第十八話:『龍脈の混線と、忘れられた保管庫』
試験開始から三十分。
特区内の模擬演習場は、あちこちで爆発音と怒号が飛び交っていた。
一ノ瀬ら有望株たちが「派手な大技」で魔導ドールを仕留め、ポイントを稼ごうと躍起になっている中、ミオは一人、演習場の外縁部……地図には「調査中」と記載された古びた地下区画へと入り込んでいた。
「……あ、魔物。一、二、三……」
暗闇から飛び出してきた三体の魔導ドール。
ミオは獅子王から教わった呼吸法を維持したまま、流れるような動作で木刀を振るった。
『ミオ、無駄だ。腕の振りが大きい。手首の回転だけで「浸透」させろ』 獅子王の厳しい声。
「……こう?」
パシッ、と乾いた音が三回。
魔導ドールの核だけをピンポイントで砕き、ミオはさらに奥へと進む。
すると、不自然に壁の一部が歪んでいる場所に出た。
『……おや。お嬢さん、止まってください。ここは物理的な空間ではありませんね』
周防の鑑定が、空間の「継ぎ目」を見抜く。
『龍脈のエネルギーが逆流し、過去の特区施設が位相をズラして重なっています。いわゆる「隠し部屋」です』
「……お宝、ある?」
ミオの目が一瞬で金貨の形に変わる。
『ふん、欲深いな。だが、この奥には「濃い」のが溜まってるぜ』
影縫が不気味に囁く。
ミオが壁の「歪み」を影縫流の歩法で通り抜けると、そこは数十年前の探索者管理庁が使っていたと思われる、埃まみれの保管庫だった。
「これ……」
棚には、現代では失われた「霊素増幅剤の試作品」や、古い魔導回路が刻まれた装備品が転がっていた。中には金一封並みの価値がありそうな、純度の高い魔石の結晶まである。
「……これ、バレなきゃ私のもの?」
『形式上は特区の備品ですが、誰も存在を知らない場所です。持ち帰れば「偶然拾った」で通るでしょうね』
周防がインテリらしい悪知恵を授ける。
だが、その時。保管庫の最奥にある、厳重に封印された黒い箱がカタカタと震え出した。
『……ミオ、下がれ。そいつは「毒」だ』
獅子王の声がかつてないほど鋭くなる。
箱の隙間から漏れ出したのは、ドロリとした漆黒の霊素。
それはミオが毎日自宅の「井戸」に供物を捧げている、あの禍々しい気配によく似ていた。
龍脈の淀みから生まれた、Eランクどころか、今のミオでも処理しきれるか怪しいレベルの「呪物」が、目覚めようとしていた。
「……めんどくさい。でも、これを鎮めたら、報酬もっともらえるかな」
ミオは新品の模擬刀を構え直した。
エリートたちが表でポイントを競い合っている間に、ミオは誰も知らない地下で、この国が隠し続けてきた「禁忌」と対峙することになる。




