第三十五話:『生徒会の招集(お茶会)』
シミュレーターを物理的に粉砕した翌日。
ミオの元に、金文字で装飾された一枚の招待状が届いた。 『放課後、生徒会室にて茶会を催す。
編入生・折原ミオを歓迎する――生徒会長・九条院 凱』
「……茶会。……ケーキ、出るかな」
『お嬢さん、警戒してください。九条院家は国内屈指の魔導名家。その現当主の息子である凱は、若干十七歳にしてBランクに近い実力を持つと言われています。ただのお茶会であるはずがない』
周防の忠告も、ミオの食欲には届かない。
生徒会室の扉を開けると、そこは学校とは思えない豪華なサロンだった。
中央の長いテーブルには、学園を支配する「七賢人」のうち五人が座り、中央には金髪を完璧にセットした少年、九条院凱が優雅に足を組んでいた。
「よく来たね、折原さん。昨日のパフォーマンスは実に……野蛮で、刺激的だったよ」
「……こんにちは。……あの、ケーキは?」
凱が指を鳴らすと、メイド姿の探索者が、一個数千円は下らないであろう最高級のモンブランと、芳醇な香りの紅茶を運んできた。
「……! 美味しそう……いただきます」
ミオが猛然と食べ始めるのを、生徒会メンバーたちは蔑むような、あるいは観察するような目で見つめる。
「単刀直入に言おう。折原さん、君を我が生徒会の『執行官(駒)』として迎え入れたい。君のような野良の才能は、我々が正しく管理し、磨いてやる必要がある」
凱が契約書をテーブルに滑らせた。
そこには「生徒会の指示に絶対服従すること」という一文が、魔導契約の呪印と共に刻まれている。
「管理……? でも、私にはもうお師匠様がいるから、いらない」
「お師匠様? 寂れた道場の老人か、それとも想像上の幽霊か。笑わせないでくれ。君の暴力的な才能を、そんな無価値なものに預けておくのは国家的な損失だ」
凱の言葉に、ミオのフォークがピタリと止まった。
『……ほう。周防、聞こえたか? 俺たちのことが「無価値」だとよ』
獅子王の声が、怒りで低く響く。
『……ああ。私の「理」では、この無礼な少年の口を縫い合わせるのが最適解だと出ています』
周防の霊圧が、無意識に漏れ出す。
「……あの。お師匠様たちのこと、悪く言うのは、やめて。……あと、このケーキ。……栗が、ちょっと足りない」
「何……?」
ミオは最後の一口を飲み込むと、空になった皿をカチンと置いた。
「この契約書、いらない。私は自由にお金稼いで、自由にお肉食べたいから。……それじゃ、ごちそうさま」
「待て。私の招待を断って、無事でいられると思っているのか?」
凱が立ち上がると、周囲の四人が同時に武器を――レイピア、魔導書、双剣――を展開した。
生徒会室全体が、凱の得意とする「重力結界」に包まれる。
「……一千万もらっても、あんたたちの下僕にはならないよ」
ミオが立ち上がった瞬間、床に敷かれた高級なペルシャ絨毯が、彼女から放たれる圧倒的な「密度」によって、円形に沈み込んだ。
「……ケーキのお礼。……お皿洗いの代わりに、あなたたちの顔、洗ってあげる」
黄金の瞳を輝かせたミオが、生徒会室という密室で、五人のエリートを相手に「教育(掃除)」を開始する。
九条院は目を覚ますと生徒会室の荒れように驚いた。
「これを一人でか..」とつぶやくと嬉しそうに立ち上がる。
「僕もまだまだ修行不足みたいだな。折原ミオといったか、目を覚ましてくれた借りはいつか返そう」と不敵な笑みを浮かべるのだった




