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SCORE1:コンバット・ウェンディエゴ Ⅲ

「ジャガー隊、ほぼ全機ロスト!あと一機だけです!パンサーも残りわずか!」ノクタリスの管制官は悲鳴に近い声を出してこう言った。


「なんだと!」司令官の全身に嫌悪感が生じた。そして、前方からまた二機がやってくるではないか。まるで、かつて同胞を死に追いやった「ナーガ」ではないのか・・・?


 何が新型だ。結局は「ナーガ」に撃墜されるだけではないか。そして「ナーガ」がいるとわかった以上、ここに居続けることは死神と親友になることに等しい。余計に死なせてしまうのはごめん被る。


「我々は『ナーガ』の存在を確認!これ以上の戦闘継続は不能と判断!撤退を始める!」

 退却の準備を始めようとしたその時。


「右舷前方、ミサイル群、来ます!」ソナーマンのさっきの陽気さは打って変わって悲惨さになった。

「迎撃しろ!」そう司令官は命令した。側面にあった砲台が次々とミサイル群を一筋の光にしていくその 爽快さを横目に見ていたが、今度は八機のS4がその光の奥のほうにいるではないか。それも質量をもった弾丸がほとんどずれて当たらないくらいに避けられるような距離に。


 奴らは、レーダーに入らないように楕円に、遠回りに移動していたのか!何というタイミング!こうなったらビームで対応するしかない・・・!


 が、そのビーム兵器は、たった今撃墜したミサイルの方向に釘付けだった。ブリッヂから左に直角の方向からビームの筋が一六本、彼らの船の下半分を貫通した。

 旗艦は無事だったが、前の方からも広がっていった爆発は一瞬後に数隻のセフのブリッヂまでも火の手が上がり、手前の窓の強化ガラスの破片がセフに乗っていたクルーの頭蓋骨や目や心臓に突き刺さった。彼らはは数秒悶えたが、下から這い上がってきた爆風によってすぐに楽になった。


 たまったものではない・・・!すぐに離脱しなくては!退却してまたやり直さなくては。

「ジャガーとパンサーの回収急げ!・・・ビームが直撃した数隻は見捨てる!責任は私が引き受ける・・・。どのみち彼らが捕虜として回収するだろう。民主主義がどうのこうので人権とやらを蔑ろにできないらしいからな。急げ!たかが一〇機のS4に沈められてたまるか!」啖呵を切った。二分後、多くのパンサーの犠牲を払ってジャガーを回収することができた。が、損害に見合うだけの成果を得ることは無かった。

そして、みっともないのは承知のうえで、ジャガーを一番安全に収容できる戦艦の中に収容したのち、我先にと離脱していった。


「当たった!当たりました!」そう興奮するバーバラを呆れたようにレベッカは、

「まだまだこれからよ。まだ撤退をしていないわ。」と諭した。いくら主席でも、こういったことには無邪気に喜ぶものなのか・・・と思うと、他の船は味方を見捨てて逃げていくではないか。一番防御力の高い旗艦を先頭にして。


「追いますか?」他の誰かが言ったが、レベッカがそれを静止した。どうせなら、広めてやってもいい。「ナーガ」だの何だのの噂で撤退して・・・そしてチェルカトーレ付近に来ないことになったら。


「もうそろそろ本体と合流できる。シミュレーションの方が動きは素早かったけどな。」

「あれは実際の動きを反映しているものじゃないですよ。バグです、バグ。実際にあんな動きしたら今頃三〇Gぐらいでミンチですよ。」リンがカールに言った。加えて、

「それに『ナーガ』とは何です?彼らはまるで『幽霊だ!』と叫んでは怖がる子どものように怯えていましたが・・・。」

「死神でも見たんだろ、きっと。まあ、導火線あたりに聞けば分かるさ。」

「何を話していたのよ?」レベッカが割って入ってきた。通信可能区域に入ったからか、レベッカが地獄耳なのか。


「お前さんのことを『ナーガ』じゃないのか、とリンが。」

「何を言ってるんですか!自分は導火線だなんて一言も・・・。」反論はする。

「自分のことは置いといて人の噂ばかりね。」呆れた声で言うレベッカの話の内容に一同は驚いた。


「自分のこと」、その一言でカールとレベッカが「ナーガ」の一頭であることが知られてしまったからだ。もちろん、自分から言うこともなかったから、あまり気づくこともないことだが。


「カ・・・カール大尉とレベッカ大尉は・・・本当に・・・『ナーガ』なんですか・・・?!あの『ナーガ』ですよ!なんで言わなかったのですか!」

 バーバラの怯える声に呆れたようにレベッカがこう答えた。

「自分からは名乗っていないわ。勝手にあいつらが言っているだけよ。それに、『撃墜王』の方が、ドスが効いていていいから。」

「『導火線』よりは気に入ってるのだろ?」また、カールが割って入ってきた。

「だから異性には全くモテないのよ。カールは。」一同は一斉に笑った。彼女は事実を言ったまで。彼らはそれを再確認・再認識したまで。


「そうかい、そうかい。それと、今はここでにらみを利かせることが重要だろうが・・・やっぱ動きはないか?」冷静に、巡洋艦のデブリと化した宙域を見つめた。

 ビームを直撃したとはいえまだ人が生きている可能性がある。船が壊れて動力や指揮系統が死んで動けなくなったのだろう。もはや彼らは脅威ではなかった。


「降伏勧告、する?」

「僕は『サブ』だし何とも言えないけど、やっとけば?」


 そしてレベッカはスピーカー越しに降伏勧告の定型文をなにかの紙に書いていたものを読み、彼らもそれに応じた。今までそのセリフを言う余裕がなく、初めてのことだったから、彼女は何回も舌を噛んでしまったが。カールに言わせれば、「口は立つが人前には立てない人物」だそうだ。政治家に向いてはいないという意味らしい。ただ、それは彼女にとってはどうでもよかった。

 

 向こうの損害は二〇隻中大破六隻、航行不能六隻の計一二隻。それに対しカールたちは、リンとカールのS4のアームの摩耗のみ。死傷者数は〇だった。こうして、この遭遇戦は終わりを迎えた。ただ、厄介だったのはその後だった。

「今の所あと何章残っている?」カールがさりげなく言った。それは、どうにもならない事をあえて言うかのような、そんな感じの笑い顔と一緒であった。

「7章だ。そう焦りなさんな。」

「マジか。だったら早く出せばいいのに。読む人が・・・まあいい。取りあえず出すことだ。鉄を熱い内に叩けって言われなかったのか?」

「じゃあ聞くが、この小説が人気になったんだって、500年後の人間は知っているんだろう?おいコラ、何故言わない!」カールは顔を背けて行った。気まずい顔をしやがって。

「・・・そりゃあ、まだまだだからさ。」

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