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第三十八話:『ジャージの魔王と、泥の中の原石』

学園での序列が「ジャージのミオ > 生徒会」という歪な形で固定され始めた頃。


 ミオは、購買で手に入れた最後の一つ、期間限定「特盛り海老カツバーガー」を静かに堪能できる場所を求めて、校舎の裏手に広がる旧訓練場へと足を向けていた。


 しかし、そこには先客がいた。


「おい、いつまで寝てんだよ。Eランクの『木偶でく』が」


「……っ。……返して。……それ、私の……」


 数人の上級生に囲まれ、地面に膝をついている小柄な少女がいた。名はルナ。


 このエリート学園において、魔力出力が「ゼロ」に近いという判定を受け、最も底辺の落ちこぼれとして扱われている少女だった。


「返してほしければ、魔法の一発でも撃ってみろよ。あ、無理か。魔力測定不能の無能だもんな」


 上級生が、ルナの古びたペンダント――魔力増幅器――を指先で弄び、嘲笑う。


 ミオは海老カツバーガーを口に運ぼうとした手を止め、じっとルナの「瞳」を見つめた。


『……ほう。お嬢さん、気づきましたか?』


 周防が眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせる。


『……ああ。あの娘、魔力がないんじゃない。……霊素が肉体の奥深くに「凝縮」されすぎていて、外に漏れ出していないだけだ』


『がはは! まるで昔のお前を見てるようじゃねえか、ミオ! 磨けばダイヤモンドになる、超硬度の原石だぜ!』


 獅子王が膝を打って笑う。


 ミオは、海老カツバーガーを一齧りすると、無造作に上級生たちの輪の中へと踏み込んだ。


「……ねぇ。……そのバーガー、じゃなくて、ペンダント。……返してあげて」


「あ? なんだお前――って、ジャージの死神!?」


 上級生たちは顔を引きつらせ、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。ペンダントを地面に放り捨てて。


 残されたのは、震えながらペンダントを拾い上げるルナと、バーガーを咀嚼するミオだけ。


「……あの、ありがとうございました。でも、私は本当に才能がなくて……どんなに訓練しても、魔法が出ないんです」


「……違うよ。……あんたの魔力、重すぎるだけ。……外に出すんじゃなくて、中に溜めて、固めるのが正解」


 ミオは、ルナの震える肩に、自分の「卵修行」で極めた指先をそっと置いた。


 その瞬間、ルナの体内に眠っていた「超高密度の霊素」が、ミオから流し込まれた黄金の刺激に反応し、火山の噴火前のような熱を帯びた。


『……ミオ。この少女を鍛えれば、お前の「盾」になる。……誰にも傷つけられない、絶対の守護者だ』


 影縫が影の中から予言するように囁く。


「……私、一人がいいと思ってたけど。……あんた、私と一緒に、美味しいもの食べに行く? ……その代わり、私が鍛えてあげる。……地獄だよ?」


「……えっ? 私が、……強く、なれるんですか?」


「……うん。……明日から、朝ごはん抜きで、私のジャージの洗濯と……一万回の『空気椅子』から。……いい?」


「……はい! お願いします、師匠!」


 こうして、未来の最強パーティー『黄金の食卓』のメインタンクとなる少女、ルナがミオの手によって「再構築」されることとなった。


 ミオはまだ知らない。


この出会いが、彼女をただの「強い転校生」から、真の「導き手」へと変えていくことを。

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