第九十六話:それぞれの道
月日は流れ、世界から「ゲート」の脅威は完全に消え去った。人々はかつての戦いを、歴史の一ページとして語り継ぎ、それぞれが新しい時代を歩んでいた。
かつての仲間たちも、それぞれの場所で「根」を張っていた。
「腰が高い! 剣を振るうのではない、魂を置くのだ!」 都心の外れ。一ノ瀬は実家の家業を継ぎ、自身の剣術道場を開いていた。Sランク探索者としての引退後、彼は「人を傷つける剣」ではなく「人を育てる剣」を説いていた。そのストイックな姿に憧れる門下生は後を絶たない。
「……今日はここまで。しっかり復習しておくように」 探索者協会。ルナは約束通り、教官として後進の指導にあたっていた。かつての「氷の女王」という異名は、今では「厳しくも愛に溢れた鉄の聖女」へと変わっている。彼女の教え子たちは、平和な時代においても、誰かを助けるための勇気を学び取っていた。
『……現在、復興支援予算の透明化が急務であると考えます』 テレビの中では、九条院が議員として鋭い弁を振るっていた。かつての傲慢なプライドは、今や「国民の生活を守る」という強固な使命感へと昇華されている。彼は政治の力で、二度とあのような悲劇が起きないための強靭な社会を構築しつつあった。
そして、結衣もまた。 「……できた。……タイトルは、『芋ジャージの英雄』」 彼女は、ミオと共に過ごしたあの日々を、一冊の本に書き上げた。そこには英雄としての強さだけでなく、お腹を空かせ、幽霊に怯え、それでも笑っていた一人の少女の「真実」が詰め込まれていた。
一方で、鬼瓦教官は静かに引退の日を迎えていた。 「……ふぅ。これで、俺の役目も終わりか」 彼は住み慣れた都心を離れ、田舎で小さな畑を耕しながら暮らし始めた。時折、空を眺めては「あのアホな教え子たちは、今頃どうしてるかねぇ」と、酒を片手に目を細めていた。
それぞれが、別の道を歩んでいる。 かつてのような「チーム」として集まることは少なくなった。 けれど、彼らの心の中心には、いつも変わらず「あの少女」の笑顔があった。




