第四十四話:『チーム戦の極意(と、夕飯の献立)』
掲示板での「海老バーベキュー事件」の余波が冷めぬ中、1-Cの教室には重苦しい、あるいは期待に満ちた空気が流れていた。
教壇に立った鬼瓦教官が、黒板に『クラス対抗・模擬ダンジョン攻略戦』の文字を叩きつける。
「いいか! 今度の対抗戦は、個人戦じゃねえ。……三人一組のユニットを基本とした、クラス全員の『総合力』が問われる。ダンジョン内での陣地確保と宝箱の回収数……。個人がどれだけ強くても、連携ができなきゃ地下の罠と集団魔導に飲まれて終わりだ!」
鬼瓦の鋭い視線がミオに向けられる。
「折原! お前が規格外なのは分かっている。だが、今回のルールでは『一人で無双』は敗北に直結する。背後を突かれて仲間が全滅すれば、その時点でクラスは失格だ。お前一人じゃ、絶対に勝てねえ!」
周囲の生徒たちがざわつく。
「あのジャージの死神に成績で勝てるチャンスがあるのか?」という期待だ。
昼休み。旧訓練場で「エビの残り」をつまんでいたミオたちの元に、委員長が真っ青な顔で駆け寄ってきた。
「折原! 一ノ瀬! ルナ! 作戦会議だ! 相手は『七賢人』のリーダーが率いるAクラス。あいつらは、完璧な集団戦術で僕たちを各個撃破しに来るぞ。どうすればいい……?」
ミオは海老の身を咀嚼しながら、隣に浮かぶ「理の師匠」に意識を向けた。
(……周防さん。……どうすれば、みんなで勝てる?)
『……お嬢さん。集団戦の肝は「同期」です。……今のあなたの魔力制御なら、クラス全員の魔力を一時的にあなたの「糸」で繋ぎ、巨大なネットワークを構築することが可能です』
周防の冷静な声が、ミオの脳内に勝利への数式を書き出していく。
「……わかった。……みんな、集まって」
ミオは、不安に震える1-C組のクラスメイト全員を呼び寄せた。
「……Aクラスは、教科書通りに動く。……私たちは、戦場を一つの『キッチン』にする」
「キ、キッチン……?」
「……私と一ノ瀬くん、ルナの三人は『動く壁(まな板)』。……中央を突っ切って、敵の注意を全部引きつける。……ルナ、どんな魔法が来ても、絶対に割らないで」
「はい! まな板の誇りにかけて!」
ルナが力強く盾を叩く。
「……その隙に、委員長たちは『影の隠密(調味料)』。……今から私が教える『気配の消し方』を、私の魔力を通して共有する。……戦わなくていい。……ただ、隙を突いて宝箱だけを掠め取って」
全員を修行することはできないけど、気配を消す一点に絞ればなんとかなる。
ミオはクラスメイト一人一人の肩に手を置いた。
その瞬間、周防の「理」がクラス全員の魔導回路をミオを中継点として繋ぎ合わせる。
「……いい? ……私が合図したら、みんなの存在感は消える。……冷蔵庫の奥に隠した、とっておきのプリンみたいに……誰にも見つからなくなる」
「……折原。君、たまに例えが変だけど……なんだか、いける気がしてきたよ」
委員長たちの瞳に、初めて「やる気」の火が灯った。
落ちこぼれ集団1-C。彼らは今、ジャージの魔王という「巨大な脊髄」で繋がった、一つの巨大な捕食生物へと変貌しようとしていた。
「……よし。……作戦名は、『ビュッフェ形式・全部乗せ』。……行くよ」
「「「おおおおおッ!!」」」




