SCORE8:コンフリクト・イン・クルバノフ Ⅲ
少しおくれて申し訳ない。今回は1万近くです。それでは、夜分遅くながら、ブランデーでも一杯飲みながら、どうぞ。
時間を遡ること一週間前。
「で、誰を『ネメシス』に行かせるか。」閣議にて、アークへシス首相、セルゲイ・アレクセーエフは言った。選挙の演説の時に絶対に見せることのない緊張の部類に入るであろうその頼りない声でさえ、多くの閣僚の緊張をあおるのには十分すぎる程緊迫した空気だった。
これは、「誰をクルバノフに行かせるか」と言う責任問題であった。その星が無人惑星であったら問題が無かった。しかし、予想と言うものは常に超えてくるものだ。二一世紀前半のアジア人選手が旧アメリカの野球の公式大会でMVPを何年も連続で取る選手が誕生してくる位の、いやそれ以上の確率の低さとでも言うべきか。
人がいたのだ。それも魔法を使い、文明を確立して、尚且つ人間とDNAが同じの人間が。エルナシア人と彼らは自分で言うが、閣僚たちからしたら「法律の根底を揺るがすエスパー共」と捉えられているように見える。それもこれはまだ仮定だが、その能力の本質が「分子を動かせる」かもしれないという事にあるのが更に深刻さを増していた。
もし仮にそのクルバノフ王が残虐かつ冷酷無残であったら、軍人どころかこちらも殺されてしまう。占領の口実ができるであろうが、それはこの国のポリシーに反する。
かつてアークへシスの基幹となった三ヶ国、アメリカ・中国・ロシア。地球の大国の「全面戦争」によって地球の汚染が持続不可能になり、人間が住める環境でなくなった。「地球環境」的に言えば、環境保護自体が人間主観で都合のいいだけのものであったかもしれない。
だが、覇権主義の結果、今までの環境保護の運動が全て無に帰した。そして地球環境の大きな変化は人間が適応することはできなかった。
結局共同体として形成するわけに至ったが、諸外国からしたら「都合の悪い者同士で互いの傷をなめ合っている戦争犯罪国家」とも称され、罵倒されるのであった。幾つかの国々は支援を申し出たが、それは「自国の旧国民」、則ち同化した〇〇系アメリカ人、〇〇系中国人、〇〇系ロシア人の「〇〇」の人を助ける、と言う名目上であった。だが、皮肉なことにもそれが数少ない公的援助として再起の足掛かりに繋がったのである。
そして、人類史の舞台は宇宙へと進む。
このような過去があってか、「覇権主義の放棄」という項目を憲法に記載するに至った。つまり、植民地支配、他国の属国化も可としなかった。自治は民族自決に全てを委ねる、という事だ。その要素もあってか、彼らは悩んでいたのである。彼ら「エルナシア人独自の能力」と「覇権主義の放棄」の狭間でどうするか。
誤解を招かないように言いたいが彼らは、責任を取りたくない責任者が集まった閣僚たちではない。ただ話し合いが少し長引いているだけである。どこからどこまでを交流の限度にするか。貿易はどうするか。食料の調達は可能か。軍の駐留か退去か。同盟か非干渉国家とするか・・・。これらのことは決して外に漏らしてはならない事案であったため、官僚でさえ限られた人数がこの計画を補佐する程気を配っていた。
しかし、人間と言うものはじっとしていられないものだ。駐留軍から再三の「外交要請」の申し出を受けている、と言う報告が上がってもなお、彼らは最後にして重大なことを決めかねていた。それは、「誰を外交のトップに据えるか」である。最初のイメージは一番大事なことなのだが、適任者はいるにしても多少の問題があった。
セルゲイ首相が、「ええい、じれったい」と言ってまず最初に行こうとしたが、それは他の閣僚に反対された。それもそうである。国家のトップが暗殺されでもしたら、選挙を行わなければいけない。「キツネ」が手を打っていたとしても、ノクタリスのスパイによる工作も行われる都合のいい機会だ。また、「なぜ亡くなる羽目になったか」という理由付けにも困る。最悪ノクタリスのこのプロジェクトを察知され、駐留軍を危険にさらす。・・・もっとも、この情報をノクタリスがまだ察知しているとも思えないが・・・。
「私が行きましょうか。・・・ノクタリス対我らの戦争によって中立国はほぼ全て『味方か、それ以外か』になっているというフレーズが出てきてしまう程、二大巨国間の戦争のせいで今現在となっては形ばかりのポストですが。」外務相ヒロノア・フレデリックが事を発したのは、この会議が始まって二〇分に満たなかった。
彼は「豪傑」が物静かな雰囲気と紳士的な服装で身にまとっているとよく周りから称されている。実際そうであった。身長一九八センチ、体重一一〇キロ。筋骨隆々。スキンヘッドの中年で、彼自身が「大佐です」と言っても遜色ない程の風貌だった。
十数名もいる閣僚たちは、自ら死へと突き進むような一言を固唾を飲んで聞いていた。やはり皆は自分の命が惜しい。当然の反応である、わざわざ死にたい人間がまともな政治家になれるはずもない。
しばらく後、シュー・レイアン科学技術相が言った。
「実を言うとねぇ、私自身も向かいたいのだよ。『ソル』と言うものがどういう仕組みで動いているのか、元・科学者ながら俄然興味がわいてきてねぇ。良いだろう?」七〇に近い老人が穏やかに言った後に、フレデリックが言った後とは別の雰囲気を伴った静寂感が辺りを漂った。
どちらも負のベクトルには反しているものであったが、フレデリックの場合は畏敬、レイアンでは安堵であった。
「分かった。では、二人に任せる。以上、解散!・・・レイアン、フレデリック、頼んだぞ。」首相のセルゲイは言ったが、どちらも帰ってきた言葉はこうだった。
「私らがいない間に陥落しているんじゃないぞ。」、と。
そして、シュー・レイアン科学技術相とヒロノア・フレデリック外務相は、クルバノフ王と外交をする一二時間前に、惑星ネメシスの周回軌道を回っているマーシャル6と合流したのであった。
「という訳で、結構遅れたのだが、取りあえずよろしく。」そうレイアンは言った。
「いえいえ、とんでもない。こんな出迎え方しかできなくて。」ローゼンバーグ准将は、ブリッヂの前で立っていた。
「なあに、気にすることは無い。・・・それで、今すぐ出発したいのだが・・・」せっかちなのか、仕事熱心なのか分からないフレデリックだった。
「シャトルの用意は後二時間で出来ます。その間、少しだけこの星の説明でもさせていただければ。」
「説明も何も、大佐、君自身はまだこの星に降り立ってはいないのだろう?」
ローゼンバーグは少し見透かされた感がした。
「それは・・・軍からの命令で。」
「降りるな、と?」詰め寄るレイアン。
「本心を言ったら降りたいのですけどね・・・。」だが、流石に越権行為なのかもしれない。上層部から待機命令が出され、オグラ中佐にその星の基地の指令を担っている今、自分の出る幕が果たしてあるのだろうか。
「別に良いのではありませんか。」ローゼンバーグの沈黙の後言ったのは、意外にもフレデリックだった。そして続けてこういった。
「実行責任者が一度も会わないだなんて、もし仮に何かあったときに、オグラ中佐だけに責任を負わせるつもりですか?」それは辛らつともいうよりも、責任者の顔つきであった。
「・・・では、スズキ少将に一度取り計らってもらいます。」
そして小一時間後。
「ゴーサインを先方が出してくれたようです。」ローゼンバーグは微笑んでいた。
「それは良かった。」レイアンは笑いながら言った。そして、マーシャル6の指揮権はスズキ中佐のまま、ローゼンバーグは副官のレー・クアン・フィン少佐も連れて、シャトルで降下するのであった。
かくして、カールたちの駐留する村に政治家や官僚、学者が団体で来て、魔法の体系について調べることになったのと同時に、国王に謁見することにもなったのである。
謁見に行く人はヒロノア・フレデリック外務相とそれと五人の官僚、軍関係では司令官代理兼護衛のオグラ・キョウコ中佐とプロジェクト責任者のローゼンバーグ准将が、そして第一発見者にしてファーストコンタクターのカールとレベッカ。第二中隊のメンバーを四人(リューベリック、モディ、ズィブ、ロック)と、輸送ヘリの操縦士計四名を引き連れ向かうのだった。少人数で何よりである。
また、山賊の報告も兼ねてクリプトン、キース、アータルタも同行するという事らしい。
実を言うと、彼らはこの国の名うてのソルジャー・・・らしい。彼らが自称しているかもしれないが。だが、もしもそうだとしたら、その村で生まれたアルミナは「平均」なのかもしれない。大半が魔法を使えるのは変わらない。だが、身の回りにエリートが多い。キース曰く、
「アルミナの母親はアータルタの師匠。で、亡くなったアルミナの父親は俺の師匠でもあった。だから、一生頭が上がらないのさ。」と、謙虚という二文字が欠如している人間が発したとは思えなかった、と戦争が終わった後に思い出すのだった。キースやクリプトンのようなひねくれ者が跋扈する人間に囲まれている彼女の環境のせいで、アルミナが卑屈にならなくて良かった、と思うカールだった。
時々カールはアルミナの母、マクラーナと話をする。アルミナとも話をするが、彼女自身は学業で忙しい。この村ではギルドが村の教育にも取り組んでいる。識字率が高いのは、これによるものかもしれない。それに、彼女はソルの能力がまだ未熟。・・・であるならば、その親に聞いた方が効率も幾段高いはずである。
ソルのことについて少し、そしてアルミナのことやキース、アータルタや、クリプトン、シーディアなど、この星の色々なことについて。彼女はアータルタの師匠と言うだけあり、二〇個以上もの水のボールでジャグリングする程の精度を誇った。
時折、彼女はカールにこんなことを言う。
「アルミナには、戦いに身を置いた生活をして欲しくないんだけどねえ・・・。」
「あなたも『ソルジャー』・・・だったと?」
「ええ。」
「でも、アルミナは、あれは自分から『シーディアの様な、人々を助けるソルジャーになる』と言っていますがね。・・・立派なことだ、僕はそんな人間にはなれっこなかった。」
「あなた達が『ソル』について知りたいことも分かるわ。でも、アルミナだけは巻き込まないで。私は反対なの。それだけは分かって欲しい。彼女には、『敵』は存在しないんだから・・・。」
双方穏やかに言うものの、肝心の顔は曇っていた。心を殺し、震えを止めていた。カールは自分が戦闘機乗りと言う名の大量破壊者になった経緯を、マクラーナは自分の夫を戦場で亡くして自暴自棄になり、撤退する多くの敵兵を故意に、敵兵から地面に滴り落ちる血潮を水代わりにして頭を貫いていた事を思い出して。
「ただいまー、母さん。あれ、カール。来ていたの?」ギルドから教材の入ったバッグを持って帰って、家の中にその荷物を置いた。
「ああ・・・大したことは無いけどね。」だが、その顔が全然大したものではなかったという事は、アルミナは言い出すことは出来やしなかった。
カールたちが王様に会いに行っている間、バーバラとリンは待機。第二中隊は予定通り残留(ここは帝国との国境沿いであるため帝国軍がその気になればすぐに来れるため)となった。
そして・・・。
「今日から臨時で司令官になりました、カン・アユン大尉と申します!」
「分かってるから、分かってるから!そう恭しく言うな!」砂漠の基地でジャックはアユンのネタに苦笑いしながら答えた。彼女は第三中隊長で、防衛向けである作戦のエキスパートであった。過去に別のコロニーで戦果を挙げ、移動でこの部隊の隊長に任じられていた。
「それじゃあ、留守はよろしくね。」オグラ中佐は優しく言った。少しだけ、嫌な予感を感じ取りながら。
「・・・何かが起こるというのですか?」ジャックは聞いたが、はぐらかされるだけだった。
「いや、自分の勘が当たることはあまりないからね・・・。でも、気を付けるよ。襲われるとは思えないけど。」そう言って、彼女はヘリポートへと向かうのだった。
「大丈夫でしょうか・・・。」
「気にしなくたって生きて帰るさ、あの人なら。」ジャックはなんやかんやでこの隊長を信用している。だからこそ、生きて帰って欲しい。そう、思うのだった。
だが、その思い自体がどうでもよいと思えるほど追い込まれる出来事が三時間後に起きてしまうのは、予想外だった。
「貴方がクリプトンさんですね。初めまして。『責任者』とされているローゼンバーグです。」
「初めまして・・・。まあ、電話とかで何度か話してはいるのですがね。」どちらも恭しく言うだけだった。村の中で、カールたちはオグラ中佐と合流していた。
コールはお留守番だという事が分かっていたので、村の待機組のソルジャーたちと木こりをしていた。少し土地を確保したい思惑があった。もし交渉が上手くいかず、この土地を立ち退かざるを得ない状況になったとしても、彼らなら、畑などで土地を有効活用できるだろう。許可は取ってある。
だが、コールのその丸太の担ぎ方が五〇〇年近く前のハリウッド映画「コ〇ンドー」・・・の冒頭部分のそれであり、それを認識して噴き出したのはカールだけだった。この時代ではマニアックなものであったことは否定できない。
今でいう、源氏物語などの古典作品を好きで見ているオタク女子(軍事映画が女子に人気なのか、という質問はよく分からない)、と言うべきなのだろう。もっとも、カールは男であって女にあらず。
「ですが、ヘリコプターで行くというのは、彼らに警戒される可能性もあるのでは、と思ったのですが・・・。」ローゼンバーグは、少し心配であった。彼らからしたら未確認飛行物体だ。
「いや、ギルド本部から国王宛てに連絡は入れているから問題ないと思われます。」そうクリプトンは言い、全員は乗り込んだ。
カールはS4に乗り込もうか迷ったが、必要ではないように感じ、コールたちに任せることに決めた。ヘリよりも音が出るのだ。余計に影響を与えかねない。
「少なくとも、壊されないように見張っておけばいいんだな?」コールは、カールの大事な「おもちゃ」を見るような目でS4「スターピアサー」を見ていた。
「そうだ。必要な事態にならないように願うよ。」
そして、王都へと進んでいくのだった・・・。
カールは、この時あまりいい気分じゃなかった。S4と比べてヘリが遅いから、何ていう子ども染みた感想は一言も思うことは無かったが、代わりに気まずい空気感が流れて来た。
それは主に、フレデリック外務相の影響でもあった。彼は無口。喋るときは喋るらしいが、この時はまさに「堅物」が服を着て歩いているような、そんな印象だった。そして第一印象は、とにかく「怖い」。悪人ではないことは確か。
けれど、スキンヘッドで、眉が少し削れ(本人曰く床屋のミスらしい)、そして白内障の手術の影響でサングラスを付けなければならなかった。そして筋骨隆々。それが威圧の元になっていたのは否定できなかった。
そんな彼も、自分の無言でいる時に顔が「やっさん」になってしまう癖を自分自身で自覚しており、周りの人が気を使っているのが、一人、少し心に沁みるのだった。
「で、これからどこへ向かおうというのですか?」とうとう無言でいることに耐えられなくなり、フレデリック外務相は直接クリプトンに聞いてみた。
ヘリに乗っている三人のエルナシア人は恐怖で満たされていた。勘弁してくれ、話しかけないでくれ、そのような表情だった。
「ええと、王都の『カルナブルク』です。そこに居ります国王陛下に今から会いに行く訳ですが・・・」必然的に口調が敬語にならざるを得ないクリプトンだった。
「・・・あの、すみません。聞きたいことはそれじゃなく、『どこの地点に降りるのか』、という話です。流石に城のど真ん中で降り立つのは流石に警戒どころか追撃されても仕方ないかと。ですので、どこに降り立つのですか?」
「王都内のギルド本部の演習場が開いておりますので、そこで降りてもらって、後は魔道馬車で王城まで参る、といった所でしょうか。城塞の兵士にはギルドから連絡を入れておりますので。『二機の鉄製の回転する羽を持った物体が来るが、それは帝国の最新鋭を強奪した逸品だから気にするな』、と言っておきまして。」
話してみれば、謙虚な人じゃないか。警戒のセンサーを一段階下げてもいいと判断してからは、クリプトンも少し表情が明るくなっていた。
「魔道馬車?」
「ええ・・・地上を走る馬車です。馬ではなく、動力は魔法ですが。あなた方に言わせれば、『タクシー』とでも言うのでしょうか。」
「それは凄いです。どういった原理で動いているのでしょうか?」
「魔法でピストン内部の空気を膨張させて、そこから動力を得ています。変な機構ですが。」
カールは耳を疑った。「スターリングエンジン」の原型を作っているではないか。何が「魔法中心の文明」だ。しっかり科学と融合していらっしゃるじゃあないか。・・・いや待て。王都だけ、文明が発達しているのではなかろうか。いくら帝国の科学レベルとは比べ物にならないとしても、研究を怠ってはいないようにも見えた。だが、それは王都だけの話かもしれない。
それか、まだ技術的には不十分で大型のものはできない、それもまだ試作品段階であれば、話も通じる。だから、地方はそこまで発達できないのだろうか。だとすると、辻褄が合う。カールは思った。
「カール。やはり戦闘員がもう少し必要だったんじゃない?」レベッカは小声で言った。明らかに少ない。・・・とはいえ、戦力にならなさそうなのは外務相とその他数名の官僚、多く見積もれば自分たちも含むだろう。しかし、後ろのヘリにはオグラ中佐とその他の兵士がいる。ビームライフルを持っているのだから、そこまで警戒しなくてもいいとは思う。が、どうだろう。
ブラスターの残量は満タン。だが、いざ国王の命令で王宮兵士たちと戦闘になれば、アータルタやキース、クリプトンも牙をこちらに向けるかもしれない。そうなれば不利だ。
「・・・あまり変な事態にならないよう願うばかりだ。」そう、ぶっきらぼうに言うと、見えてくる物体があった。城塞だった。高さ一五メートルの大きな城塞がそびえ立ち、その中では多くの建物が見られた。
「ここが王都・・・。」口に出さずにはいられなかった。しばらく、人、人、人のひしめき合う大都市を見ていなかった。人がごみのようだ!・・・サングラスを付ければよかった、そうカールは心の中で呟いた。
チェルカトーレのコロニーに戻ったのは二か月前ぐらいだろう。その間、色々と忙しい事ばかりだった。観光を悠長にしていられる余裕なんてない。だが、今なら・・・できたりするのだろうか。
観光と言えばグルメを連想することだろう。カールたちは一度だけ、ネメシス産の食材を使ったご飯を食べたことがある。オグラ中佐に「用心して食べること。解毒薬と抗アレルギー薬は必ず持って行った方がいい。」と言われたが、実際あまり警戒する必要は無かった。実際使うことは一度もなかったのだから。
食材はある。魔法を使うことで生産効率が良いらしい。どうやら彼らはソルで窒素、リン、カリウムをうまい具合に地中に混ぜて埋め込んでいるようだ。カールたち駐屯軍にとって中々奇妙な風景だった。
ご飯は多少なりとも旨かった。何しろ、遺伝子組み換え・添加物有りの食品ばかりで舌が変になっていたカールたちにとって、これは新鮮であった。だが、同時に貧相でもあった。味付けが塩味と酢のみだったのだから。この食事ですらありがたい彼らにとって、贅沢を言える立場ではないだろうが。
だが、この星では砂糖・胡椒・発酵大豆調味料無いのだろうか、いや、あることはあるだろう。ただ地方には出回っていないだけなのかもしれない。輸送技術はあることはあるのだろうが、制限も色々あって実用化には至っていないと見えた。
ならば・・・ここは大航海時代前のイギリスだろうかと、不謹慎ながらもそう思ったカールだった。
「村の子どもたちを連れて行ったら良かったな・・・。行ったことのない奴らばっかで『おのぼりさん状態』になってしまいそうだけど。ここまで行くのに手間がかからないようになったら・・・。」ボソッとキースは言うのだった。
「お土産買ったらいいじゃん。本とかさ。」さりげなく言うカールだったが、クリプトンが反論した。
「馬鹿。子どもに物欲主義の思想を押し付けるな。」カールのスケベ本を欲しがった人間が何言っているんだか。
そんな愚痴を言っている間に彼らはギルド本部へと着いた。着陸地点に多くの人が集まっており、ざわめいていた。警戒はされなかった。王都の人々も周知だったからだ。どちらかというと、アータルタやキースを歓迎しているような雰囲気だった。
「山賊を壊滅させたんだってな!」
「ありがとうございます!これでキャラバンだった主人も安らかに天国へ行けます!」
素直に喜んでいいのか、どうなのか。もっとも、自分たちは本来蚊帳の外なのだから、偉そうにしている訳もいかない。ただ黙って、歩くだけだった。
「おうおう、なんか言ったらどうだ?」突然キースに言われた。
「ホントよ。あんたが倒したんでしょ、あの山賊のリーダーを。」アータルタにそう言われても困るカールだった。
「ここで君らの手柄にしないと良くない。あくまで干渉はしないつもりでいるのだから。」謙虚なカールだった。
「クリプトンさん。用意はできております。さあ。」黒いスーツを身に着けた初老の男性の姿が見えた。執事なのか、役員なのか、それとも王直属の公務員なのか。どうなのだろうか。・・・スーツ?ここにはスーツがあるのか!
「レベッカ、レベッカ!都会の連中、綺麗な奴らばっかだ!服装があまり変わらない!」
周りを見れば、女性は首元に変なヒラヒラを付けた上着に長いスカート、男性はコートに長ズボン、といった感じだった。
それに対しカールたちはグリーンベレーの制服のみ。外務相と官僚の人たちはちゃんと背広でこの中の雰囲気に合っているのだが、キース、アータルタ、クリプトンと比べ貧相。彼らは「ソル」の戦い方にあった服装であり、むしろこれがデフォルトの様に、正装のように思えたが。
まして、周りの連中と比べても同じだった。ローゼンバーグ准将やオグラ中佐も同じ柄であったためそこまで文句は出なかったのだが、「兵士」の身分なら妥当なのだろうか、それともきちんとした服装で行かねばならなかったのか。カールやレベッカには分からないままだった。
「本当!でもなんか・・・一九世紀って感じ?少し古くて懐かしいイメージね。」きっと言われる側がこの意味を知ったら、失礼に当たるのだろうか。
「そこまで来ると後はファッションの内容は変化しないのだろうか。」
「多少は変わるんじゃない?例えば、ベルトの服とか、ロープだけの服とか、体を一本のリボンで巻いただけの・・・あああっ!今のは無し!無し!ノーカン!」顔を赤らめて言うレベッカだった。
「驚いた・・・!レベッカの口からそんなセリフが聞けるとは!」これは本心。
「下らないことを言ってないで、早く行こう。時間はなるべく短縮したほうがいい。混乱も避けなければならないからな。」ローゼンバーグに言われた。もっともだ。観光は・・・できないだろう。カールはそう考え直した。
そして、彼らはクルバノフの王の住まう居城へと向かうのであった。




