第四十五話:『見えない軍団:冷蔵庫のプリン作戦』
学園の広大な模擬ダンジョン「演習場エリアB」。
クラス対抗戦の幕が上がると同時に、Aクラスの『七賢人』たちは完璧な陣形を敷いていた。
「索敵班、状況を報告しろ。1-Cのゴミ共はどこだ?」
リーダーの少年が問うが、モニターを監視する魔導師たちは冷汗を流していた。
「……消えました。開始三十秒で、1-C組二十名全員の魔力反応が消失……! センサーに異常はありません。彼らは、そこに『いない』ことになっています!」
その時、ダンジョンの中央通路から、カツ、カツ、と場違いにのんびりとした足音が響いた。
暗闇から現れたのは、ミオ、一ノ瀬、ルナの三人ユニット。
ミオは歩きながら、小腹が空いたのか「うまい棒(コーンポタージュ味)」を齧っている。
「……いたぞ! 囮はあの三人だ! 他の連中を捜せ、必ずどこかに潜んでいるはず――」
「……いいえ。……みんな、ここにいるよ」
ミオがパチンと指を鳴らした。
瞬間、何もない空間から、委員長をはじめとする1-C組の生徒たちが「霧が晴れるように」姿を現した。
彼らはミオを中心に円陣を組み、奇妙なポーズ――通称『プリンの構え』――で静止していた。
「なっ……!? 全員の魔力を一本の糸に繋いで、余剰霊素を完全に相殺しているのか!? そんな芸当、Aランクの隠密専門家でも不可能だぞ!」
『……フフ。周防さんの計算通りですね。……個々の魔力は弱くとも、一つの「円環」として循環させれば、外への漏洩はゼロになります』
ミオの脳内で周防が満足げに頷く。
「……一ノ瀬くん。……切り開いて」
「了解。……前菜の時間だ」
一ノ瀬が抜刀した。
ミオから供給される「安定した魔力」によって、一ノ瀬の剣筋は以前の数倍鋭く、そして正確になっていた。
Aクラスが放つ連鎖雷撃を、彼は最小限の動きで「切り分け」、道を作る。
「……ルナ、蓋をして」
「はい、師匠! ……『鉄のまな板』、展開っ!」
ルナが前に躍り出る。彼女の盾は、物理的な衝撃を全て地面へと逃がす。
Aクラスの精鋭たちの突進は、まるで巨大な岩壁にぶつかったかのように弾き返された。
「……今。……みんな、デザートを回収して」
ミオの指示と同時に、委員長たちが再び『影の隠密』モードへと移行。
混乱するAクラスの足元を、まさに影のように通り抜け、守られていたはずの「宝箱」を次々と奪い去っていく。
「なっ、待て! 僕たちの宝箱が……! 迎撃しろ! 魔法を撃て!」
「……無駄だよ。……私がさせない」
ミオが軽く右手を振る。
その動作一つで、魔法は迎撃され、霧散してしまった。
「……ごちそうさま。……さあ、次の部屋に行こう。……まだ、お腹空いてるから」
エリート集団Aクラスが、たった数分の交戦で戦意を喪失する。
1-C組の生徒たちは、自分たちの手が届くはずのなかった「勝利」という感触に、震えながらも歓喜の声を上げた。




