SCORE9:ツイン・ナーガ Ⅺ
第一選考、通りました。「講談社ラノベ文庫」の公募で。
カール「そんな事どうだっていいとっととスコア(本編)書かんかい!」
僕「分かった、分かった!書くから書くから!」
という訳で、どうぞ。
後記:
カ「遅いじゃねえか!!」
僕「うるせえ早く寝かせろ!!!」
同時刻・アークへシス軍砂漠地区前哨基地―
「第二中隊はまだなのか?!」
「あいつらのヘリが残党の抵抗にあってかなり壊れたらしい!援軍のS4はカルナブルクに行った!」基地管制官の罵詈雑言が飛び交っていた。
「空の奴らは何をやっているんだ!ただ見ているだけか?!S4の一つや二つくらい・・・」
「大気圏でおじゃんだ!向こうには『ウェンディエゴ』なんかの大気圏では下ろせない奴ばっかだ!」
「だったらシャトルがあっただろうが!あれには—」
「シャトルはない!ローゼンバーグさんたちが下りたので最後よ!援軍は来ない!いや、『来れない』!援護射撃もミサイルも遠距離では当てにならない!・・・私達で何とかするしかないのよ!」基地司令代理のカン・アユン大尉は、この状況を打破できないことに不満があった。
オグラ中佐が居てくれたら・・・居てくれたら・・・そんなことを今日だけで八度も思っていた。第一、人数差がえげつない。いくらパワードスーツだのショットガンだの、強い装備があったところで人数には敵わない。
大体パワードスーツで二・五人分のアドバンテージ、ショットガンでは一〇人前後だろうか。だが、本来これらの道具は凶悪な「殺人兵器」と恐れられている代物である。にも拘らず被害が少ない。それは、この星の現地人である「エルナシア人」が、魔法を使えることに他ならない。
もし仮に、文明の利器を活用しなければ、こちらの首は物理的に吹き飛ぶのだろうか。そんな想像も、本当に現実になるのではないかと思っていた。
ショットガンのエネルギーもかなり消費した。軍基地施設の太陽光発電によるエネルギー補充も極限効率までフルで活用し、ライフルや防衛システムにそのままケーブルを繋げて撃ってはいるが、一〇〇〇人近くもの敵も次第に慣れていき、「空からだと撃墜される」と自覚しだした。少なくとも、空からの空爆はショットガンの弾が飛ばなくなるレベルまでに引き下がったほうがいい。
彼らエルナシア人は適応能力が高いことを、アークへシス軍は思い知らされた。
そして、驚きなのは彼らの空からの命中精度だ。九〇〇メートル離れて、尚且つメイジ・ランサー以外に特殊装備もないにも拘らず基地のアンテナを壊された。大経口だったために一発だった。母艦「マーシャル6」からの衛星通信で連絡こそは出来るものの、こちらからの通信が不安定になってしまった。
また、向こうの作った爆弾が迫撃砲のように噴射され、こちらは迎撃のためにミサイルをかなり消耗した。時折ブラフとして小石などが噴射されてもいた。巧妙な手口だ。
そして、地上では向こうは急ピッチで塹壕を掘り、弾が飛び交う地獄絵図。
リンガード宙域戦線でも、ここまで追い込まれてはいなかった。すると、彼らの武器「メイジ・ランサー」がいかに銃のように凶悪極まりない兵器であるかが理解できる。銃、ナイフ、塹壕を掘りのスコップ。これらの全てがこれには詰まっている。
外は膠着状態。だが、こちらが人数的に不利。ヤスパースの「限界状況」とはまさにこのことだ・・・カンはそう思っていたが、冷静に皮肉ってはいられない。カールの自嘲癖でもうつったか。しかし、エネルギー不足による全滅も時間の問題だろう。
だが、第二中隊長ティース・コール大尉の通信が、すべてを変えた!
「全部隊に継ぐ!こちらは情報を手にした!敵の『メイジ・ランサー』を無効化する情報を!砂漠の駐留基地にはデータを送る!カルナブルクにはS4を寄こす!一〇分、一〇分だけ耐えきってくれ!」
そしてこちらに添付されたのは音声データ。だが、声はない。あるのは甲高い音だった!
「止めて、止めて!いったん止めて!」カンは大声で命令し、管制官はすぐさま音を止めた。
「・・・ああ、難聴になってしまう・・・!」まだあの甲高い音が耳の中に鳴り響く。
しかし、これが「武器」なのか?そうカンは思った。だが、彼女が不思議がるのも無理はない。これが本当に「武器」なのだ。カンは急ぎでその下に添付されたデータを読んだ。
「・・・物体には『共鳴振動周波数』がある。このデータは、その音域の最適解。つまり、これをあの水晶のついたおもちゃに当ててみれば、水晶が自壊する。スピーカーが強力な武器になる。が、敵に一定時間当てる必要があり、スピーカーを照射できるように動かす方法はお任せする・・・コール、シュー両名からのレポート・・・」
このデータは、アルミナの「ソル」の能力によって生み出され、シーディアの蜂型「シャプト」によって蓄積された共鳴音のエネルギーを録音したものである。
アルミナのソルは、「振動」を生み出す。ソルは人によって個人差があるが、その中でもアルミナは異常であった。彼女が山賊騒ぎの時に「一日一回しか使えない」と言ったのは、その異常さ故である。だが、これが役に立ったのだ。
カンは本気でコール達に感謝した。本当に苦境に立たされていたからだ。
「基地内に残る全部隊に継ぐ!スピーカーを最大出力にする!各種通信はホワイトスクエア越しで行うように!繰り返す、各種通信はホワイトスクエア越しで行うように!」
そして、基地の周辺区域に甲高い大きな音が出た。それは、S4の出撃する音の倍であった。
「何だぁ?!この音は!」ジルカン兵がそう言った矢先、槍に付いている水晶が振動していることに気が付いた。
「・・・揺れている?!振動か!・・・この音で!」そして、次々と味方の間で動揺が広がった。
「畜生!弾の軌道が変わってしまう!何なんだ!ただの振動程度で!」そう言って水晶の表面を触り、振動を止めようとしたその時。
パリン!
彼が槍を持ってゆっくり落下するのが見えた。そして、彼は懐にあるポケットから緑の石を取り出す間もなく地面に叩きつけられた!
「触るな!触るなよ・・・ここから一度撤退する!全員緑の石を手元に準備しろ!いつ落ちても死なない様にな!」前線に来ていたルーブ・ムスタ大将は、全員を一度退避させようとした。しかし、離れようとしても途中で離脱者が出てくる。
幸い、逃げる最中に下降していたため死人はこれ以上出ていないが、今度は機械による空気圧の巨大な音がした。
「突撃する!!卑怯だけど、ここで逃がしたら後々大変だ!」ホバーボートに乗っている、第四中隊長のポポフ中尉率いる突撃部隊の追撃にあったのだ。
彼らは、まるで今までのフラストレーションを払拭するかのように、脱落した兵を逃がすまいと追撃を加えていた。緑の石を割る前に、彼らの脳に熱い熱線が入った。
ムスタは怒鳴った。
「振り切れ!ここで我々が食い止めなければ—」だが、その鼓舞の甲斐もなく、轟音と共に空に大きな影ができていたことに気づいた。
「な・・・!いつの間に!」黒く禍々しい巨体は、鳥のような形をしていた。彼は、血の気を失った。
「高出力のスピーカー何てS4にも取り付けられる。遊びは終わりだ、さっさと帰れ!」リンは無情に言った。そして、バーバラとリン両名のS4のアーム部分に取り付けられたスピーカーで、「効率よく」落とされた。
落とされる最中、ムスタは察した。誘い込まれていたという事に。
「・・・演技も一流、と来たか・・・。これは、あのクルバノフ騎士団じゃできない。・・・いったい何者だ?」
そう脳裏に思ったが、すぐに落下の衝撃で全身がダメージを受けた。体全身に重力と圧力、そして痛覚を感じた。
十数秒後、必死に腕を動かし、ムスタが緑の石を割ったのをきっかけに、退却が行われた。
だが、カルナブルク上空では、依然として緊迫した状況は続く。
「逃がさない・・・逃がさない!」ヴァンディ兄妹が幼王を、いわゆる「ネズミ捕り」に加勢し、状況はさらに悪化した。あの地下闘技場で、騎士団たちの猛攻を搔い潜り、何なら片手で数えきれない人数を屠った後、マージ・ブリスツと共に外へ出て行ったのだ。
リオを撃った兵士以外にも、錯乱していた兵は少なかったものの一定数はいた。水筒の中に入っていた毒素が原因であろうか・・・しかし、何故、誰が、このような真似を?
「ねえ、どうしてリオ司令を撃ったりなんか・・・」相乗りしているメグリ―は、タングストに咎められた。
「知らん!・・・爆発の用意はいいか、メグリー!」メグリ―は、兄のタングストの肩に槍を置き、
「分かった。よーし・・・撃つわよぉー・・・OK、点火!」そして、一瞬で建物と建物の間を繋いでいたワイヤーが全て吹き飛ばされた。
「嘘だろ、おいマジかよ!」ホバーボートからカールは大声で叫んだ。
「仕方ないだろう、これは塩からできているんだ。想定済みだ。」クリプトンのセリフにもっと驚いた。
「塩?!ナトリウム?!」
「なと・・・なとり・・・?」
「空気に触れると酸化して脆くなって、皮膚に触れるとただれてしまう、あの?!」
「そうだ。だが、これはコーティングされているんだ。・・・今言わなくたっていいじゃないか。第一、この二人は前に戦った時、自分の『ソル』の使い方がバレていた。ほら、上を・・・」
カールは頭を抱えてこう言った。
「・・・コーティングは遠隔で省けるか?」
「ああ。だが、何だ?」
「このワイヤー、一個何グラムでどのくらい持っている?」
「おい、一体何をしようとしているんだ?!」クリプトンの表情が徐々に曇って行った。
「何個だ?!」
「一個二〇〇グラム、合計二〇個で四キロ、ジャケットの中に・・・。だから何だ!」
「早く全部それを出せ!何ならジャケットをそのまま脱いでくれ!」いきなり言われたクリプトンは困惑した。
「何を言っているんだふざけるな!」
「そうよ、いい加減にして!今、敵が現在進行形でワイヤーを撤去中で、ヤバい状況だって言うのに!」カール達のすぐ後ろで渡っているレベッカのホバーボートから、声がした。
「全くふざけていない。むしろこの状況を打破できるだけでなく、ショートカットできるかもしれない方法が見つかった!・・・理屈では。」
「理屈と現実では違うわ、・・・川でも渡ろうって言うんじゃないでしょう?!」
「そのまさか!その通り。」その返答にレベッカは呆れていた。
「いい?!水の中には十中八九敵もいるだろうし罠もある!それなのに川に入るなんて、通路だけでなくて人生もショートカットしたい気?!」
カールは怒鳴った。
「クリプトンのナトリウムワイヤー総重量四キロ!アータルタの酸素分離!キースで衝撃吸収!もうわかっただろ!」
レベッカだけではない、第一中隊やソルジャーの一同が皆青ざめた。
「カール、川であの火遊びをするのか・・・?」キースがいつものような元気はなく、本気な表情だった。
「ああ、水は無制限。問題はアータルタの限界と、しんがりを行う上で王様がはっきり言って『邪魔』だという事だ。」一同は空からの進撃があまりなかったことから、この無謀とも言える作戦がはっきりと耳に入った。
「・・・もっとも、空を飛んでいるあのコンビにローストされるのと、自らの爆発ミスででローストするの、どっちがいいか、という話だ。」
皆は静まり返っていたが、その静寂を破った人物が一人。それは、アータルタであった。
「・・・杖を使ったら二〇秒はいけるわ。敵に、酸素・・・を分離させたときに出来る臭いに気づかれる事が一番避けたいのだけれど。」彼女は、喜色満面の笑み・・・と言うより、今までいい様に翻弄されてきた鬱憤とが混じった不気味な怒りのこもった笑みだったが。
「ろくな案が無いんだ。・・・だが、幼王は安全上、こっちが引き取る、それでいいか、カール。」ローゼンバーグが賛同したことにより、結局その案は通った。
ローゼンバーグの乗っているホバーボートに隣接させ、幼王を引き渡した。
「申し訳ありませんでした、陛下―」
「いや、今は良い。謝罪は生き残ってから、『些細の無かったことでした』と後々言えるようになってからだ。」謝罪しようとしていた騎士のセルスに対し、タリウス王は悲しげな表情で言った。
「・・・はっ。」彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔であった。本来ならば死罪もありうる。にも拘らず、陛下はお許し下さった。
・・・陛下の器か、それとも我々が嫌いなのか・・・やはり、あのトラウマを引きずっていらっしゃるのか・・・。返答に困っていた。
「よし、カール!こっちは川に入るぞ!」先頭からの音声通話が、ホワイトスクエア越しに入って来た。
「了解!こっちは問題ない!・・・今のところは!」
「了解!こちらでも削る!健闘を祈る!」
通信が途切れた。そして、クリプトンは束になったナトリウムのワイヤーを全てジャケットから取り出して言った。
「いいか、カール。これにはさっき言った通り、コーティングされているから脆くならない。あの『メイジ・ランサー』の水晶や、シーディアのシャプトにも使われている。」
「時間操作は可能か?!」カールが啖呵を切った。
「ああ、問題ない。なるべく遠くから誘爆したらいいのだろう?アータルタとタイミングを合わせる。」
「助かる。」
「おい、カール、よそ見しないでビーム兵器の一つや二つ、撃ってくれ!」キースは自分たちに王様がいないことを悟られことに気づいた。敵がまさに通過しようとしていたからだ。
「・・・やはりバレたのね・・・!」アータルタは炎の元になる黄リンの瓶を敵に向かって投げつけ、すかさずカールはそれに向かってブラスターのビームを放った。二、三人に炎が伝搬し、少し帝国軍の兵はたじろいだ。
「あら、オグラさんにしごかれた甲斐があったのね。」
「うるさいなあ・・・。」彼女らがどうやって自分がオグラ中佐に強制的に地上訓練させられていたことを知っていたのかは、今となってはどうでも良い事だ。
「カール!川に入るぞ!」キースは、敵が射出してくる弾をどうにかして弾いている。カールからしてみれば、原理は引力なのか斥力なのかは今はどうだっていい。ただ、敵が来るタイミングで、いい具合に誘い込めればそれで十分。
「入ったな、入ったな?!クリプトン、四〇秒で設定できるか?!」カールは再三にわたってクリプトンに言った。彼が、被害を最小限に抑えるキーパーソンであるのだから。
「問題ない、慣れている!」そして秒数を徐々に短くして、クリプトンはナトリウムワイヤーの束を次々と投下する。
「カール、今?!」
「待て!・・・よし、行け!やってしまえ!二〇秒きっかりだ!」アータルタは、カールに言われた通りに川の水を分解し始めた。ただ、素手では無く、杖を使ってであった。
あくまで杖は「媒体」としての機能を有するが、それは則ち「体の器官の一部」とも称せる。例えば野球で言うと、「どこにボールがミートしたか」振動や音などで無意識的に感じ取り、まるで痛覚以外の感覚が備わった、腕の延長線上にあるかのように体験した経験はあるだろうか。それは、「身体拡張の延長」と言われる。それが、アータルタのソルの操作性の向上に繋がったのかもしれない。
だから、杖で分解するのである。杖でなら、ローコストで大きく動かせる。無駄なエネルギーを排することが可能だからである。
「まだか?!」キースは限界であった。直前に居る味方の援護射撃でも不十分。何しろ、人数が圧倒的に多いのだから。
「あと一〇秒だけ、耐えてくれ!」カールはエネルギー残量を無視してショットガンを放った。今度は二〇人、葬り去れた。ビームを使わないのではなく、使えないのである。引火して、誘い込んだ努力が水の泡になる。
その間、帝国兵の中で問題も生じていた。
「大尉!タングスト大尉!大変です!やはり水筒から、幻覚作用の毒物が!」
「よし、よく言った!全部隊に告げろ、『水筒は飲むな』と!ソルの消費で極限状態になったらソル・パックの方は飲め!あれは本部からの支給品で恐らく安全だ、いいな?!」今、カールたちを追っている部隊の中での最高司令官は、奇しくもカールやレベッカと同じ大尉であるタングスト・ヴァンディであった。
「了解!」
「よし、追うぞ、メグリー!」
タングストは一番後ろのしんがりを買って出ているカールたちのボートを真っ先に撃ち落とすべく奮闘していた。もし、合流地点に彼らが辿り着いてしまえば、あの王様を捉えることはほぼ不可能。急がねば、急がねば・・・!
「ねえ、兄さん、兄さんってば!タングスト!止まって!」
「何だ?!」妹に咎められたタングストだったが、大声で叫んで、苛立ちを覚えていた。
「鼻が痛い・・・あの匂いよ!」
「何の!・・・まさか!」
すぐに、命令した。
「全員退避!建物でも何でもいい!遮蔽物に隠れろ!いや、『川から離れろ』!!!」
「遅いんだよ・・・遅いんだよ・・・!!今更!」キースは必死にキープしていた。その苛立ちが、どこにも行かないフラストレーションとなって溜まっていた。
先程までカールたちが渡っていた川の部分・・・そこから一気に誘爆した!ほぼ同時にナトリウムワイヤーについていた水晶の粉末のコーティングが離れ落ち水中に流れ、ナトリウムが露出しすぐに火柱が立ち、それが空気中の水素に誘爆したのだ。
アータルタによる水素生成は、辺りの建物が倒壊するような量は使ってはいない。だが、敵を効率よく排除する点においては効果的であった。特に、もろに食らったあの兄妹にとっては。他の敵と同様に巻き込まれて死んだのだろうか、それか重傷か軽傷で生き残っているか。いずれにせよ、しばらくは追ってこない。カールはそう、睨んでいた。
村の駐留基地。
「スピーカー取り付け完了!もう出撃できます!」整備兵の慌ただしい声で、クレアは呼び出された。彼女は、レベッカの機体を「代理」で操る。あくまで彼女は免許が無くても操縦していた経験がある。訓練兵だった時は筆記で落ちただけに過ぎない。だから、こういった際には申し分ない。もう一人は・・・。
「小官も行け、と?!」
「仕方ないだろう、お前の作った即席プログラムだ、一番アクシデントに慣れているはずだ。」スズキ中佐は遠くから指示していた。
彼に出来ることは、情報を正確に伝達させること。攻撃もろくに届かない。ミサイルは無効化されている。そしてビーム兵器は空気中に存在する、「メイジ・ランサー」の結晶と同成分のエアロゾルがあるお陰で無効化される。
「・・・では、分かりました。ですが、ずっと小官が操縦するわけでは・・・」
「カールやレベッカに任せる。あんな奴でも腕は一流だ。お前だって分かっているだろう?」
「ええ、それは。」
「だったら早く行け!幸い、まだ殆ど生き残っている。全員のホワイトスクエアにインストールされている生体反応には問題なしだ。」ディスプレイ越しで、スズキ中佐はコールに向かって発破をかけた。
「了解!」そして、コールは充電の終えた試作パワードスーツ、「アッシュグレー」を身に着け、カールのS4に乗り込んだ。
「遅いですよ、隊長!」クレアは、先程まで死にかけていたことを今は認識していないようだ。
「遅いも何も、異例尽くしの事だからな・・・。」
「じゃあ、出発しますよ?!」
「ああ、あの馬鹿に早く届けないとな、これを!」コールはぶっきら棒に言った
「ああっ、今レベッカ大尉に『馬鹿』って!ちゃんと聞こえていましたからね?!」
「おい、それはカールだけ・・・」
「クレア・ユース、出撃します!」これを、勝ち逃げという。
「全く・・・ティース・コール、出撃する!」そして、二機は滑走路をハイスピードで走り、空高く舞い上がった。
「・・・あと五分で着かなければ・・・いち早く着かなければ・・・。」
「・・・綺麗・・・。」コールの心配は、クレアにはどうでも良いように思えていた。
「あのなァ!・・・いや、すまない。分かっている。今焦ってもどうにもならない事くらい。」
そして、雲を抜けた。
「そう言えば、・・・もうこんな時間だったな・・・。」コールは、初めて時間の経過を肌で感じ取った。カールたちと別れたのは午後の一時辺りだったか、それでごたごたがあって、今では午後の五時、いや六時であろうか。日は沈みかけていた。
「危なかった・・・。」追撃を逃れた第二陣、本命の幼王の輸送に成功したアークへシス・ソルジャーの混成部隊は、遂に第一中隊の確保ルートに行くことができた。だったのだが・・・。
「まずい、下がれ!」第一中隊長のジャックは金切り声を上げていた。
「どうした?!」ローゼンバーグは聞いた。
「上からの敵が多くて、ショットガンで対応している最中です!急いで下さい!」
折角合流できたとはいえ、危機的状況は変わらないようだった。
丁度その時。飛んでくるものが一つ。それは影だった。ただ、一人分の。
「お前!!お前だけは!!」タングストだった。メイジ・ランサーを二本、手に取っていた。顔には怒りだけだった。
だが、後ろに乗っていた女は居なかった。そして、彼はカールの喉をめがけて振りかざし、人工制御されたかまいたちを放ってきた。
「逃げろ!」カールは叫んで避けた。パワードスーツを着けていた他の味方にはあまりダメージは無かったが、装甲の表面が削れた。
「お前が居なければ・・・お前さえ居なければ!!あいつは!メグリ―は!!」
・・・メグリ―・・・?カールは、たじろいだ。確かに、あれは合理的な作戦であった。実際、これで敵は削れ、そして見方を死なせずに済んだ。だが・・・
「あいつの足が両方も吹き飛ぶことは無かったんだ!!!」
これが、「痛みを知る者が戦争をする人間に回るな」・・・という事なのか・・・?
いや、違う!
「だったら戦場に連れてくるな!!」カールは、ブラスターのショットガンを撃ち尽くした。エネルギー残量が切れるまで、何度も、何度も・・・。
僕が戦場に出たのは、本来戦争を知らなくてよかった従妹を、あんな目に遭わせた奴に復讐するためだ!僕だって好きでやっている訳じゃない・・・!!僕だって・・・僕だって・・・!!!
「カール!・・・慎重に使って!」レベッカの言葉でカールは我に返った。
「・・・そうだった。」今度はこっちが言われる番か、そうカールは思った。
だからと言って、ここから今では一歩も動けない状況になってしまった。帝国兵が残存兵力を用いて、徹底的に攻め立てたのだ。そして、カールたちのエネルギー残量は枯渇状態。他の第一中隊は、もうコイルガンの弾丸もなくなり、トマホークに持ち替え、近づいて来た帝国兵を襲っていた。だが、その強襲は時々成功するが大抵は近づけず、盾を構えるしかない状況に追い込まる。ジャンプ機能よりも高い位置に
カールは、自分がもう駄目なのではないかと自覚し始めていた。死期というものは、意外と早く訪れるものなのだろうか。
「バルバロッサ、今到着しました!オグラ中佐も一緒です!」第三陣の第一小隊長バルバロッサは、到着早々ショットガンを撃ち尽くした。だが、オグラ中佐の様子がおかしい。
「あの、二つ槍を持った男に、刺されたよ・・・情けないことに・・・」よく見ると、トマホークに血が付いていた。
「刺し違い・・・やはり、機動力はS4と同じ位・・・トマホークだけじゃ無理があったみたい・・・無傷では。」
「あいつのように・・・メグリ―の痛みを思い知れ畜生ォォ!!!」そして、タングストは空からかまいたちを無茶苦茶に振り下ろした。
その時。誰もが死ぬと実感した、その時。
風が分散した。
「どうだ・・・バイブレーション・・・いや、『衝撃波』は!!」コールが操縦するS4が、上空からピンポイントでタングストのポイントに放ったのだ。
「コール?!どうして・・・!」レベッカもまた、困惑が隠しきれない。
「早く乗れ!!選手交代だ!!」コールは、笑顔でカールに向かって語り掛けた。
「おい、後ろ!後ろ!」カールはコールが心配でならなかった。
「・・・ってあれ?敵が多いな・・・っておああああ!」火炎瓶を投げられ、そして自動操縦機能が避けたため機体が反転したのだ。
「馬鹿!コール!早く降下しろ!自動操縦機能にそういう命令あったろうが!」
「うるさいカール!やっている!ほら、後五メートル!反対側にはクレアが乗っている、レベッカの機体だ!」
「了解!」そして、二人は自らの機体に向かって走って行った。
「阻止しろ!何としても!」タングストは命令したが、そうなるだろうとコールは予め予想していた。
「だと思った!!クレア、予定通りの手筈で行くぞ!ミスるなよ?!」
「分かっています、隊長!」
コックピットから大ジャンプした。そして、ショットガンを上に向けて一気に放った。そして、肩にかけ直しすぐにトマホークに持ち替え回転して切った。人間のなせる業ではない、パワードスーツだからできるのだ。
「ありがとう、コール・・・!」本当に感謝せざるを得ない、オグラ中佐だった。
そして、カールとレベッカはそれぞれの機体に乗って、こう言った。
「レベッカ・フリート!」
「カルロス・パルマ!」
「「出撃します!」」
そして、最後の一仕事を完遂させるべく、戦場の空を飛び立った。
「逃がすかァ!」帝国兵から追われるコール。だが、それが逆に彼の狙いであった。「アッシュグレー」の機動力は先程のテストで確認済み、そして多大なる成果を挙げた。人殺しの成果である。ダッシュ、ジャンプ、そして回転切り。スタイリッシュに行われる一連の動作は、どこか幾何学的な神秘さを感じさせる。
「はい、S4に積んでおいたエネルギーチップ、これでまだ戦える!」クレアはまるで宅配業者になったかのように部隊の全員にチップを渡して走っていた。
形勢は逆転。それは、残酷なまでに証明されていた。
「まだ・・・俺だけになっても・・・!!」
「大尉!もう兵が・・・限界状況に達しています!ソルのエネルギー補給のためのパックも殆ど全て消費しました!」タングストはその兵の進言をしばらく頭の中で反復させて言った。
「・・・無くなった者から撤退しろ!そうでなければ、戦え!」
「大尉!明確な撤退命令を!」しかし、タングストはS4に向かって行った。
「大尉!!」
「レベッカ、あのストーカー野郎が来やがった!」
「・・・いつものやつをする?」
「・・・了解!」それは、いつも訓練でやっていた、カールが先陣を切って逃げ、レベッカが本命で撃墜する、いつものパターンの反復練習の賜物であった。
カールたちは誘い込んだ。それも十字の中心になるべく集まるように。ターンを切って、逃げて、威嚇射撃をして、実際にすれすれになるように射出して・・・。
エネルギー砲は無かったために有効な手段が一か所で音を照射することだったのだから。この音の兵器はかなりエネルギー消費が凄まじかった。だから、このような手段をとったのである。そして、一か所にまとめ上げられた時にはもう遅かった。
「クロスファイヤーだ・・・!逃げろ!今すぐ!」だが、時間が無かった。皆消えてしまった。落下したのだ。緑の石を割って助かった者もいたが、残りの帝国兵はもう死んだか消えていた。建物が多かったため落下死は少なかったのが唯一の救いであった。
「畜生・・・!」タングストは、持ち前のソルの器官の容量が他人よりも多いためにまだ耐えきれていたが、所詮手だ。無理があった。
「降伏しろ・・・もしくは逃げろ!命までは取らない・・・!」
「何を・・・!」
「お前の負けだ、いい加減にしろ!」カールは言ったが、タングストは聞く耳を持たない。カールは分かっていた。自分がどれだけ矛盾したことを言っているか。
「だからどうした!お前はメグリ―を・・・メグリ―を・・・」そして、彼は耐えきれなくなったのか、気を失いかけて自重でゆっくり落下していき、緑の石を割って行った。
「・・・ねえ、リン。カン司令代理に言われたように行ってみたはいいけれど・・・。」S4に乗ってカルナブルクへと来ていたバーバラとリンだったが、もう飛んでいる帝国兵は殆どいなかった。
「ああ・・・もう大分片付いたみたいだが・・・あっ、カール大尉?!無事ですか?!」無線で通信できる状況にあったのを見たリンはカールに話しかけた。
「ああ・・・ミッション・・・完了・・・!後は・・・まあ、よろしく頼む・・・。」
「お願い・・・バーバラ、リン・・・。とにかく疲れた・・・。」
リンとバーバラは、ディスプレイ越しでお互いの顔を見た。少し呆れたような、そして安堵の混じりあった顔でいた。
これは後に、「クルバノフ同時侵攻」と後世に呼ばれるのであった。
やっと出せる・・・やっとだ・・・!
これで、ツイン・ナーガ、終了!!
あれっ、もう一日経っている?!
という訳で、3月中にはエピローグ出します。(本当に終わる訳じゃない、『第一部』が終わるんだから!!)




