第二十四話:『制御不能の剛力』
放課後。校舎裏の旧演習場に、一台の黒いセダンが止まっていた。
中から現れたのは、探索者協会・査定部の執行官二名。
彼らはDランク上位の実力を持ち、新人の「実力詐称」や「過剰な能力値」を再測定するプロだった。
「折原ミオさん。前回の試験での施設破壊、および提出された魔石の件で、再度の適正検査を行います」
無機質な眼鏡をかけた男が、特殊合金製の防護盾を構えた。
「……また? 今日は焼きそばパン食べたから、もう帰って寝たい」
『がはは! そう言うな。お嬢さん、ちょうどいいサンドバッグだ。新しい「器」の出力を試させてもらえ』
獅子王がミオの肩を叩くような気配を見せる。
「……じゃあ、一回だけ。軽くやります」
ミオは模擬刀すら持たず、素手で構えた。
執行官の一人が、強化プラスチック製の警棒を手に、鋭い踏み込みを見せる。
Dランク上位のスピード。
一般の探索者なら、目で追うのが精一杯の動きだ。
「……遅い」
ミオの視界では、相手の動きがスローモーションのように見えていた。
影縫の「眼」と、作り変えられた神経伝達系。ミオは無意識に、相手の懐へと滑り込んだ。
『ミオ、抑えろ! 今の体で全力を使えば、そいつの命が飛ぶぞ!』
影縫の警告が飛ぶ。
(わかってる。……そっと、押すだけ)
ミオは掌を、執行官の防護盾の中央に当てた。
本人としては、カーテンを払う程度の、ごくごく軽い「押し」のつもりだった。
――ドォォォォォォン!!
凄まじい衝撃音が演習場に響き渡った。
次の瞬間、執行官の持つ厚さ十センチの特殊合金盾が、飴細工のように「くの字」に折れ曲がった。
「え……っ、が、は……っ!?」
執行官は盾ごと後方へ吹き飛び、背後のコンクリート壁を突き破って、そのまま十メートル以上先の植え込みまで転がっていった。
「…………あ」
ミオは、自分の右掌を凝視したまま固まった。
地面を見れば、ミオが踏みしめた足元の石畳が、クモの巣状に粉々に砕けている。
肉体改造されたミオの骨格と筋肉は、彼女自身の「軽く」という感覚を、物理法則を無視した「暴力」へと変換してしまっていた。
『……お嬢さん。今の「軽く」は、出力換算で以前の全霊シンクロに匹敵します。……加減の再学習が必要ですね』
周防がこめかみを押さえ、ため息をつく。
「……死んでない? あの人、死んでないよね?」
ミオが慌てて駆け寄ると、もう一人の執行官が真っ青な顔で腰を抜かしていた。
「な、なんだ今の……。盾を貫通して、衝撃波だけで壁を……。君、本当に人間か……?」
「……人間です。ただ、最近ちょっと、お肉(A5ランク)をたくさん食べたから……」
ミオの言い訳は、もはや誰の耳にも届かなかった。
この日、協会のデータベースにある折原ミオの「身体能力」の項目に、異例の注釈が書き加えられた。
『計測不能。近接格闘における接触を厳禁とする。
――推定、Cランククラス』
ミオの日常は、ますます「普通の女子高生」からかけ離れていく。




