SCORE9:ツイン・ナーガ Ⅵ
種 明 か し。
その回です。少なくとも、嫌な話でもある。
そして、肝心のカールたちはと言うと・・・。
「全く・・・帝国とか王国の何たらとか・・・歴史かフィクションだけにしてくれりゃ・・・。」カールは、そうぼやかずにはいられなかった。
「カール。次言ったら・・・」
「分かってる、分かってる!愚痴だけでどうせ解決しないのは!」レベッカに詰問され、渋々言い直したカールだった。
「言いたいことは分かるさ、カール。だが、だからと言って不満を露わにしてはいささかみっともない。」ローゼンバーグでさえも、この状況をあまり芳しく思わない。
「・・・ええ。分かっているんです。」そう言われてしまえば、カールとて怒りの矛先を納めざるをを得ない。
「とはいえ結構長いですよ、司令。」護衛役兼部隊責任者のオグラ中佐は、この地下道がとても続いていることが気になっていた。もう走り始めて二〇分。
後ろからはまだ敵が来る様子はないにせよ、すぐにでも見晴らしの良く包囲される心配のない所で戦いたいと考えるのは至極真っ当な事だった。そのためにはまず、このVIPたる幼王と宰相、一番はフレデリック外務相と官僚たちを何とか「輸送」しなくては。
「私は、思いあがっていたのかもしれません。」ローゼンバーグの副官、フィン少佐は、いつもの明るさを他所へと捨て、深刻な表情で前を見ていた。
続けて、彼は言う。
「我々は、この星の資源や生産能力、何よりハビタブルゾーンの『安定した土地』というものを欲していました。ですが、この星には元から住んでいた住人がいて、それも我々の科学を超越した能力を持っていて、そしてそれが紛争の手段にもなっている・・・。そして、我々もまた、それに介入しようとしている・・・。一体、我々は何をしようとしていたのでしょうか・・・?」
「少佐、それはあまりにも国家に・・・」一人の官僚がそれを咎めようとしていた。軍人が国家の決定に口出ししてはいけない。にも拘らずそれを言うのは国家に対して不満があり、反乱分子の象徴としてキツネにいつリークされてもおかしくはない。しかし、フレデリック外務相はそれを静止した。
「だからと言って、人道的に問題があることをひた隠しにするような国家になってしまえば、それはノクタリスの専制独裁主義と同じになってしまう。我らアークへシスは透明性が売りなのではなかったのか。」
だが、彼はそれを幼王とそれに付き従う宰相の目の前で言ったことを後悔した。それもそのはず、「王政」の彼らへの非難と変わりなかったからである。
「貴様、我々を侮辱するつもりか?!」宰相のテネフは怒鳴った。分からない話では無いのは事実。しかし、すぐに黙ることになる。なぜなら、カールに追撃されたからである。
「他国の国民に対して、いや、それだけでなく自国民に対しても弾圧し、圧政を敷く政治が良い訳がない。クルバノフはそうではないだろうけれど、テネフさん、あなたの死後、いや現在の王様の退位・死後に継ぐであろう後継者、・・・それらがきちんとできるかの保証されるかが分からない、というだけです。」
カールは続ける。
「もっとも、あなた方の国家だけの話でもない話です。今侵攻してきているジルカンや、僕らのアークへシス、そして向こうのノクタリスだって。昔、我々の故郷、地球という場所で、ソビエトと言う名の帝国がありました。それはもう、強大で。まさに巨人でした。」
「今は、どうなったのだ?」幼王タリウス・クルバノフは興味が出てきていた。今、地下道から脱出しようと走っているのも関わらずついて来て、そして話していた。
「国民を抑圧していた結果、崩壊しました。」
「・・・そなたらの歴史も、あまり変わらないのだな。」
「・・・国はいつか滅びます。どこまで持つか、どれだけ穏便に済ませられるかが問題なんです。」
「へ・・・陛下!あまりそのようなお考えをなさらずに!!」テネフは一度カールを睨みながら幼王に言った。もし、仮にそのような考えを吹き込まれたら、自分の今の職を失いかねない。
しかし、カールは再び官僚に怒られた。
「カルロス大尉!貴官の行動は常軌を逸している!さては・・・」しかし、カールはそこでくじけない。
「さては、『国を揺るがす売国奴め』・・・とか?」
「国を揺るがす売国奴め!」同じタイミングで、同じセリフを言ったのだ。カールは別に合わせようと思っていなかったのだが、それでも思わぬ結果を得た。
何故か皆が笑う。失笑に近かった。その官僚は赤面する。奇妙なことに、これを脱出中に行われていた会話の一部始終である。それが、カルロス・パルマをピエロのように歴史家たちは扱う理由であった。
「それで、地下道はこれで終わるのですか?」出口が見え始め、ローゼンバーグはテネフに問いかけた。
「一度間に闘技場を挟む。今は使われてはいないが・・・。そしてその後にまた地下道が続いて、そしてやっと・・・」
「出られる、と。」
「そうだ。」だが、使われていない闘技場と言うものはここまで明るいものであろうか?その疑念が、ローゼンバーグにはあった。
「気を付けろ、オグラ中佐。向こうは出待ちしている。」先頭を行くオグラに対し、少しだけスピードを遅くさせる口実と言えば口実ではあったが、それ以上に包囲されていることをどちらも悟った。
「やはり。」
「ああ。」そして案の定、なぜかきらびやかに照明がついていた。松明が灯されている。
「ライトを消して!バレている!」急いでライトを消したが、それでも気づかれていたのだろう、向こうから勧告をしていた。
「無駄な抵抗はするな、私は帝国禁軍司令官、リオ・ウルツワイツ中将だ!大人しくタリウス王を引き渡し、降伏調印書に署名しろ!」
一休止置いて、こう付け加えた。
「さもなくば二分後、王城を崩壊させ、ここを落盤させる!我々は一般市民を巻き込んだ戦闘をしたくはない、大人しく出てこい!」
帝国軍の機動力に、クルバノフ及びアークへシス陣営の面々は恐怖の念を感じた。帝国軍は、ここまで徹底してクルバノフの領土が欲しいらしい。
「・・・仕方あるまい。向こうは我の命が必要なのではない、我の『サイン』が必要なのだな。サインで民を守れるのだ、サインだけで・・。」落ち着き払った言い方だ。しかし、彼の手には冷や汗と、震えが止まらなかった。
「陛下!陛下はなすべきことを成すのです!ここで無駄に抵抗して、先祖から続くクルバノフ王家の伝統を今ここで絶やすとなれば・・・」
後ろから声がしていた。小太りに近い感じの、宝石を何個も身に着けたまさに成金な感じの、貴族階級に位置するであろう者が。カールとレベッカだけでなく、他のアークへシスの人間は嫌悪感で一杯になった。実を言うと、謁見の間には騎士団こそいなかったものの、貴族全体の内七、八割がその場で参加していたのだ。護衛はなるべく最小限で、と言う名目なのだろう。
大体二〇人前後だったように見えるが、王様と宰相の次に我先にと逃げていた。中にはローゼンバーグやフレデリックよりも先に逃げている者もいた。
もちろん、貴族の中でも良識派や、逆に賄賂を贈って官職に就くなど悪辣な者もいる。だが、後者の人間を省くのがどれだけ難しいことか、テネフは嫌と言うほど思い知らされてきた。
そしてついに、堪忍袋の緒が切れた。
「伝統が何だ?!誰が為の伝統か?!貴様らはたかが『貴族』!!それも陛下の事よりも自分の保身ばかり気にしているではないか!!」
「怒っても何にもならぬぞ、テネフ!」テネフを睨みつける貴族たちを尻目に、幼王タリウスは言った。
「ええ、分かっていますとも、陛下!ですが、事を穏便に済ませるのと、一時の安寧のために他を、民の未来を犠牲にするのとでは違う事です!まして、・・・いや、いいです。ですが、これだけは言っておきます。あまり無茶をなさらないように。陛下、貴方が信じる『正しさ』をどうか曲げることの無いよう・・・。」
テネフはあくまで帝国に従う事には反対の立場ではあった。だが、彼の考えは今の幼王には受け入れがたいものではあったことは否定できない。しかし彼は諦めているというよりむしろ、この幼王がどのような判断を下すのか見極めている、その考えに近かった。
「・・・降伏する。地上で民がどのような目に遭っているかは分からぬ。が、我は平和が良いのだ。平和であれば、どうすることもできうるだろう。」だが、クリプトンやアータルタは苦い表情だった。
「あれだけ山賊によって攻め入れられて、その度に耐えきって、その結果がこれだなんて、・・・あんまりよ。」
「アータルタ、言いたいことは分かる。分かるさ、だけど・・・やるせないよな。」キースは、完全に意気消沈であった。
「見つけたぞ!!」後ろからマージ・ブリスツが追い付いて来ていた。
押されるように、仕方なく闘技場に出る。そこは、観客席で包囲網をとっている帝国軍約五〇〇名がいた。そして、メイジ・ランサーを手に持って構えていた。
「撃つな!・・・これでご対面という訳だ、タリウス王。」手で自軍を制止し、リオは近づいて来た。勿論、大勢の護衛を連れて。ここで自分が人質に取られたら、交渉が駄目になる。
「あいつが、俺たちの村を襲った権化・・・。」キースは、怒りを通り越していた。小声ながら、それがリオの耳に入った。
「ええと、君は確か『キース』君、だったか。遠くから見ていたが、中々の戦いっぷりだった。君のような人材が禁軍に居ないことが残念でならない。スカウトしに来たわけではないが・・・この際はいい。あれはただの『茶番』でね。」
キースとアータルタは絶句した。
「茶番?!馬鹿な、そのために私たちの村を襲ったというのか?!」クリプトンは不可解でならなかった。ただの茶番にしては本気だった。毎回毎回門からではなく端の方から進行してきて、壁やバリケードを設置しても毎回毎回・・・。
「そうだ。帝国内の犯罪者、特に重犯罪者を中心に編成した部隊だった。『決死隊』と言う名でね。もし生き残ったら文字通り『必ず殺す』ことを目的としてね。結局陥落しなかったが、その代わりに門の部分に集中させないようにすることができた。今回もね。」リオは、まるで自分の作った美術作品でも見るかのような目と表情で自慢するのだった。
「今回・・・まさか!」アータルタは一早く気づいた。村に進行中であることを。
「そうだ。なるべく早めに終わらせる方が良いだろう。前回は門から侵入したから対策されていてね。だから今回も横からの攻撃になるだろうってね。自国民がこうして死んでいるんだ・・・さあ、降伏することだ。」
そして一休止置いて、再び語り始めた。それは、ストーカーに近い内容であったことは否めない。
「『アータルタ』、君にも家族はいるだろう。一四か一五の弟が鍛冶場の跡取りになるんだとか、ずいぶんと張り切っているようだったね・・・死んだら何も残らない!さあ早く!死にはしない、ただ降伏のサイン、それだけだ!」リオはタリウスに詰め寄った。その笑みは勝ち誇った表情と、それに相反する焦りが見えていた。
とはいえ、タリウスにはカードが残っていなかった。
「降伏する!!降伏すると言っている!我が死ぬのはかなわない、しかし、民が死ぬとなれば話は別だ!」
「・・・英断、感謝する。」そして、タリウスはその調印書に名前を書こうとしていた。
三分後、再び逃走劇が再開されることになるのは、この場では誰も思わない。
お詫び:ソビエトは帝国じゃありません、社会主義国です。(とはいえ滅んだ上、帝国主義のように版図を拡大していたのは事実。)




