表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/87

第三十九話:『不動の原石:地獄の卵修行』

特訓開始から三日。


旧訓練場の隅で、ルナは文字通り「死にかけて」いた。


 彼女が課されているのは、ミオが獅子王から伝授された基礎中の基礎。


両手に生卵を持ち、そのままの状態で、ミオが放つ強烈な威圧感プレッシャーに耐えながら「空気椅子」を維持するというものだ。


「……はぁ、……はぁ……っ!」


 ルナの全身は、自分の意志とは無関係にガクガクと震えている。


高密度の魔力が体内で暴れ、筋肉が悲鳴を上げていた。


「……ねぇ、ルナ。……無理しなくていいよ。……やめたかったら、今すぐその卵、割っちゃっていいから」


 ミオは傍らで、購買のイチゴオレを飲みながら淡々と告げた。


 その瞳に冷たさはない。


ただ、この修行の過酷さを誰よりも知っているからこその、本気のアドバイスだった。


「……探索者なんて、ならなくても生きていける。……危ないし、お腹空くし、ジャージも汚れる。……ルナは、もっと楽な道を選んでも、誰も怒らないよ」


 ミオが手を差し伸べようとした、その時だった。


「…………い、やです」


 ルナが、震える声で絞り出した。


 指先は白くなり、卵の殻が今にも砕けそうなほど力が入りそうになる。


だが、彼女はそれを超人的なコントロールで「生かして」いた。


「……私、ずっと……『無能』だって、言われてきました。……家族にも、先生にも、昨日の上級生にも……。でも、ミオ様だけは……私のことを『重すぎるだけだ』って……初めて、認めてくれた……!」


 ルナが顔を上げる。


その瞳には、かつて影縫が戦場で見た「生きたい」と願う少女のような、強烈な光が宿っていた。


「……ここで、やめたら……一生、泥の中に逆戻りです。……そんなの、死ぬより……お腹が空くより、ずっと嫌です……ッ!」


 **ドクン、**と。


 ルナの心臓が大きく脈打った。


 内にこもっていた高密度の霊素が、彼女の「根性」という熱に焼かれ、一気に全身の細胞へと浸透していく。


『……ほう。覚醒しましたね』


 周防が感心したように呟く。


『がはは! いい根性だ! ミオ、お前の目に狂いはなかったな!』


 その時、折悪しく、例の上級生たちが「取り巻き」を引き連れて戻ってきた。


「おいおい、また変な宗教ごっこか? 芋ジャージに教わって何になるんだよ、この木偶が!」


 リーダー格の男が、嫌がらせに中級魔導『爆炎の弾丸』をルナの至近距離に放った。


 爆発の衝撃と熱風がルナを襲う。


「……ルナ、避けて!」


 ミオが叫ぼうとしたが、止めた。


 ルナは、動かなかった。


 逃げず、怯えず、空気椅子の姿勢のまま、ただ「そこに在る」ことに全神経を集中させた。


 ドォォォォォン!!


 爆煙が晴れた後、上級生たちは絶句した。


 ルナは、擦り傷一つ負っていなかった。


それどころか、彼女の周囲数センチの空間が、あまりの霊素密度に「硬質化」し、炎を物理的に弾き返していたのだ。


 そして何より驚くべきは――彼女の両手の卵が、まだ割れずに残っていたこと。


「……あ。……できた」


 ルナがふらりと立ち上がり、ミオに向かって、泥だらけの顔で最高の笑顔を見せた。


「……合格。……ルナ、すごいね。……明日、お祝いで、カツサンド半分あげる」


「……はい! ありがとうございます、師匠!」


 上級生たちは、ルナから放たれる「不動の威圧感」に呑まれ、一言も発せずに逃げ出していった。


 「無能」と呼ばれた少女が、学園最強の「盾」へと脱皮した瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ