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第十六話:『最短のEランク昇格試験』

 武道大会での「蹂躙」から数日。


ミオは探索者協会の支部へ呼び出されていた。


通常、FランクからEランクへの昇格には半年から一年の活動実績が必要だが、特例が適用されたのだ。


「……折原ミオさん。君の実力はもはやFランクの枠に収まっていない。よって、本日付けで昇格試験への挑戦権を付与します」


 神代部長が、机の上に一通の封筒を置いた。  


「試験内容は、Eランク最上位指定ダンジョン『影の回廊』の単独踏破。……本来なら数名で挑む場所ですが、君なら一人で十分でしょう?」


「……いいですよ。ランクが上がれば、報酬の最低保証額も上がりますし」


 ミオの動機は、相変わらず極めて現実的だった。


 試験会場となる『影の回廊』は、廃校の地下に発生した特殊なダンジョンだった。  


ここは「影の魔物」が多発し、物理攻撃が効きにくいことで知られている。


多くの物理アタッカーがここで足止めを食らう、新人の登竜門だ。


 試験管や他の受験生が見守る中、ミオは新しい「黒いジャージ(叙々苑の帰りに結衣と買った)」で入り口に立った。


『お嬢さん、影の魔物は物理法則を無視します。しかし、霊素の「密度」には抗えません。……影縫さん、出番ですよ』  

周防の声。


『……ふん。ようやく、私の「本分」を教えられるな。ミオ、力を抜け。影を叩くんじゃない。お前自身が「影」より深い闇になれ』


 ダンジョン内に入ると、無数の黒い影が壁から這い出し、ミオの四肢に絡みつこうとする。  


普通の探索者ならパニックに陥り、魔力を無駄に放出して自滅する場面だ。


 だが、ミオは静かに目を閉じた。    

――影縫流・奥義『虚実一体きょじついったい』。


 次の瞬間、ミオの存在感が世界から消えた。  


物理的にはそこに立っているはずなのに、影の魔物たちはミオを「ただの空気」あるいは「自分たちよりも深い虚無」として認識し、混乱して動きを止めた。


「……そこ」


 ミオが目を開けた瞬間、影よりも速い手刀が空間を切り裂いた。  


魔力を刃に変えるのではない。相手の霊素の結びつきを、指先で「ほどく」技術。


 物理攻撃が効かないはずの影たちが、ミオが通り過ぎるたびに、まるで砂の城が崩れるようにサラサラと消滅していく。


「……うそだろ。あの子、何をしたんだ?」  


モニター越しに見ていた試験官が、戦慄を隠せずに立ち上がった。


「魔法も使わず、ただの体術で、影の核を直接破壊しているのか……!?」


 最奥のボス、Dランク相当の『影のシャドウ・キング』の前まで、ミオはわずか十分で到達した。    


巨大な影の王が咆哮し、周囲の影を吸い込んで巨大な鎌を形成する。  


だが、ミオの背後には、獅子王と影縫、そして周防の巨大な幻影が重なり合っていた。


『ミオ、合わせろ。獅子の剛、影の速、私の理――その全てを一点に』


「……これで、終わり」


 ミオが放ったのは、正拳突き。  


しかし、その一拳には、龍脈の奔流を凝縮したような圧倒的な圧力が込められていた。


 ドォォォォン!!


 衝撃波がダンジョン全体を揺らし、影の王は核ごと一瞬で蒸発した。  


 数分後。  


ミオは、汗一つかいていない顔でダンジョンの外へ出てきた。


「……昇格、いいですか? お腹空いたので帰りたいんですけど」


 神代部長は、手元の時計を見て苦笑した。


「……試験開始から十五分。史上最速のEランク昇格だ。おめでとう、折原ミオ。君の報酬口座、今からアップデートしておくよ」


 ミオは満足げに頷いた。  


また一歩、美味しい生活に近づいた。


だが、彼女がダンジョンを出た時、一人の白髪の老探索者が、ミオの影を見つめて静かに呟いた。


「……なんだあれ?3つの影が後ろについてる?……」


 その言葉は、ミオ自身の耳には届かなかった。


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