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第三十三話:『ジャージの転校生』

新宿の一件から数日後。


カイトが「再起不能の重傷」として表舞台から消えた裏で、探索者協会の幹部たちは震え上がっていた。


現場に残された異常な破壊痕、そして「白銀の英雄」の回路を焼き切った謎の力。


その矛先は、当然のように一人の少女へと向けられた。


「折原ミオ。君には、国立探索者アカデミーへの編入を命ずる」


 自宅に届いたのは、黒塗りの車に乗った役人が持ってきた、断れば「要注意人物」として一生監視されるレベルの召喚状だった。


ランクCへの昇格だけでおしまいではなかったようだ。


「……無理。そんなキラキラした場所、服もないし、お腹空くだけ」


『お嬢さん、そう仰らずに。あそこは国立です。学食は全て無料、さらに特待生には月々二十万円の「調査費」が支給されます。あなたが今、カイトから回収した魔石を質に入れるよりも、はるかに効率的ですよ』


「……二十万? ……うっ。……でも、やっぱり怖い」


 悩みに悩んだミオは、協会の役人を玄関に待たせたまま、親友の結衣を近所のファミレスに呼び出した。


「……というわけで、学園に行かないと、たぶん、消される」


 ドリンクバーのメロンソーダを前に、ミオは絶望的な顔で語った。


「ちょっと待ってミオ、話が飛躍しすぎ! 国立アカデミーって、あの選ばれたエリートしか行けない、将来のSランク養成所じゃない! むしろおめでたい話でしょ!」


「……でも、私が行ったら、たぶんボロが出る。……お師匠様たちのことも、隠しきれないし。……あと、ジャージで行ったら、いじめられる」


「そこ!? ……まあ、確かに出席日数ギリギリのアンタが、いきなりエリート校ってのは不自然だけど……」


 結衣はミオの真剣な(主にお金と食事への)悩みを聞き、ため息をつきながら彼女の手を握った。


「いい? ミオ。アンタは強いくせに、自分を安売りしすぎ。その『調査費二十万』があれば、危険なことをしなくても暮らしていけるのよ?」 


「……毎週、焼肉でもいいの?」


「そう。それに、アンタが変な組織に目をつけられないためにも、国が管理する学園に籍を置くのは、ある意味『公認の隠れみの』になるわ。私が保証する、アンタは絶対にジャージのままでも、誰も文句言わせないくらい無双するから!」


 結衣の力強い(?)説得と、焼肉というパワーワード。


 ミオの中で、ついに天秤が「二十万と焼肉」の方へ大きく傾いた。


「……わかった。私、……頑張って、エリートのフリをする」


『がはは! よし、決まりだ! 結衣とかいう小娘、なかなか話がわかるじゃねえか!』


 こうして、ミオは協会の役人に「編入、承諾します」と返事をした。


 ただし、条件として「今のジャージの着用許可」と「学食のライス大盛り無料」を付け加えることを忘れなかった。


 一週間後。  


ミオは、山の手の一等地にそびえ立つ、要塞のような校門の前に立っていた。  


周囲を通る生徒たちは、誰もが高級な魔導素材で作られた紺色のブレザーを完璧に着こなしている。


その中で一人、ミオはいつもの「膝の抜けた芋ジャージ」姿だった。


「……みんな、キラキラしてる。……結衣がいなくて、寂しい」


『がはは! 何を弱気になってやがる! この学園には美味い獲物が……いや、強い奴らがゴロゴロしてるんだ。お前の「実家流」を見せつけてやれ!』  


獅子王が期待に胸を膨らませる。


 教室の扉を開けると、一瞬で私語が止まった。


教壇に立つ担任が、困惑した顔でミオを紹介する。


「えー、今日から編入することになった、折原ミオさんだ。……折原さん、何か一言」


 クラス中の視線が、ミオのジャージへと注がれる。そこには、「若獅子杯」の覇者一ノ瀬の姿や、名門道場の跡取りたちの姿もあった。


「……折原ミオです。……趣味は、貯金。特技は、……卵を割らないこと。……よろしくお願いします」


 静まり返る教室。  


一人の男子生徒が、鼻で笑いながら立ち上がった。


「先生。冗談はやめてください。ここは平均Dランク以上のエリートが集まる場所ですよ? どこの馬の骨とも知れない、そんな貧乏臭い女子高生が、僕たちと同じ空気を吸うなんて」


 冷ややかな笑いが教室に広がる。  


カイトという「偽物の壁」を超えたミオにとって、彼らの挑発は、もはや羽虫の羽音にも聞こえなかった。


『……お嬢さん。早速ですが、挨拶代わりの「掃除」が必要なようですね』  


周防の眼鏡がキラリと光る。


『……ミオ。この教室、四隅に結界の術式がある。……全力で暴れても、外にはバレないぞ』  

影縫が愉しげに囁く。


「……ねぇ。……あなたたちの服、高そうだね。……汚しちゃったら、ごめん」


 ミオが静かに一歩を踏み出した瞬間。  


教室内の重力が、ドスンと倍になった。  


笑っていた生徒たちの顔が、一瞬で青褪める。


 黄金の「死神」が、エリートたちの牙城を根底から叩き潰す学園生活が始まった。


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