表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/77

第四十七話:『嵐の前の一杯と、泥を塗る者たち』

Bクラスとの死闘を制し、ついに決勝戦へと駒を進めた1-C組。


 ボロボロになりながらも、クラスメイトたちの顔には「自分たちでもやれる」という確かな自信が宿っていた。


「……みんな、お疲れ様。……これ、食べて」


 ミオが大きな籠から取り出したのは、大量の「特製おにぎり」だった。


 中身はただの具ではない。獅子王が教えた「霊素を活性化させる野草」と、周防が計算した「疲労回復に最適な塩分濃度」、そして影縫が隠し味に添えた「精神を落ち着かせる薬草」を練り込んだ、師匠たち直伝の超回復食だ。


「うまっ……!? なんだこれ、魔力が奥から湧いてくる……!」 


「折原さん……君、本当におにぎり作るのだけは天才的だね」


 クラスメイトたちが頬を緩ませる中、ミオの視線は遠く、Aクラスの待機テントに向けられていた。


『……お嬢さん、気をつけなさい。……あちらから、ひどく「濁った」霊素の匂いがしますよ』


 周防の警告に、ミオは鼻をくんくんと動かす。


「……うん。……おこげが焦げたみたいな、嫌な匂い」


 一方、Aクラスのテント内。


 プライドをズタズタにされたリーダー格の生徒たちは、暗い顔で小型の魔導デバイスを弄んでいた。


「……いいか、正面からあいつらの連携ネットワークを破るのは無理だ。……なら、システムの方を壊せばいい」


 彼らが用意していたのは、禁忌の召喚術などではない。もっと卑劣な――**『審判システムの介入デバイス』**だった。


 この模擬ダンジョンは、学生の生命維持のために「致死ダメージを検知すると自動で強制転送(離脱)させる」仕組みになっている。


彼らはそのセンサーをハッキングし、1-C組のメンバーが「かすり傷を負っただけで、致命傷と判定させて失格にする」不正プログラムを仕込もうとしていたのだ。


「ルールの中で勝てないなら、ルールを書き換えればいい。……これがエリートの戦い方だ」


 決勝戦、開始のブザーが鳴り響く。


 1-C組はいつものようにミオを起点としたネットワークを展開し、迷宮の最深部を目指した。


 しかし、突入直後、異変が起きる。


「えっ……!? な、なんで!?」


 通路の壁に腕を軽くぶつけただけのクラスメイトが、突如として青い光に包まれ、強制転送で消滅したのだ。


『警告:メンバー一名、戦闘不能。リタイアと判定します』


「……そんな。……今のは、ただの擦り傷……」


 ミオが絶句する。


さらに、Aクラスの放った威力の低い「目くらまし」の光を浴びただけで、次々と委員長たちが光に包まれ、消えていく。


「卑怯だぞ! 判定がおかしい! 教官、止めてください!」


 一ノ瀬が叫ぶが、観客席のモニターには「1-C組、次々と自滅」としか映らない。


審判システム自体が「正常」だと偽装されているからだ。


「……ルナ。……一ノ瀬くん。……これ、普通じゃない」


 ミオの瞳から、光が消える。


 彼女は、負けることよりも、仲間たちが一生懸命握ったおにぎりの力を出す前に、不当な形で排除されたことに、静かな、しかし底知れない怒りを感じていた。


「……美味しいものを、台無しにする人は、……許さない」


『がはは! いいぞミオ! 正攻法が通じねえなら、システムの枠ごと叩き壊してやれ!』


 獅子王が吠える。


『……周防。ハッキングの現場突き止められますか?』


『……当然です、影縫さん。……一分。一分あれば、不正の証拠をシステムごと「物理的」に引きずり出してみせましょう』


 ミオは、腰のジャージをぐいっと上げ直した。


「……ルナ、一ノ瀬くん。……ここからは、お片付け。……一秒で終わらせるから、……目、瞑ってて」


 システムの「判定」すら追いつけない速度。


 ミオの真の力が、ついに学園の模造迷宮を揺るがし始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ