第四話:『場違いな少女』
国立探索者養成センター。
そこは、巨額の予算が投じられた最新鋭の訓練施設であり、これから「富と名声」を掴もうとする若者たちの熱気に包まれていた。
参加者の多くは、大学の探索者学部を卒業したエリートや、有名な道場で英才教育を受けた門下生たちだ。
高価な魔導アーマーや、職人仕込みの魔剣を携えた彼らの中で、制服姿のミオは異様だった。
「おい見ろよ、制服だぜ。記念受験か?」
「それとも、最近流行りの『事故物件系配信者』か何かか? 命知らずだな」
周囲から飛んでくる嘲笑と侮蔑の視線。
だが、ミオはそれらに反応する余裕すらなかった。 一週間の地獄修行で、彼女の意識は常に覚醒と昏睡の境界にいた。
今はただ、立っているだけで精一杯なのだ。
(……うるさい。どいつもこいつも、魔力が漏れすぎ……。周防の鑑定で見ると、中身スカスカなのに)
ミオの目には、周防から授かった『鑑定眼』により、受験生たちの「霊素の質」が筒抜けだった。
確かに彼らの魔力は大きい。
だが、それは獅子王が言うところの「垂れ流しの贅肉」だ。
練り上げられてもいないし、影縫が教える「殺気のコントロール」もできていない。
『お嬢さん、背筋を伸ばしなさい。第一印象は交渉における初期装備です。敵を威圧するのではなく、絶望させなさい』
脳内で、周防が授業を始める。
『へっ、周防の爺さんは堅苦しいんだよ。ミオ、あの受付のデカブツが持ってる模擬刀を使え。一番重いやつだ』
獅子王が、試験管が並べている装備品を指差した。
一次試験。魔力測定と基礎体力テストを、ミオは「合格ラインギリギリ」で通過した。
あえて余力を残す。
それは影縫から教わった「獲物を油断させる」ための暗殺者の定石だ。
そして二次試験――実技(模擬戦闘)が始まった。
試験会場の大型モニターに、対戦カードが表示される。
「受験番号401番、折原ミオ。対、102番、佐藤健人」
対戦相手の佐藤は、都内でも有数の「探索者エリート」として知られる大学生だった。
彼はミオの前に立つと、見せつけるように抜き身の剣を構え、皮肉な笑みを浮かべた。
「悪いね、お嬢ちゃん。ここは子供の遊び場じゃないんだ。痛い思いをする前に、自分からギブアップした方がいい」
試験官が開始の合図を告げる。
佐藤が鋭い踏み込みと共に、魔力を乗せた斬撃を放った。周囲からは「速い!」と歓声が上がる。
だが、ミオの視界では、その動きはあまりに緩慢だった。
『ミオ、三センチ左。そこが奴の「重心の死角」だ。……今だ、打て!』
獅子王の声が響く。
ミオは最小限の動きで剣をかわすと、重い模擬刀を無造作に、だが「最適」な軌道で振り抜いた。
ドンッ、と。
物理的な音以上に、重い衝撃が会場を支配した。
「……え?」
佐藤の剣が、根元からへし折れていた。
ミオの放った一撃が、佐藤の剣に纏わっていた魔力の「繋ぎ目」を完璧に断ち切り、その衝撃を柄へと伝導させたのだ。
佐藤は何が起きたか理解できず、折れた剣を持って棒立ちになっている。
ミオは彼の首筋に、静かに模擬刀の先端を突きつけた。
「……次、来るなら首を落とす。一秒で終わる、って影縫が言ってた」
その瞬間、会場の空気が凍りついた。
女子高生の口から漏れた、あまりに本物の「死」に近い言葉。
試験官たちは目を見開き、先ほどまで嘲笑っていた受験生たちは、言葉を失ってミオを見つめている。
「……勝者、折原ミオ」
試験官の震える宣言が響く中、ミオはあくびを一つした。
(あー……。これで、ライセンスもらえるかな。そしたら、美味しいもの食べて、十二時間は寝たい……)
一人の少女が、現代社会に潜む「本物の化け物」たちの知恵と力を借りて、探索者という修羅の道にその名を刻んだ。




