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第二十八話:『師匠(バカ)の背中と、継ぐ者の覚悟』

その夜、ミオの修行はいつになく苛烈だった。


 画面越しに見た『閃光のカイト』の残影。


それに少しでも近づきたくて、ミオは体力が底を突くのも構わず、拳を振り抜き続けていた。


「……あ、は……っ。……まだ。まだ、足りない……」


 膝が笑い、視界がチカチカと火花を散らす。  


普段なら「今日はここまで」と周防が止めに入るはずだったが、今夜は三人の師匠も静かにミオを見守っていた。


『……やめときな。今のままじゃ、そいつ(カイト)の背中を焼く前に、お前が燃え尽きちまうぜ』

 ふわり、と。  


いつもは豪快に笑うだけの獅子王が、ミオの隣に並んで座った。


庭の石畳には、月明かりに照らされたミオの影と、その横にあるはずのない「巨漢の気配」が落ちている。


「……獅子王。あなたは、どうしてそんなに強かったの?」


『俺か? ……俺はな、お前みたいな才能はなかった。周防みたいに計算もできねえし、影縫みたいに器用に消えることもできねえ。ただ、後ろに守りてえ奴らがいた。それだけだ』


 獅子王の瞳が、遠い過去をなぞるように細められる。 


『かつて俺の国が魔王バカに襲われた時、俺は一番の臆病者だった。だがな、俺を「最強だ」って信じて笑ってやがる民衆の顔を見てたら、逃げ道がなくなっちまってな。……気づいたら、素手で竜の首をブチ折るまで、止まれなくなってたんだよ』


 獅子王の拳は、数多の戦いで傷だらけだったはずだ。  


彼はミオの小さく、けれど固く結ばれた拳をそっと見つめた。


『強さってのはな、ミオ。「何ができるか」じゃねえ。「何のために立ってるか」だ。あの白銀の若造カイトも、きっと何かに恋焦がれてるんじゃねえ。……何かに背中を、焼かれ続けてるのさ』


「……背中を、焼かれる……」


『ああ。お前にとって、それは金か? 叙々苑か? ……それとも、あの隣にいる小娘(結衣)か?』


 ミオは、自分の胸に手を当てた。  


今まで「報酬のため」と自分に言い聞かせてきた。


けれど、この焦燥感は、きっと。


「……私は。……誰も、失いたくない。美味しいものを、みんなで食べて笑って……その時間を、誰にも壊させたくない」


『がはは! なら合格だ! 欲張りこそが、最強への一番の近道だぜ』


 獅子王が、実体のない大きな手で、ミオの頭を乱暴に撫でるような仕草をした。  


温かさは感じない。けれど、魂の奥底が、不思議と熱くなった。


『ミオ。お前がいつかあの白銀を追い越す時、俺の「本当の奥義」を教えてやる。……それまでは、その小さな背中を、俺たちが守ってやるよ』


 ミオは深く頷き、師匠の肩を借りるようにして、静かに目を閉じた。  


翌朝、ミオの構えからは迷いが消えていた。


 そして。ついに運命が動く。  


『閃光のカイト』が、ミオの住む街のギルド支部に、重要依頼の受諾のために現れたのだ。


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