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SCORE2:アップル・イン・ザ・スカイ Ⅲ

「長い長い!最長の9000字だぜ?!」コールはただ純粋に文量に苦言を呈した。

「何文字あるか聞くか?」

「だから何だ?」

「あと14万字だ。」

「」彼は黙り込んでしまった。

「艦長、本当にそれで良かったのでしょうか?」スズキ中佐はそう言ったが、大佐は黙ったままだった。

 移民管理局から彼を連れ出して出てくる直前、玄関に二人の女性が立っていた。一人は三〇前半で、もう一人は・・・たったの五歳前後に見えた。


「パパ!」その少女はこう言った。おそらく、操縦士の娘さんだろうか。

「大丈夫。すぐ戻ってくるから。」そう言いはしたものの、目には覚悟の炎が浮かび上がっていた。これから死にに行くような目つきだった。もしかしたら彼女は悟っているかもしれない。最期になるんじゃないかということを。


 何なら今最後にしてやろうか、と言おうと思ったが、流石にこれはジョークとして口にするにはあまりにも度し難い。そうローゼンバーグは思った。


「あなた・・・」本気で心配していた。・・・そう疑われても仕方ないかもしれないが。

「ああ、大丈夫だ。大丈夫、大丈夫・・・。」


「心配しなくて大丈夫です。この人はものの二、三時間ですぐに帰ってきますよ。もし三時間オーバーしたら、この人がキャンディーを一時間につき一ダース買ってくれるそうですよ。」ローゼンバーグはスズキ中佐を指さしていたずらっぽく、その子供の顔を見ながら微笑んで言った。いつもの偽スマイルで。

「ちょっと!私は・・・」そう言いかけたが、少し彼女らの表情が穏やかになっていった。自分が「キツネ」に居たころには決して見られなかった子供の笑顔だった。


 しかし、中佐は少し困っていた。今は五時を回っていて、定時で帰れるのは午後六時。あと一時間しかなく、上司による強制的な残業(おそらく時間はかかりそう)に加え、なぜか自分がキャンディーを何ダースも買わなくちゃいけないのか、理解できなかった。

 そうして、ある意味衝撃的な出来事はゆっくりと始まっていった。




 一〇年前からアークへシス宇宙連邦国と南宙独立自治連盟、通称ノクタリスとの戦争は始まっていた。元から経済的な格差がこの二つの陣営にあり、ノクタリスがそれに耐えきれなくなって行動に出たというものになっている。だが、「戦争をしたいがために富国強兵政策を推し進めていた」という意見もある。


 実際のところ、その情報の真偽を知り得るものは存在しなかった。

 ただ分かっていることは一つ。今現在のアークへシスの所有するコロニーは一二五、ノクタリスは一六三。約一・三倍のコロニーの数。明らかに形勢不利な状態にアークへシス側は陥っていた。


 だがしかし、今は〈ウェンディエゴ〉などの新型機の活躍によって膠着状態が続いているといった印象である。〈リンガード宙域戦線〉を境に大多数による戦闘は見受けられず、せいぜいあるとしたら突発的な軍事衝突だった。「対デブリ防衛団」という名前もほぼ最近では本職が軍事活動ではなくなって、その名の通りの働きを担っていた。


 また、このコロニー〈チェルカトーレ〉は他のアークへシスのコロニーよりも前線に近いが、突発的と言っても最近では二月に一、二回程度であった。戦争といっても、常に大規模な戦闘が起こり続けているのではなく、どちらの陣営も()()を読んでいるかに見える。ワープの技術が進歩しているとはいえ、そのためレベッカが「暇」と言っていたのも伺える。




 そうこうしているうちに、彼らは軍の本部の施設へと入っていった。コロニーの一番端の港口に近く、円の中央部分は無重力状態になっている。

 半径三キロのエレベーターを上がってたどり着いたのは軍の本部というよりも旧地球圏の国際空港のそれに近かった。人が多いとそう見える。


 大港口はコロニーの反対側の端にもう一つあるのだが、こことは違って一般人用。それでも、どちらも施設としては充実しているという点においては変わりなかった。

 人感センサーに反応して動き出すベルトコンベア状に動く手すりが回り始め、彼らはそれに捕まってこう言った。


「ところで、何か月間逃げ回っていたのですか?」ローゼンバーグ大佐はこう言った。

「三か月です。かなり水と食料を積んではいたのですが、何せ一三〇人も乗客が居たものですから・・・。」

「三か月?!」さすがに驚きを隠せなかった。

「ワープは使わなかったのですか?」

「ええ。ワープなんてものを使ってしまったら気づかれます。民間用ですよ?ワープの範囲がセンサーのそれを上回らないものですから。それならいっそ、デブリ回避用センサーだけをオンエアにして三か月間慣性飛行で耐えきる方がマシです。」


「参考になりそうな、そうでなさそうな・・・。」スズキ中佐が珍しくこのことに口を挟んだ。

「これでも輸送歴二〇年です。一四の時から手に握っていたのは、ペンではなくコントロール・パネルでしたから。」懐かしむかのような表情でこう言った。愛着のあった船から脱出してからこんな表情だった。


 こうして三人は軍本部の受付の前までたどり着いた。受付嬢の人は静かにこう言った。

「ご用件は何でしょうか。・・・て、なんで大佐が一般人を連れ出してきているので?」見知っているかのような呆れた声だった。容姿はきれいでも、・・・まあ、「レベッカと性格が似ている」とでも言うべきだろうか。

「聞きたいことがあるからに決まっているじゃないか。それよりも今夜は・・・」

「今夜は予定がありますので。」一蹴されたのであった。

「悪かったね、こんなおっさんで。でもね、実際に言おうとしたのはそんな物じゃない。スズキ准将に『今戻った』て、伝えてほしい。情報提供者を連れて、ね。」

「分かりました。しばらくお待ちください。」と、受付嬢は答えた。


 しばらく時間がかかるということなので、売店で買ったコーヒーを一杯、全員が飲み終えたその時、呼び出された。そして、准将の居る事務室へと向かっていった。

 操縦士―本名はハビエル・ロメロ。彼がスパイだという疑惑もあるものの、金属探知機に引っかからず、かといってエックス線検査からも異常物質は検出されなかった。

 准将という階級にこれから会わせるからには暗殺予防の護衛をあと何人か追加でつける必要があるのではと思うが、どうもあの惨劇を見る限り演技とも思えなかった。




「誤解を避けるために、最初にここに記しておく。ロメロは完全にとはいえないまでも白だった。少なくとも軍の輸送を担当していたとは言うものの、裏では亡命者の輸送を手引きしていた輸送会社に居たという。だが、当時のノクタリスのスパイがそれを利用してアークへシス内にたくさんのスパイを送り込んでいたのは戦後初めて知ったことだった。だが、ロメロ達がこの船で逃げ出したのは、彼らの社長の息子が反政府勢力と密接に関わっていて、それを口実に社内の従業員とその家族を次々と強制収容所へと収容したという情報を掴んでからだった。」とスズキ中佐は後年、自伝こうに記している。

 そして、可哀そうなことにロメロはその後四年近くに渡って疑われ続けることになる。この時は誰も彼がほぼ一〇〇パーセント無罪という事実にはたどり着いていなかった。




「これが、軍人のオフィス・・・。」ロメロはこう言った。ノクタリスに居た頃、軍の施設には何度か仕事上出入りしたものの、将官のオフィスにまで入るのは初めてだった。ましてノクタリスに居た頃にはお目にかかれなかった連邦国の軍人の、である。


 銃を肩に下げて扉の前に居る護衛らしき人物と幾らか会話した後、中佐はこう言った。

「スズキ中佐、ローゼンバーグ大佐、入ります。」

「どうぞー。」と、奥から声がした。扉を開くと、そこには机に脚を載せてコーヒーを啜りながらグラビア誌を読んでいるこの当の本人がスズキ・ソウマ准将である。


 白髪が完全に進行してまるで白ではなく銀色に近かった。染めてはいなく地毛である。まるで()()()()()()()()()()でもしていそうな雰囲気のこの男が、スズキ・ヨシユキ中佐の父親である。年齢は五八。

 彼はよく実の一人息子に対して、

「彼女はできたのか?俺がお前の頃にはもうお前ができていたんだぞ。」と、皮肉交じりに言うのだった。彼に言わせてみれば、「自分の息子だ。顔はシワさえ見逃せば悪くはないだろうに」、だそうだ。


 そういう本人が一番この場においては、シワが深く誰よりも老けて見えるのは事実。

 ロメロは、正直この空間がカオスでならなかった。さっきまで身構えていたのは何だったのか。軍人らしからぬ気さくな挨拶といい、片手に持っているかなり「きわどい」グラビア誌が、その意外性を高めていた。今、この場において、副官はいないのだろうか。席を外していたりして。それとも護衛として外に立たせている人が・・・?


 それに道中、ローゼンバーグにこう言われたことが気にかかっていた。

「スズキ中佐は変人だが、准将はもっと変人だから、一応は何を聞かれてもいいように気を付けた方がいい。というより、自分も怖い。何を聞かれるのかたまったもんじゃない。『シンデリアの新しく入ってきたねーちゃんたち、どんな味だったか?』と聞くんだ。私自身も行かないのにどうしてそんなことを聞くのだろう、ってね。」

 軍人なのに頭を下げてお詫びをする変わった人にここまで言わせる人だ。きっとかなりヤバイ人間に違いない、と思った。「シンデリア」がどういうものなのか、妻帯者の自分には無縁だが。疑われている以上に居心地が良いとは言えない。


「副官のナターシャはどうなさったのです?」大佐は言った。

「あいつインフルで寝込んでいるだけで問題ない、気にするな。明後日には復帰するだろうよ。それと。」間を置いてまた独特な語り口調で続けた。


「で、何を持ってきたんだい?戦艦の情報?未発見の衛星?・・・クローン人間だったら嫌だなあ。さ、座ってくれ。」相変わらずグラビア誌を持ちながら、スズキ准将は彼らの目の前にあるソファに座るよう指示した。

「さて。一応はヨシユキ経由で大佐、君が何を予想しているのか分かっている。だが、本人に聞かないとただの憶測でしかなくなる。だから、君を連れて来た、ロメロ君。・・・いや、報告書によると君がここで話したいと言ってきたな。まあ、それはどうでもいい。」間をおいて話した。


「『リンゴ』の存在を知りたい。君たちの船のブラックボックスを回収したが、どうも損傷が激しくて。ビームの直撃すれすれだったのと、爆風で外側はかなりボロボロで内部まで衝撃が達しているからな。歓声が起こったのは出航六〇日後。音声データは生きているが肝心の航路との照合が掴みづらい。」一休止置いた後また続けて、


「おおよその航路の軌道は分かっているが、細かい軌道の微調整はどうも紛失しているようで、その音声データから予測するしか手はない。少し逸れるが、一体どうしてこんなルートを通って行った?ワープで一直線に言ったら楽だろう。」

「ワープを使っていたら彼らに追いつかれてしまいます。ノクタリスの民間用の船は軍用よりもワープの範囲が小さいのです。統制してる、とでも言いましょうか。現に彼らの追撃を逃れられたのも、レーダーを極力消して、慣性飛行で楕円状に遠回りして進んでいたからです。『もうたどり着いただろう』と思わせることで諦めさせたのです。」


「成程、策士もびっくりの案だな。でも結局別の作戦で追撃されてしまったわけだ。別の部隊だったか?」

「はい、前は五隻で今回は二〇隻。その時のデータが音声にもあるはずです。」

 確かに、最初の部分で乗員が半ばパニックになりつつも逃げていた様子が伺える。それに、スパイだったらわざわざカールたち(准将は「悪ガキ」と呼んでいる)の目の前で撃ち落とすこともしないだろう。


「なら次。楕円状で飛んでいるとき、地球から半径二〇光年よりも外側の部分、エネルギー中継地点等の整備の進んでいない未開地域を進んでいた。当たっているか?」

「ええ。食料や燃料がほぼ底を尽きて、飲み水でさえ燃料タンクに回した位で。」やはりスパイというにはリスクがありすぎる。それとも・・・いや、これもまた憶測でしかない。


「へっくしょん!」

「おいおい、風邪か?・・・来るぞ!」臨時休暇を終えて勘を取り戻すために、マーシャル6のシミュレーション部屋の中で、マイク越しで話しているカールとレベッカだった。彼女はきっと寝るときに冷えたのだろう。そこがカールにとって勝機となるだろう、とカール自身は考えていた。

「もう、今日のレベルⅧの難易度、高くない?」

「飲みすぎだバカヤロー。」再現されたコントロール・バーを握って、バーニアの角度を調節しながらこう言った。

「あんたは自分で金出して二本も飲んで。あんたの方がよっぽどよ!」また二機撃墜したレベッカがぼやいた。

「へっ!まだまだだな!僕はもう二一機だぜぇ!ほーらよ!逃げの僕がどうして追う方のお前より撃墜できるかって?そりゃあ・・・」


「ド三品はお黙り!」

「なにい!」そう言うと後ろから光が差した。自分の後ろからすれすれで撃ったのだ。

「三機を串刺しだと?!馬鹿な・・・!」ああ、戦場じゃなくて良かった。レベッカの腕は信用できない訳ではないが戦場ではやらないで欲しい。そう思わざるにいられないカールだった。

「あんたは誘って、あたしがアームを調節して撃つ!本来の役目でしょうが!」

「うるせえ!リアルで出来っこねえだろこんなもの!クソ!・・・まいったな、これでまた二機差じゃないか・・・。」嘆くように呟いていた。


 カフェテリアから出て、外の廊下から二人の大尉の様子を見ていたバーバラとリン。

「ね、リン。もう八時になっているのに、大尉たちはまだやっているよ。」

「あの人たちは訓練よりも自分自身のプライドを優先する生き物だ。ああいう生き物はむやみやたらに止めようとしても、かえって噛みつかれるのがオチだ。俺は嫌だね!止めるためにわざわざ死にに行きたいものか!」必死さが伝わって来るものの、解決策にならない。


「でも、晩ご飯が終わっちゃうよ?厨房にいる人たちだって仕事でやっているんだから。」

「取ってくるか?あの人たちの分。」仕方なく、バーバラの提案に乗るリンだった。彼女は人に甘い。・・・だから危なっかしいのだ。

「その方がいいかも。あと、大佐や中佐の分も。」


「大佐達、今は確か軍法会議かなんかに呼ばれているって聞いたが・・・?」

「え?!捕まっちゃうの?!」

「まさか。でも、今日は帰ってくることは無いだろうな。コロニーに補給とかで停泊中だから。まあ、臨時休暇を楽しんでいるとか?」カフェテリアに戻る道中、リンが呟いた。


「私たちは出られ・・・」目を希望に満ちたようにキラキラさせて彼女は途中まで言いかけたが・・・

「無い。期間がまだ勤務中だからな。」

「やっぱり。はあ、佐官はいいなあ。」自分の階級が特例であるという記憶は意識の外に追いやりながら不貞腐れていた。

「おいおい、これでも俺たちは少尉だぜ、少尉。それもたった三か月で准尉から昇進と来た。これでも優遇されている方だぜ?」

「今頃何やっているんだろうなあ。」カフェテリアにたどり着いてこう語った。


「分からない。しかし、あの人たち、何食うんだろうなあ。肉かな、魚かな。」プレートに乗っけてあった残り少ない晩ご飯が、棚に乗っている状態を見て言った。

「うーん。でも、それ以上に分かっているものがあるよ。」バーバラにしては珍しい程の悪い笑みをリンと一緒に浮かべながら言った。

「あるな。・・・言うぜ、せーのっ!」

「「ビール!」」笑い声が聞こえた。自分達と厨房のおじさん達のものだった。

「無理だよ。一六歳は買えない。」心なしにバーバラは言った。


「いや、意外といけるかもしれないぞ。何せ、中佐は今居ないからな。」厨房の奥から皿洗いをしている人の声だった。今頃は食事を終えた人が殆どで、食べている人たちは数えるほどだった。

「監視カメラもあるかもよ?」無邪気に聞いたバーバラ。

「中佐がそんなストーカーまがいな事するものか。あの人は元々検事になりたかった人だったからな。法律のラインは弁えてるだろうさ。」と、このおじさん達は言うものだ。


「ほら、ぼーっとしてないで、さっさとあいつらの分のプレート取りな。食品ロスがあったら良くない。『税金の無駄遣い』などと言われたら大変だ。」そう言うとまた先程の作業に戻って行った。

「でも、今回はどうなっているのだろうな・・・。艦長達、やけに遅いし。」

「分からないけど大丈夫だよ、きっと。悪いことする人じゃないから。・・・多分。」

「思い当たる節しかないのだが。」顔をしかめながらリンは言った。スズキ副艦長はまだいい。

 問題はローゼンバーグ艦長だ。あの人も中々問題発言が多い。カール大尉のせいで目立たないだけで。

「それもそう。」

 そう言うと、二人はシミュレーション部屋へプレートを持って行った。


「端末とかにデータは無いのですか?」スズキ中佐はロメロに向かってこう言った。

「いえ、持ち出せませんでした。間一髪逃げられたようなものでしたから。ですが・・・」

「ですが?」

「これを取っていたのです。その時の録画ですが。」そう言うと自分の端末を開いて見せた。


「これは・・・。」ロメロを除いた一同がそう言った。それは、ブリッヂから撮影したと思われる、地球に似た水色と緑と、そして白や褐色や黄色の点がいくつかある星だった。

 そして、歓声に沸く人々の声だった。「これを土産にもっていけば自分たちの立場は良くなるだろう」「きっと子供たちの将来も保証される」などといった声もあり、皆が歓喜に沸いていた。その後の顛末を知っていた彼らは尚更そのことに胸を痛めた。


「嘘だろ・・・。」ローゼンバーグ大佐も驚きだった。完璧に人が住める条件を満たしている。ちょうどいい温度。光源。大きさ。ハビタブルゾーンに位置するその星はまさに漆黒に浮かぶ瑠璃色の宝石のようだった。

「なぜわざわざ逃げることを選んだのです?ここに着陸すれば良かったのでは・・・?」大佐が続けてこういった。


「それは不可能でした。最近の輸送船は宙域仕様でして、大気圏突入できるハイブリッドではありませんから。ハイブリッドは安全ですが、倍近く予算が削られます。結局、ハイブリッドでも戦艦でも、ビームを直撃したらあれですが・・・。」

「では、一人も着陸していない、ということですね。」

「はい。」そしてロメロはまた写真を見つめなおした。


「ちょっといいか?」スズキ准将がまた彼に聞いた。

「何ですか?」

「この小さい白色の斑点、これは何だ?火山活動か?それとも・・・まさか。いやまさかなあ。あはは。」

「どうしたのですか、准将?」スズキ中佐は答えた。実の息子だからと言って、人前ではこう言う。


「いやあ、よく見て見ろ。この白い光を。こいつはまるで・・・。」

「火山というより、旧地球圏の都市のような・・・?」自分が何を言ったのか、気づいた時にはもう既に、この制服組三人衆はまるで熱病にでもかかっているかのような目をして興奮状態に浸っていた。

「いる・・・『いる』のか?まさか!ロメロさん、流石にこれは嘘ですよね?いや・・・偶然にしては出来すぎでいる。本当に人工知能に作らせた合成写真などではありませんよね?!」大佐はもう落ち着きをなくし、ソファから立って辺りをうろうろし始めた。


 あの光は明らかに人工物のものである。だが、ノクタリスの軍事基地とかならロメロ達の存在をスルーする筈もない。では何だ?フェイクか、本当に存在する星の軍事要塞か、それとも未開惑星に生命体でもいるのか。

「家族に見せるのもためらったレベルです。唯一知っていたのは私たちが乗っていた船の艦長とクルーのみでしたから。だから、だから・・・」

「だから貴方の艦長は『リンゴ』だと言うのですね。」スズキ中佐は言った。


 リンゴ。それは旧約聖書で、アダムとイブがその実を食べて、神によって楽園から追放されたものである。本当は「木の実」としか描かれておらず、実際のところ分かっていないが、美術品などではリンゴとして描かれることが多い。やっと合点がいった。

「よくできたものだ・・・。」大佐は感嘆せずにはいられなかった。

「一回、閣僚の人たちに話をしてみる。なあに、どうってことない。伝手がある。ローゼンバーグ、君もアークへシスの首都・〈ゴールド・イーグル〉に付いて来るんだ。難民船を保護した時の状況を説明するためにだ。」スズキ准将はこう言った。

「はい。分かりました。というわけだ、スズキ中佐。君は臨時艦長だ。」

「えっ・・・はい!分かりました!」鳩が豆鉄砲を食らった様な感じだった。


「ちなみに言っておくが、ロメロさん、あなたの情報提供がもし本当なら、あなたの家族だけでなく、他の全員にも市民権を与えさせる口実ができる。ほぼ確実に。」スズキ准将は喜びの笑みを浮かべながら言った。

「本当ですか!」

「ああ。保証する。もし仮にできなかったとしても、なるべくいいところに配属する・・・民間で仕事は探す必要はあるがね。まあ、働くんだったら今はこの星とコロニーをつなぐ輸送船の仕事だろう。君らの経験から見てもね。おっと!汚職をしようとは言ってないからな!」

「分かっていますよ!」ロメロが苦笑いした。けれど、最初に二人に連れてこられた時とは表情は大違いだった。緊張していたというのもあっただろうが、今は心の奥にあった猜疑心はなかった。


「だけど、おそらく君も来ることになるだろうが、問題ない、閣僚と会うのも合わせて往復五日間だ。だから、今夜は家族に出張の知らせをしなければだが。どうせローゼンバーグが言ったんだろう?すぐ連れて帰るから・・・とか。」

「最初はスパイだとかどうとか疑っているような感じでしたから。安心させないと恨まれますよ、それは。自分は天寿を全うして天国へ行きたいのですから、こんなことで後ろからナイフで刺されるようなヘマはしませんよ。」大佐は皮肉のこもった笑みで准将に言ってやった。


「出発はいつになるでしょうか?」ロメロはスズキ准将に向かっていった。

「明日だ。荷物はあるのかい?」スズキ准将はロメロの身なりを見て言った。宇宙仕様のクルーの格好のままだ。


「いえ。家族とこのホワイトスクエアのみであとは・・・ぼろぼろになってしまった船の残骸だけです。」そうロメロは言うと、スズキ准将は小切手を自分名義で切ったではないか。

「これは餞別だ。一人で行動することはあまりないだろうが、口座に五〇〇ドル入っているはずだ。電車賃とかタクシー代とか、服代に使ってくれ。どのみち閣僚たちと会うかもしれないってときに、流石にずっと同じ作業用のつなぎのままでは良くないと思うからね。まあ、これは賄賂の範疇には当たらないだろう。」

「いいんですか?」

「構わない。どのみち君も参加せざるを得なくなるだろう、このプロジェクトに。だから、これは前払いだ。後日、もし仮に予算が下りて、その日程が決まったらぜひ我々の元で働かないか?」スズキ准将は笑いながら言った。


 ロメロはちょっとした使命感を得られた。これがうまくいけば、みんなが普通の生活ができる。ノクタリスに居た頃とは大違いに自由な生活が。

「サーカス団で人形操り・・・ねえ。」レベッカが珍しく口を挟んだ。

「なんだ?なんか問題でも?」

「大ありよ、500年前の漫画がネタのものを・・・まして、まだ『パブリック・ドメイン』ていうやつがまだ適応されている奴じゃないの。」正論!それはあまりにも論理立てされて、かつ至極真っ当な、私心の一切入り込む余地のないものだった。

「何だっけ、『あ●るかん!!』だっけ?」

「「やめろおお!」」ホントにやめろ、講談社に出すつもりなのに小学館に愚痴を言われる羽目になる!


追記:後書きのところ、意図せずエラーが発生していたので、修正しました。



それとパロディの元ネタも公表します。(10/13時点で。第三章は・・・もうすぐ。)

あるるかん・・・藤田和日郎作「からくりサーカス」の、「マリオネット(人よりも大きい操り人形のこと)」。ここではネタバレを避けるためにあえて情報は伏せておく。強い(筆者の好きなマリオネット。)。

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