥を塗る者たち』
Bクラスとの死闘を制し、ついに決勝戦へと駒を進めた1-C組。
ボロボロになりながらも、クラスメイトたちの顔には「自分たちでもやれる」という確かな自信が宿っていた。
「……みんな、お疲れ様。……これ、食べて」
ミオが大きな籠から取り出したのは、大量の「特製おにぎり」だった。
中身はただの具ではない。獅子王が教えた「霊素を活性化させる野草」と、周防が計算した「疲労回復に最適な塩分濃度」、そして影縫が隠し味に添えた「精神を落ち着かせる薬草」を練り込んだ、師匠たち直伝の超回復食だ。
「うまっ……!? なんだこれ、魔力が奥から湧いてくる……!」
「折原さん……君、本当におにぎり作るのだけは天才的だね」
クラスメイトたちが頬を緩ませる中、ミオの視線は遠く、Aクラスの待機テントに向けられていた。
『……お嬢さん、気をつけなさい。……あちらから、ひどく「濁った」霊素の匂いがしますよ』
周防の警告に、ミオは鼻をくんくんと動かす。
「……うん。……おこげが焦げたみたいな、嫌な匂い」
一方、Aクラスのテント内。
プライドをズタズタにされたリーダー格の生徒たちは、暗い顔で小型の魔導デバイスを弄んでいた。
「……いいか、正面からあいつらの連携を破るのは無理だ。……なら、システムの方を壊せばいい」
彼らが用意していたのは、禁忌の召喚術などではない。もっと卑劣な――**『審判システムの介入デバイス』**だった。
この模擬ダンジョンは、学生の生命維持のために「致死ダメージを検知すると自動で強制転送(離脱)させる」仕組みになっている。
彼らはそのセンサーをハッキングし、1-C組のメンバーが「かすり傷を負っただけで、致命傷と判定させて失格にする」不正プログラムを仕込もうとしていたのだ。
「ルールの中で勝てないなら、ルールを書き換えればいい。……これがエリートの戦い方だ」
決勝戦、開始のブザーが鳴り響く。
1-C組はいつものようにミオを起点としたネットワークを展開し、迷宮の最深部を目指した。
しかし、突入直後、異変が起きる。
「えっ……!? な、なんで!?」
通路の壁に腕を軽くぶつけただけのクラスメイトが、突如として青い光に包まれ、強制転送で消滅したのだ。
『警告:メンバー一名、戦闘不能。リタイアと判定します』
「……そんな。……今のは、ただの擦り傷……」
ミオが絶句する。
さらに、Aクラスの放った威力の低い「目くらまし」の光を浴びただけで、次々と委員長たちが光に包まれ、消えていく。
「卑怯だぞ! 判定がおかしい! 教官、止めてください!」
一ノ瀬が叫ぶが、観客席のモニターには「1-C組、次々と自滅」としか映らない。
審判システム自体が「正常」だと偽装されているからだ。
「……ルナ。……一ノ瀬くん。……これ、普通じゃない」
ミオの瞳から、光が消える。
彼女は、負けることよりも、仲間たちが一生懸命握ったおにぎりの力を出す前に、不当な形で排除されたことに、静かな、しかし底知れない怒りを感じていた。
「……美味しいものを、台無しにする人は、……許さない」
『がはは! いいぞミオ! 正攻法が通じねえなら、システムの枠ごと叩き壊してやれ!』
獅子王が吠える。
『……周防。ハッキングの現場突き止められますか?』
『……当然です、影縫さん。……一分。一分あれば、不正の証拠をシステムごと「物理的」に引きずり出してみせましょう』
ミオは、腰のジャージをぐいっと上げ直した。
「……ルナ、一ノ瀬くん。……ここからは、お片付け。……一秒で終わらせるから、……目、瞑ってて」
システムの「判定」すら追いつけない速度。
ミオの真の力が、ついに学園の模造迷宮を揺るがし始める。




