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間話1:カルロス・パルマの日常

 ここらで一服。紅茶かコーヒーを啜りながらでもどうぞ。

 彼―カルロス・パルマ(通称:カール)には、大きく二つの日課に分かれている。


 一つは、デブリの飛来や敵の襲撃(ノクタリス軍の奇襲がもっぱら、だが稀に海賊船も来る)などによって出撃し帰投した後の、軍のガイドラインによる二四時間程度の短期的休暇内で酒を飲んで寝ること。

 そしてもう一つはこれら全てが何もなかった時の場合である。そして、彼の場合(と言うよりは〈マーシャル6〉のクルーにも当てはまることなのだが)では、ほとんど後者であった。


 ここからは、大体のスケジュールでここに書く。


 午前5時、起床。5時10分、第六戦闘艇部隊の点呼。5時20分、艦内のトレーニングルームを7時まで占拠。

「はあっ、これで戦闘が起きたら多分きついな。」

「きついのはあんただけでしょ、カール。」

 レベッカに毒づかれ、スピードを上げる。カールが使っているランニングマシンのメーターの時速が二キロ上がった。だが、それだけでは終わらない。

 レベッカが自身のランニングマシンの時速のメーターを二〇キロ台近くへと上げた。これは陸上選手の速さであり、彼女は吹き飛ばされるギリギリの速さでしがみつくように走る。

「おい、無茶だ!やめとけ!」そう言いながらカールも二〇キロ台へと上げていた。

「・・・何やっているんだか・・・。」二人の大尉が張り合うのを見て、リン少尉はそう思わざるを得なかった。


 7時20分、朝食。献立は・・・握りこぶし程のライ麦パン二つと、四角に近いオムレツと、塩漬け合成肉二切れと、多少のサラダ。米で食べさせて欲しいと願うカールだった。事実、この塩漬け肉は本当に塩味が利いて口の中の水分が本当に取られる。ライ麦パンの酸味が余計に水分を欲する。・・・今日はついていない。米が付いてい無いなんて。


「今日はついていないな。」思わず口にしてしまい、厨房長のヤマナシ・ケイイチさんににらまれる羽目になった。

「分かってるさ!ポークは米で食う方が良いってな!だが今日は残念ながらライ麦の日だったんだ!文句があるなら食わずに訓練でもしてやがれ!」そして怒鳴られた。

 日本人の血は、食にはとても敏感。もっとも、カールはイギリス人コミュニティと日本人コミュニティのハーフとして生まれた人間ではあったが。

「・・・米はいつでしたっけ?」

「明日だ。今日の主食は全部麦だ。」ああ、嫌だ。今日の献立は大味なんだから。そう思うカールだった。


 そして7時45分から9時半まで整備と補給の仕事に入る。その後、2時間に及んで戦闘訓練も兼ねた付近宙域の飛行訓練を行い、午前11時半には再び整備点検の仕事に戻る。

 訓練と同様、整備の仕事も彼らにとっては重要な仕事だ。カールは整備兵には、・・・嫌われていない方だと願いたいが、残念ながらそうでもないらしい。別に「あからさまに」嫌われているわけではない。 

 ただただ、後回しにされるだけである。飛行訓練の際に「必ず」と言っていい程アームを酷使し、摩耗した状態のまま戻ってくるからだ。これはリンやバーバラ、ひいてはレベッカにも当てはまることであり、彼らは他の人たちとは対照的に暇を持て余していた。


 午後12時。早めに昼食を取って来いと言われた4人。整備員やパイロットの全員分も持ってきた。昼食の献立はアンチョビサンド。

「やっぱりまたライ麦かあ・・・。」不満が禁じ得なかった。

「仕方ないですよ、これが軍の方針何ですから。」バーバラは穏やかに、だが痛烈に上層部を揶揄する言い方をした。

 チェルカトーレの農業プラントは米よりも水分の消費の少ないライ麦が多く食されている。そしてチェルカトーレ駐留兵は地産地消のプランを立てており、ライ麦の割合が多かった。

 別にこれだけなら越したことは無い。問題は、軍上層部が「安く作りやすい」献立を作るように命令し、それを忠実に部下は実行しているためである。その為のライ麦であり、人口合成塩漬け肉であった。


「はあ、アンチョビか。」カールからサンドを受け取る時に、整備兵の一人は言った。

「仕方ないだろ。軍のトップの命令だ。『戦況が優勢になるまで我々はコストカットに当てる。その分を兵器開発とレーダー探知機の技術向上に当てる』とさ。」サンドを受け取ったパイロットの一人がぼやく。

「何がコストカットだ。この間の週刊誌には、アイツらは豪華ホテルで祝賀会を開いてやがったんだぜ。さぞかしうまい飯を食っていたんだろうよ、俺たちの税金で。」

「大量に料理が残ってたらしいな。いい気味だ。これを躍起になって火消にかかるんだから。」

「せめて俺たちを呼んでくれたらいいのによ。30分で料理を平らげてしまうだろうさ。」

「全く、そりゃあいい気味だ。」生産性のない話をしては笑い飛ばす彼らだった。


「これが・・・人の業・・・!」バーバラは慄いた。飯の執念、恐るべし。

「仕方ないじゃない、『腹が減っては戦はできぬ』でしょ?」マーシャル6のS4整備長、ダイアナ・ワーツ伍長に後ろから声を掛けられたバーバラだった。

「ええ、ですが、これはあまりにも・・・」

「酷すぎる?」

「はい・・・。何と言うか、同じご飯だという事がここまで志気に関わること・・・。」

「そうよね。これでも彼らはまだまだ食べ盛りなのにねえ。」ダイアナは言った。彼女は8歳と4歳の二児の母である。その為、物価の上昇や食料品の値上げには敏感にならざるを得なかった。


「さあ、始めようぜぇ・・・!」早く食べ終わった整備兵が、虚ろな目をしながらカールに向かって微笑んでいた。正確に言えば、「微笑んでいた」というより「引きつっていた」と言うべきか。

おいまひぇ(おい待て)!・・・まだ半分なんだぞ!」口の中にあったものを一気に飲み込んだせいで水が欲しかった。

「長引くって分かっているから後回しにしたんだ!とっととやるぞ!」否応なしにサンドの半分をジップロックに入れられたのであった。そして、解放されたのは午後の二時を回ってからだった。


 2時10分。流石に全部食べ切ってからと、レベッカやバーバラを待たせながら悠長に(5分間だけ)残りの食事をし、2時15分、シュミレーション部屋にて訓練を行う。


 5時55分。カール、レベッカ以外のパイロットが退出する。20分後、「定時で終われない」と副艦長に苦情が入り、副艦長自らが配線管理室の部屋に入り込み、シュミレーション室のブレーカーを落とす。同じタイミングで阿鼻叫喚の叫び声が聞こえる。

「あああああ!なんで!なんで!カールにあと3機で勝てたのに!」

「いよっしぃいあああ!」

「馬鹿なこと言ってないで早く出ろ。」副艦長に言われるがまま外へと連行される。


 6時半、夕食。だが、シフトは夜勤の人たちに任せてあるため就寝時間の夜9時までは、カールたちは自由だった。

 7時から8時にかけて、ガン・ルームでカールとレベッカ、コールとビリヤードをする。お酒は生憎飲めない。なぜなら、未成年飲酒を許さない副艦長が目の前の椅子に座って紅茶を啜っているからだ。

「楽しんでいるかい?」休まずにブリッジにずっと居てくれ、何て言えはしない。


 8時10分から8時50分にかけて風呂、歯磨きを終え、別に何もすることなく就寝。

 

 11時40分。14歳の頃の空爆の記憶が夢となって再び襲い掛かり、夜中に起床。冷や汗をかき、心拍数がまだある。しばらくして落ち着いたもののこの上ない不快感がカールに襲い掛かっていた。

 11時45分。コップに、副艦長に見つからないよう隠し持っていた黒ビールを一口分注ぎ、ちょびっと飲む。この苦い思い出を、ビールの苦さで誤魔化したいから、そうカールは思っていた。


 12時。カールはゆっくりと眠りについた。

 今度こそ、いい夢が見られますように・・・。

「・・・要は体のいい時間稼ぎという訳か。」カールは毒づいた。

「黙れェ!」・・・苦し紛れなのはよく分かる。

 木曜日に第二章、更新します。(2025年10月9日~10日)

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