間話8:ハイリスク・ローリターン
ただのギャグ回。・・・たまにはこんな日があっても良いじゃないか、これから怒涛の戦闘回に突き進んでいくのだから。
これは、カールたちがクルバノフ首都・カルナブルクに着く三日前の午後九時の出来事。
「いい加減負けを認めたらどうだ。」
「そっちだって。レイズ。」カールとキースはポーカーをしていた。ただしカールはイカサマ全足しの。
「レイズ。」
上乗せの応酬が続き、この試合は白熱して、気が付けばギャラリーがわんさかついて来た。
キースは、この試合が始まる前に「このゲームはイカサマをしない」と言っていた。アータルタの目の前で睨まれながらというのもあったが。明言した後、彼女には、笑顔が戻っていた。
しかしそんなことはカールにとってイカサマ道を阻むものでもなかった。構わずに古典的かつテク二カルなズルを続けるのであった。
レベッカはおおよそカールのイカサマには気づいていたが、それはいつもカールがイカサマの常習犯であり、気づかれず巧妙に行うカールの手段はレベッカが嫌と言う程身に染みていた。酒が入る前は真面目に、酒が入った後はイカサマを。これが、カールの習性であった。
そして、カールとキースの二人は同時にテーブルにカードを置いた。
まず最初カールは、村のアークへシス軍が駐留するテントの中でコール、レベッカと共にポーカーをしていた。テントと言えども、運動会で使うテントを迷彩色の緑で塗装し、側面を同じように布で覆い緑の迷彩色で塗った、官舎
「ベット。」とカール。
「同額。」とレベッカ。
「同額。」と同様にコールが言う。コールが「コール」と言ったまでのこと。別に気にする必要も無い。
「上乗せ。」カールは自信満々に言った。そして三倍近くのチップを上乗せして二枚カードを交換した。
「退かなくていいのか?今チップが無いのはお前の方だ。」コールはカールに微笑んだ。悪魔のような笑みだった。
「いいや、今回は天の美神だけじゃなくて、地獄の美女の悪魔も味方してくれているみたいだ。」
「あんたはどうして何でもかんでも『美女』にしたがるの?」レベッカの意見はごもっとも。そしてレベッカは今回はドロップ・・・つまりリタイアしたそうだ。
「レイズ。」コールは一枚引いた。
「やけに強気だな。負けが近づいて『ヤケ』になったのか?」
「どうかな。」カールとコールの言葉によるジャブが続く。
「レイズ。」カールはまさかの更に二倍・・・手持ちの全額を賭けた。
「嘘ォ・・・」レベッカでさえ、これには感嘆を禁じ得なかった。
「じゃあ、これがラスト・ゲームだ。乗った!スペードのフラッシュだ!!」と同じ金額を賭けた後、コールは手札を見せた。
「ふふふ・・・残念だったな。6と7のフルハウスだ!」満面の笑みでカールは言い、カードをテーブルの上に置いた。
「嘘だろ!」
「へっへっへ・・・だからあの時降りときゃよかったものを。」カールまるで日本の時代劇に出てきた悪代官のような笑みをし、まだ誰も開けていないビール缶を開けた。少しだけ水蒸気がビールの匂いを辺りにまき散らしていた。
「・・・悪い顔!!」レベッカは指さして苦笑いしながら言った。
「おいおい軍人が酒飲んでいいのか?」外からキースの声がした。どうやらアータルタやクリプトンと一緒の様らしい。
「いいのさ、今は夜勤が取り仕切っているからな。勤務時間外だ。」コールは外の連中に向かって行った。
「・・・このカードは何だ?」キースが中をのぞいた。
「トランプ、って言う。」カールが言った。
「・・・中に入って良いので?」アータルタは少しだけ疑問に思ったが、クリプトンはこう付け加えた。
「いいのさ、コール君からオグラ中佐へ、ある手紙を渡してもらいたくてね。」彼の手に持っているのは、クルバノフ王家の紋様が蝋でシーリングされた手紙だった。その内容は、会談の時間や、王都カルナブルクでの王城のルートなどが記載されたものであった。
「へぇ、このルートで・・・。」カールは言った。しかし、それはまるで他人事の様だった。護衛役でコールが来ることになるのだろう、そして自分はこの村か基地で待機だと思っていたからだ。
だが、この時まだ彼は知らない。彼とレベッカが行くことになり、コールは待機することになることを。
「まあ、今日中に伝えておいて欲しいことではある。今行けるかい?」クリプトンはコールに向かって行った。
「良いですよ。」そう言って、コールは通信用テントへと向かって行った。
「さて。この『トランプ』っていうのは、どうやらただの固めなカードのように見えるが・・・。」クリプトンは言った。
「・・・興味あるのか?」カールは言った。
「ああ。」
「ギャンブルはあまりのめり込まない方がいいぞ、僕らは金を一切賭けていないんだからな。このチップは、まあ、ゲームの『手形』みたいなものだ。」
「いや、その手の『ギャンブル』を珍しいと思っただけだろ。」キースは言った。
「いくらでも不正のしようがあるのよ、あたしたちは。ズルは嫌いなんだけど。」アータルタは言った。
「不正?カードを裾の中に隠したり・・・」カールは言いかけたが、レベッカに睨まれていることを感じ取り、その後の言葉を濁した。
「まあ、それに近いような、そうでないような・・・。」クリプトンは言った。そして、遠くからカードを一枚、直接触れずに手に取った。
「・・・『ソル』か。」カールは感嘆に近い声色で言った。
「そうだ。こっちは証拠の無いイカサマができるからな。だから、王都でも賭け事と言ったら魔法杖のレースや闘技場での賭場だ。『戦争ゲーム』でない限り、自分で行う賭け事は無い。もっとも、私はやるつもりは無いし、第一ギャンブルは嫌いでね。」そして、そう言って見せたのは、ジョーカーの手札だった。
クリプトンはじっくりその手札を見て言った。
「ええと、『J』、『O』、『K』、『E』、『R』っていうのか。中々慣れないな、この文字は。」
「道化師って意味さ。」カールは言った。
「・・・記号以外は分かりずらいわね・・・。」アータルタは数字とJ、Q、Kの組み合わせがよく分からなかった。それもその筈、翻訳系は全てAIが担っているのだから。
「何か簡単な奴ってあったりするのか?」キースは言った。
「サイコロ三つでできる簡単な奴がある。『チンチロ』って言うんだけどな。」
「・・・言ったじゃないか、カール。俺たちは・・・」
「目隠ししてやるのよ。」食い気味でレベッカは言った。
「目隠し・・・」キースは少し興味がわいた。
カールは少しレベッカの目を見ていたが、肝心のレベッカは「やれやれ」としたり顔だった。
キースはソルジャー・ギルドの支給品である毛織物のスカーフを目に巻き付け、そしてカールは三つのサイコロとグラスを用意した。そして、サイコロをキースが握ってグラスの上で落とそうとしたその時。
「全部赤い奴が上ならいいんだな?」
「・・・今なんて言った?!」カールは言ったが時すでに遅し。サイコロの一の面ですべて上になった状態であり、そしてそれを軸にして独楽のように回転していたのだ。
「「こいつ・・・!」」カールとレベッカには分かっていた。彼が目を閉じる直前、サイコロの構造を確認していたのだ。
「六の面で全部確認した。こいつらが下に来るようにな。・・・結局、ソルが触れていたら全部分かってしまう事なんだから。」アータルタに後ろで睨まれながらもキースは満面の笑みで言ったが、カールはそこでくじけない。
「なら、十八番のポーカーだ!!」
そして今に至る。レベッカは、その試合を見るために三〇人以上がぞろぞろと近づく様子に辟易していた。それでも、カールたちの試合をじっくり観察した。カードの幾らかを裾の中に隠し込み、軍から支給されているサバイバルレンズに鏡加工用シールを張り付けた代物を自分の靴に「うまい具合に」靴紐の部分に挟み込んだりと、色々悪事を働いた。しかし、今回ばかりは巧妙で、レベッカでも見分けがつかない程だった。
しかし、そんな悪事はバレだした。まず、キースがレベッカに向かって、「こいつはカードを裾に隠しているんじゃないか」という難癖をつけ、レベッカは半分呆れて笑いながら裾を確認した。第一、アータルタに監視されながらイカサマを行うなんて不可能に等しかった。行えば最後、煉獄の片道切符。しかし、逆に「私は無実です」と言う免罪符になりえて、それが周りからの信用になっていった。
だが、カールの裾から出てきたのは予想外なもので、手書きで「JOKER」と乱雑に書かれ、裏面に「ざぁこざぁこ♡お目当てのを見つけられなくってざーんねん♡」と書かれただけの「紙」切れだった。
レベッカはカールを思いっきし殴った。
「痛いじゃないか!!」これが三ゲーム目。なお、本命は背中で、背中を掻くときに裾の中にカードを入れるのであった。
また、カールはその「観衆」でさえインチキに利用した。
キースの真後ろに居た第二中隊所属のモディ・ダイオライト一等兵の身に着けている眼鏡が、うまい具合にカールに反射していたのだ。そして、それにはキースの手札がしっかりと。
カールは、してやったりと言う顔をしていた。彼は今、4のスリーカード。そしてキースはキングの2ペア。カールは、カードを交換している最中のキースに向かって余裕の表情で問い詰めた。
「僕の手札は中々強いぜ?レイズ。」
「まるで俺の手札が分かっているみたいな言い方じゃないか。レイズ。」
レイズの応酬が続き、気づけばカールとキースの殆どのチップを賭けたのだった。しかし、彼の手札は四枚しかない、何故だ?何故隠す!だが、問題ない、こっちが勝っている。そうカールが思ったのも束の間であった。キースには狙いがあった。
「4のスリーカード!」
「キングのスリーカード!!」
カールは慄いた。いつ、どうやって、もう一枚キングを、スペードのキングを増やしたのだ?!自分にスペードのキングがある(背中に、だが)。
しかし、その答えはすぐに見つかった。カールが勢いよくその一枚のカードを取って、擦りだした。
「何してるの、カール?!これは私のカード・・・」レベッカが怒りだしたが、その怒りはすぐに収まった。カールはすぐに種明かしをした。
「よく見ろ、インクの跡だ。・・・よくここまで精巧にキングを作ったものだ・・・。」一同は驚き合ってキースを見やった。結局、彼も行っていたのだ。アータルタに見られないようにすぐに手に取って、そしてキングを他の黒のカードを使って再現。成功に見えた。しかし、それはカールが暴いたことですべてが無に帰した。
キースは口笛を吹いて席を立とうとした。
しかし。
「ねえ、キース。」後ろからアータルタと言う名の、今にも怒りで爆発しそうな女悪魔は言った。
キースはダッシュしてテントを出た。
「キースのせいであたしたちがろくにゲームができなくなったじゃないの!!信用をなくして!どーすんの!!」
「仕方ないだろ、あいつが散々イカサマしているの見てこっちだってやりたくなっちゃうもんじゃないか!」
そして、夜道での大逃走劇が幕を開けた。
「ふう。悪は滅びた。全く、僕のことを『イカサマ』とかいってさ・・・。」カールは言った。どの口が言ってるのだか。
「・・・なんでスペード・・・?のキングが偽物だってわかったの?」アルミナが言った。
「ハッ!!こいつ!どっから入り込んできた!」試合の駆け引きに夢中で、部外者たるアルミナの存在に皆は気づいていなかったリューベリックは捕まえようとしたが、軽快なステップで躱し、彼女の家の方面に逃げて行った。
「・・・で、どうして分かったの?」レベッカが問い詰めた。
「・・・」
「・・・カール?」
「・・・」沈黙を貫いていたが、見る見る冷や汗が浮き出て来た。
「「カぁーーールゥ!!!」」一同はカールに向かって言った。それは、糾弾以外の何物でもなかった。
そして、キースが逃げた跡を追うように、レベッカや他の皆の追手から逃れようとした。
「やけに賑やかだね。」通信中のオグラ中佐が、コールに向かって聞き出した。
「ええ。何が起こってる・・・?え?カール?・・・分かりました。」
「どうだったの?」
「カールがポーカーでイカサマをしていたとか何とか。」
「死人やけが人は?」
「いません。『まだ』ですけれど。止めに行きます。」
「早めにね。」
「了解。では。」そう言って、コールはカールの元へと向かって行った。
たとえ一週間近くとはいえ、暇ではなかった。なぜなら、一番の親友が皮肉と酒とトラブルの、カルロス・パルマがこの村に存在するのだから・・・。
12月20日第9章公開!!




