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第三十六話:『掃除完了(チェックアウト)』


「不遜だな。……跪け!」


 凱が右手を振り下ろすと同時に、ミオの頭上に十倍以上の重力圧が叩きつけられた。


床の石材が悲鳴を上げ、豪華な調度品がメキメキと潰れていく。


「……ん、しょ」


 だが、ミオは平然と一歩を踏み出した。  


卵修行で鍛え上げた精密な霊素循環。


彼女の体は今、内側から外側へ向かって、重力に拮抗するだけの莫大な圧力を放つ「特異点」と化していた。


「重力魔法が……効いていない!? 全員、やれ!」


 凱の号令と共に、四人のエリートが襲いかかる。


 右からは音速のレイピア、左からは魔導書から放たれる凍結の波動、背後からは双剣の死角突き。


『……ミオ。瞬きをする間に終わらせろ』  


影縫の冷徹な指揮が入る。


 ミオの姿がブレた。  


一歩。凍結の波動を紙一重で回避し、魔導書を持つ生徒の顎を掌底で跳ね上げる。  


二歩。レイピアの刺突を指先で弾き、そのまま相手の肩を掴んで、背後から迫る双剣使いに叩きつけた。


「がはっ!?」「あ、ありえない……ッ!」

 残るは会長の凱、ただ一人。



「貴様ぁぁッ!」  


凱が全魔力を振り絞り、重力を一点に凝縮した「黒い球体」を生成する。


触れれば肉体が塵となるBランク級の極大攻撃だ。


『お嬢さん、あれは私の「分解」で相殺します。……トドメは、獅子王さんに譲りましょう』


『がはは! よし、ミオ! 拳を引け! 筋肉を、魂を、一千万の重みに変えろッ!』


 ミオの右拳が、眩い黄金の光を放つ。  


凱が放った黒い重力球を、ミオは「素手」で殴りつけた。


 ドゴォォォォォォン!!


 衝撃波で生徒会室の窓ガラスが全て粉砕される。


 重力球はミオの拳によって物理的に粉砕・分解され、その勢いのままミオの拳は凱の鼻先数ミリで止まった。


 凄まじい風圧だけで、凱の金髪はボサボサになり、背後の壁には拳の形のクレーターが刻まれた。


「…………ひ、っ」  

凱の喉から、情けない悲鳴が漏れる。


「……ケーキ、ごちそうさま。……でも、私の師匠たちを馬鹿にしたら、次は当てるよ」


 ミオはゆっくりと拳を下ろすと、テーブルの上に一粒だけ残っていた「金箔入りの高級クッキー」を指で摘んだ。


「……これ、お土産にもらうね。……じゃあ、お皿洗い、頑張ってください」


 ミオが去った後の生徒会室には、壁にめり込んだエリートたちと、恐怖で腰を抜かした「学園の王」が残されるのみだった。


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