第十話:『模擬刀の咆哮』
巨大な質量が、狭い地下通路を圧殺しながら迫る。
現れたのは『大土蜘蛛』。
本来、Bランク以上のパーティーでなければ相手にならない、龍脈のバグから生まれた変異種だ。
「……大きい」
ミオの呟きに、恐怖の色はない。
ただ、邪魔な障害物を前にした時のような、淡々とした響きだけがある。
『お嬢さん、安物の模擬刀では一撃で折れます。霊素を「刃」として練り、刀身を保護しなさい』
周防の指示と同時に、獅子王の熱い霊圧がミオの右腕に流れ込む。
『シンクロ率五%。……ミオ、腰を落とせ。力で叩き伏せるんじゃねえ。地球の重さを剣に乗せて叩きつけろ!』
突進してくる巨大な蜘蛛。
ミオは逃げなかった。逆に、鋭い一歩を踏み出す。
――獅子王流・一ノ太刀『地崩』。
安物の竹刀のような模擬刀が、空気を引き裂き、雷鳴のような轟音を上げた。
ドゴォォォン!!
衝撃波が通路を駆け抜け、蜘蛛の硬質な外殻を紙細工のように粉砕する。
ただの縦一閃。
しかし、それは龍脈から引き出した膨大なエネルギーを一点に凝縮した、暴力的なまでの「重力」の一撃だった。
「ギギッ……!?」
蜘蛛は悲鳴を上げる間もなく、その巨躯を地面に叩きつけられ、震えながら霧散していった。
後に残ったのは、美しく輝く巨大な「魔石」と、ミオの手に残った、半分に折れた模擬刀だけだ。
「……あ。やっぱり折れちゃった」
ミオは折れた剣を悲しそうに見つめた。これでも数千円はしたのだ。
『ははは! 派手にやったな! 模擬刀に俺の技を乗せる方が無茶なんだよ!』
獅子王が豪快に笑う。
『……悪くない。だが、今の撃ち込みなら、あとコンマ二秒早く引けたはずだ』
影縫の厳しい指摘。
ミオが大きな魔石を拾い上げ、カバンに詰め込もうとしたその時。
通路の陰から、パチ、パチ、とゆっくりとした拍手の音が響いた。
「素晴らしい。……新人(Fランク)の初仕事にしては、少しばかり過剰接待だったかな?」
現れたのは、高級そうなスーツを着こなし、眼鏡の奥で鋭い光を放つ男。
探索者協会・査定部部長の**神代**だった。
彼は、気絶している「新人狩り」の男たちと、消滅した変異種の痕跡を交互に見て、楽しそうに目を細めた。
「折原ミオさん。君の首席合格が『測定ミス』ではないかという疑念が協会内で出ていてね。……私が直々に視察させてもらったが、どうやらミスどころか、過小評価だったようだ」
ミオはカバンを抱え直し、警戒するように一歩下がる。 (……めんどくさい人が来た。これ、魔石没収されないかな)
「安心したまえ。その獲物は正当な君の報酬だ。ただ――」
神代はミオに一歩近づき、声を潜めた。
「その『力』。どこの道場とも、どの有名探索者の系統とも違う。……君、その背後に『誰』を背負っている?」
ミオの影が、一瞬だけ不自然に揺れた。
獅子王と影縫、そして周防の三人が、神代を値踏みするように見つめる。
『お嬢さん。ここは外交の時間です。……適当にはぐらかして、さっさと魔石を換金しに行きましょう』
周防が冷静に促す。
「……ただの独学です。家が龍脈の上にあるから、慣れてるだけ。……帰ってもいいですか? 眠いので」
神代は意表を突かれたように目を見開き、やがて噴き出すように笑った。
「独学、か。面白い。……いいだろう。今日のところはこれで失礼するよ。だが、君の名前は今日、協会の最優先監視リストに載ることになる。覚悟しておくといい」
神代が去った後、ミオは深いため息をついた。
「……結局、また目立っちゃった。ケーキ、二個買って帰ろう」
最強の幽霊を背負った少女の、波乱に満ちた探索者生活が、本格的に動き出そうとしていた。
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