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第十二話:『蹂躙のコンテスト』

 『若獅子杯』当日。  


都立武道館は、各門下生の応援団による怒号のような声援に包まれていた。  


中央の特設リングに並ぶのは、有名道場のロゴが入った豪華な道着に身を包む、エリート候補生たちだ。


その端に、学校指定の芋ジャージ姿で、目の下に隈を作ったミオが立っていた。  


片手には、大会支給の安っぽい練習用木刀。


「おい、あれが噂の首席か? 覇気もクソもねえな」


「首席なんて所定の魔力値が高かっただけだろ。対人戦は別物だってことを教えてやるよ」


 対戦相手となる道場の後継者たちが、ミオを冷笑しながら見下ろす。  


だが、ミオの脳内は極めて静かだった。


『お嬢さん、まずは「神刀流」の若先生です。彼、右膝を古傷で庇っていますね。一秒で終わらせなさい。時間がもったいない』  


周防の冷徹な鑑定が飛ぶ。


 第一試合。  


相手は、全国大会常連の神刀流次期当主。彼は華麗な演武と共に、鋭い刺突を放った。会場が「おおっ!」と沸く。


 しかし。  


ミオは一歩も引かず、ただ半身をずらした。  


 ――影縫流・歩法『縮地』。


 観客の目には、ミオが瞬時に入れ替わったように見えた。  


ミオの手元から放たれたのは、獅子王直伝の「当てるだけ」の打撃。  


バシッ、と乾いた音が響き、神刀流の若先生は、何が起きたか理解できぬまま、白目を剥いて舞台の外まで転がっていった。


「……え?」  

審判の宣告さえ遅れるほどの、一瞬の決着。


 第二試合、第三試合……。  


剛拳会の巨漢も、魔法剣士の有望株も、結果は同じだった。  


ミオは構えすらしない。


相手が動く瞬間に、まるでその未来を知っているかのように踏み込み、その流派が一番「打たれてはいけない場所」に、木刀を置いておく。


 相手が勝手に突っ込み、勝手に倒れていく。


それは武道ですらなかった。


まるで、大人が赤子の手を捻るような、残酷なまでの「格」の差。


「な、なんだあいつ……バケモノか……!?」  


会場の騒ぎは、次第に戦慄混じりの静寂へと変わっていった。


 そして決勝戦。  


相手は、今回の大会の「顔」であり、Bランク探索者の愛弟子として知られる九州の天才少年、一ノ瀬だった。


彼は唯一、ミオの異常性に気づき、冷や汗を流しながら最高級の魔導剣を構えた。


「……君、本当にFランクかよ。師匠より怖いんだけど」


「……一千万。一千万がかかってるの」  


ミオの執念は、蓮の天才的な剣気をも飲み込んでいく。


『ミオ、最後だ。シンクロ率一〇%。……獅子王の「本物の咆哮」を見せてやれ』


 ミオの全身から、濃密な霊素が炎のように噴き出した。  


芋ジャージの袖が激しい圧力で弾け、ミオの瞳が獅子のような金色に染まる。


「――獅子王流・奥義『天割あまわり』」


 振り下ろされた木刀が、空気を真空に変えた。  


爆音と共に、一ノ瀬の放った最強の防御障壁がガラス細工のように粉砕される。


一ノ瀬は衝撃波だけで舞台の壁まで吹き飛ばされ、そのまま沈黙した。


 静まり返る武道館。  


舞台の中央に一人立つ、ジャージ姿の少女。  


彼女はゆっくりと息を吐き出すと、折れた木刀を放り投げ、審判に向かってボソッと言った。


「……優勝。……賞金、いつもらえますか?」


 この日、日本の探索者界隈に一つの激震が走った。  


どの流派にも属さず、三人の伝説を背負った「無名の死神」が、完全に覚醒した瞬間だった。


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