第四十六話:『焦げ付いた作戦と、冷や汗の味』
Aクラスを圧倒し、意気揚々と迷宮の深部へ進む1-C組。
だが、次に立ち塞がったBクラスは、エリートのAクラスとは全く異なる「泥臭い戦術」のスペシャリスト集団だった。
「……あれ、おかしい。……宝箱の反応、消えた?」
ミオが眉をひそめる。周防の解析を通して全域を索敵していたはずが、突如としてノイズが走り、クラスメイトたちと繋がっていた「魔力の糸」が細く、不安定になった。
「ひ、師匠! 足元が……底なし沼に!」
ルナが悲鳴を上げる。Bクラスが仕掛けていたのは、強力な攻撃魔法ではなく、広範囲に広がる『魔力霧散』と地味な『足止めトラップ』の複合陣地だった。
「しまった、僕たちの位置が完全に割れている! 奴ら、正面から戦う気がないぞ!」
一ノ瀬が剣を振るうが、敵の姿は見えない。
暗闇から飛んでくるのは、ダメージは低いが嫌な場所に飛んでくる「煙幕」と「悪臭弾」、そしてミオのネットワークを攪乱する「偽装信号」だ。
『……お嬢さん、落ち着きなさい! 慢心です。……集団戦は、個の武力だけでは成立しない。……ネットワークの結節点を狙われています!』
脳内で周防が鋭く叱責する。
ミオは初めて、喉の奥がキュッと締まるような「焦り」を感じた。
自分が繋いでいるクラスメイトたちが、暗闇の中で孤立し始めている。
一人が罠にかかり、その不安がネットワークを通じてミオに逆流し、さらに制御を乱すという悪循環。
「……っ。……ルナ! 委員長! ……みんな、どこ!?」
「師匠! そっちは罠です! 右から来て――ああっ!」
ルナの通信が途絶える。
Bクラスのリーダーが、物陰から嘲笑う。
「『黄金の暴食』も、繋いでいる糸を一本ずつ切られれば、ただの盲目な魔王だな。お前の強すぎる魔力そのものが、クラスメイトを焼き切る毒になるんだよ!」
ミオの魔力が、焦りによって暴走を始める。
彼女の霊圧が強まれば強まるほど、まだ未熟なクラスメイトたちはその圧力に耐えきれず、自らネットワークを切断してしまう。
『……ミオ! 拳を振るうな! 力を「抜け」!』
獅子王の怒号が響く。
『……影を広げなさい。……視覚に頼るから惑わされる。……足の裏の感覚だけで、仲間の位置を探るのです』
影縫が静かに諭す。
「……はぁ、……はぁ。……落ち着け、私。……お料理は、強火だけじゃ……ダメ」
ミオは目を閉じ、暴れ馬のような魔力を、極限まで「細く、柔らかい」質へと変換した。
ネットワークを広げるのではなく、地面に潜ませる『影の根』として張り巡らす。
「……見つけた。……ルナ、そのまま……三歩下がって。一ノ瀬くん、左斜め後ろ、……一突き。……委員長たちは、今!」
ミオがギリギリのところで制御を取り戻した。
不安定な糸をあえて手放し、影の感覚で仲間の位置を把握。
バラバラになりかけたクラスメイトたちの背中を、ミオの影がそっと支え、導く。
「――閃光ッ!」
「吹き飛べぇぇっ!」
一ノ瀬の刺突が煙幕の向こうの敵を捉え、ルナの盾が地雷原を強行突破する。
Bクラスが用意していた「搦め手」が、ミオの『影の感覚』によってことごとく暴かれ、形勢は一気に逆転した。
最後は、ミオがBクラスの拠点の壁を、指先一つで「トントン」と叩き壊して決着。
「……勝利。……でも、……危なかった」
ミオは地面にへたり込んだ。
全身、冷や汗でびっしょりだ。
一歩間違えれば、自分の力でクラスメイトを再起不能にしていたかもしれない。
集団戦の本当の難しさを、ミオは骨身に染みて理解した。
「……みんな、ごめん。……次は、もっと……上手に煮込むから」
「……何言ってるんだよ、折原。……君がいたから、僕たちは最後の一歩を踏み出せたんだ」
委員長が差し出したタオルを、ミオは少し照れくさそうに受け取った。
圧倒的な力を持つ「魔王」が、初めて「リーダー」としての自覚を芽生えさせた瞬間だった。




