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第二十二話:『五千万の輝きと、突きつけられた「底」』

試験の結果は、皮肉なものだった。  


地下で「呪物」と死闘を繰り広げ、施設の一部を吹き飛ばしたミオは、表向きのポイント稼ぎに参加できなかったため、公式な「試験最優秀者」の座を逃したのだ。


優勝者は、着実に魔導ドールを狩り続けた一ノ瀬となった。


 だが、そんなことはミオにとってどうでもよかった。


「ふふ……ふふふふ……」


 自宅、龍脈の屋敷。  


ミオはリビングのテーブルに置いた「虹色の魔石」を、うっとりとした目で見つめていた。


その輝きは、夕食の最高級ステーキ(また買った)の脂よりも眩しい。


「お嬢さん、いい加減になさい。よだれが出ていますよ」  

周防が呆れ顔で紅茶を差し出す。



「だって、周防。鑑定の結果……時価五千万円。五千万だよ? 最優秀者の賞金なんて、たったの三百万。……勝った。完全勝利。これで屋敷の全自動床暖房も夢じゃない……」


『がはは! お前、あの亡霊騎士に殺されかけたこと、もう忘れてんのか? 現金な奴だぜ』  


獅子王が背後で笑うが、ミオの耳には入っていない。


彼女はすでに、この大金で買うべき「お取り寄せスイーツ」のリストを脳内で構築していた。


 しかし。  


その浮かれた空気を、氷のような声が切り裂いた。


「――喜ぶのはそこまでだ、ミオ」


 影の中から現れた影縫が、これまでにない冷徹な視線をミオに突き刺した。


「……何? せっかくお祝いしてるのに」


「あの亡霊騎士。……あれがもし、Dランクではなく、真の『Cランク』として完全に顕現していたら、お前は今頃、影も残らず消えていた。……そうだろ?」


 ミオの肩が、びくりと跳ねた。  


五千万の輝きで隠していた「恐怖」が、影縫の言葉で引きずり出される。


『……左様。お嬢さん、あの勝利は我々が「直接」あなたの神経を弄り、命を前借りして出した出力です。あなたの純粋な器の力ではない』  


周防までもが、ワイングラスを置いて真剣な顔になる。


『今のままじゃ、次に「本物」が来た時、お前は俺たちのシンクロに耐えられずに内側から弾け飛ぶ。……金を持ったまま死にたいか? それとも、その金を使えるほど強くなりたいか?』


 獅子王がミオの目の前に、拳を突き出した。


「……っ。……使いたい。死にたくない」


「ならば、次の段階だ」  


影縫が不敵に笑う。


「五千万の魔石から、微量の霊素を抽出し、お前の肉体強化ブーストに使う。……ただし、肉体が作り変わる痛みは、先日の亡霊騎士との戦いの比ではないぞ」


 翌朝。  


ミオが連れてこられたのは、庭の古井戸の「底」だった。


「……ここ、暗い。水、冷たい」


『喋るな! そこで魔石の霊素を全身の毛穴から吸い込め! 肺が焼け、骨が軋むまでやめさせねえぞ!』  


獅子王の剛力による重圧。


『筋肉の動き、神経の伝達……すべてをCランク帯の速度に書き換えます』  


周防の魔力制御。


『意識を飛ばすな。飛んだらそのまま井戸の闇に呑まれるぞ』  

影縫の精神研磨。



 五千万の魔石が、ミオの目の前で淡く光り始める。  


その光がミオの肌に触れた瞬間、彼女は絶叫さえ上げられないほどの激痛に襲われた。


「あ、が……ああ……!!」


 浮かれた気分は、一瞬で消え去った。  


手に入れた大金を「使い切る権利」を得るための、地獄のアップデートが始まったのだ。


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