SCORE8:コンフリクト・イン・クルバノフ Ⅱ
今日は少し多めです。紅茶かコーヒーの準備も忘れずに、ではどうぞ。
「今日集まってもらったのは、最終調整のための施策である。・・・まあ、堅苦しい顔をしなさんな。これで、クルバノフは陥落する。そうすれば、我々の、そして皇帝陛下の御志しは実現する。」
ジルカン帝国・帝都チテルグラード。そして帝都にある皇帝の居城「聖なる真鍮の居城」。そこで、多くの軍人が座っていた。そして議長席に座っているのは、帝国軍中将にして禁軍最高司令官、リオ・ウルツワイツ。
おそらく多くの人物がこう思う事だろう。「家をもっとセキリュティ強化しろ」、と。だが彼自身、自分のことは自分でできるから気にするな、そして自分を護衛するくらいなら陛下を護衛しろなどと言うのである。大したものだが、これを言えるだけのソルの実力と自信の表れでもあった。
彼は先日、執務室へ皇帝に呼び出されていた。どうやってクルバノフの被害を最小限にして制圧するか、と言う点においてである。エルバディーは財政調整に明け暮れていた。その為、禁軍の全権をリオに委ねていたのであった。
「向こうの王の身柄を拘束。そしてどうにかして連れてくる。・・・こんな感じの作戦を立てられないものか?」
エルバディーは忙しそうに黒羽のペンを手に取ってサインをし、そして別の紙を読んで再びサインをし・・・の繰り返しの作業をしながらリオに聞いていた。
「できないことはございません。いえ、むしろ、そのために準備をしていました。」リオは大胆に言った。
「あの例の山賊を使って、か。」
「さようでございます、陛下。」
山賊を使った国境付近の要所の攻略。キースやアータルタたちが住み、カールたちアークへシス軍の駐屯している村もまた、その攻略対象の一つであった。実際うまく行くはずだった。カールたちの介入が無ければ。
「あの山賊作戦のメインは、国内の犯罪組織を一掃するためでもあったのだが結局本命を得られなかったという訳か。不運だったな。連絡は聞いている。クルバノフにそんな底力があったとはな。陸路では無理だとしたら、次は海路・・・いや、これも流石に問題があるか。兵を無駄に死なせてしまう。リオ、答えを教えてくれ。こちらは何と言うか、その、・・・手一杯でな。」
デスクに山積みに置かれている書類を、呆れたように手のひらを上にしてすくめた。
「ええ。分かりました。それではまず、私が考えたシナリオとしていくつかの方法がありました。一つ目は、あの村をすぐに落として軍を進め、そしてクルバノフ王都へと一直線に突き進み、電撃戦を仕掛けることです。ですが、これは陛下がおっしゃっていたことで、そして現に失敗していた案でもあります。」
「ああ、だが国内でも色々悪さをしていた山賊を有効活用できた、そして治安を少なからず良くできたことは良しとしたいものだ。このご時世で山賊をやっている奴らは、正直言ってカスだ。」エルバディーは言った。
今のジルカン帝国は好景気に沸いていた。産業革命の余波で、そして快進撃のうねりで軍需及び民間の新技術による重化学工業への発展が、さらなる経済の循環を生んでいた。今では「猫の手も借りたい」のと同じく、ソルの使えない人々も働きに見合った給料が貰えるように至っていた。差別こそはあれど、必要か必要でないかのベクトルの話では差別などどうでもよいのだ。少なくとも、今では陰に隠れているだけだろうが。
その結果財政も好調になり、国家による貧者救済制度も確立するに至った。しかしながら、それでもカバーできない場合もある。とはいえ犯罪に走る前にその制度に頼るのが筋と言うべきだろう。しかし、無知だった者、もしくは「昔からヤバい奴であった」場合では、それらをふるいにかけて「かなり悪質な部類に入る人材」を決死隊として送り込むのである。
決死隊としてキースたちの村に送り込まれた黒竜団はその最たる例と言えるだろう。彼らは最初の頃には「義賊」として成り立っていた。まだ貧者救済制度が無かったエルバディーの二代前から続いていた組織で、富を独占する貴族から金品を強奪し、貧者に分け与えていた。
人に対して危害を加えず、ただただ富の再分配を非合法で行うだけの事しかしていなかった。躍起になって捜索をしていたのは貴族や軍のみで、民間人にとっては「ダークヒーロー」の様に思えていた。しかし、エルバディーの先帝、パライト・ジルカン女帝が打ち出した救済制度政策によって存在意義を失い、結果として黒竜団内部で、活動を終えるかどうかの議論が進んでいた。
その時に、政変と言うべきかクーデターとも言うべきか、正当なリーダーだった者が何者かに暗殺されて、代わりに山賊騒ぎの時にアルミナを連れ去って金に換金しようとした大男がそのリーダーになった。
彼は残虐そのもので、裏切り者を処刑するとき、地面から突き出ている状態の杭を人間の尻の穴から頭まで貫通させ、狂死させるという処刑方法を取っていた。反発する者、見限って逃げ出す者、多数いたが結局彼らは逃げられず捕まえられ、そして同様の処刑方法が取られていた。
そして残虐性に特化した新生・黒竜団は、近辺の村々を略奪するなど、「醜悪」な面を前面に出していた。彼らの打ち出したスローガンは「農夫は血肉へ、生娘は精のスポンジへ」と、聞く人々は皆しかめ面をするのだった。
だから滅びた。リオ率いる禁軍、及び地方警備隊の捜索・討伐の末、全員を捕縛するに至った。死者数は運が良かったのか、もしくは向こうにやる気が無かったのか、ゼロだった。しかしあの大男の猛牛のような動きのせいでリオ自身、「切り札」を使わざるを得なかったが。
そして、リオは彼らを捕らえた後、あの大男以外のメンバー一人一人に問いだした。
「あのリーダーの指揮する略奪は楽しいか?」と。珍しく親身になって聞いていた。そして表情は少しだけ明るかった。別にその時の彼の性格が歪んでいた訳ではない。それは、多くの者がこう答えたのだから。
「とんでもない!俺たちの中で略奪をしたい奴らなんて・・・。」
そしてリオは問い詰める。
「だったら何故逃げなかった?報復が怖かったのか?」
「・・・」返答は無言。だが、焦げ過ぎのパンを食べるような表情だった。
「この国の法律では、犯罪を犯した者は牢獄か入軍か決める権利がある。・・・まあ、どこの部所に配属されるかの権限はこっちにあるのだけれど。君たちには略奪の才能がある。ぜひとも、国境の向こう側に位置する集落を陥落してもらいたいところだが・・・。どうかな?」
これの反応で、決死隊に入れるかどうかを見極める。YESなら決死隊、NOならそれ以外。その結果、NOと答える人材が多数いた。個人的には、リオは他人の人生を食い物にする輩は大が付くほど嫌いであった。それ故、NOと答えた人材は厚く遇し、また彼らも、リオに対して恩義を感じ取っていたのだろうか、多くの元・黒竜団メンバーがリオの指揮する禁軍に入りたいと思うのだった。
元々組織内でクーデターが起こる前は暗殺されて今はこの世には無い元団長に恩義を感じて入団したようなもので、それに近しい精神回路を有していたリオに忠誠を誓いたいと思うのは自然のことであったのだろうか。その結果、エリート部隊たる禁軍に実力と努力で入る者が続出するのだった。
対照的に決死隊の方では、・・・面白いことにすぐ死んだ。いや、元々「消費させることがメイン」だったのだろう。それがカールたちアークへシス軍の介入によって思いのほか不都合が生じたのだが、向こうはまだまだ来ると思っている。そしてこちらはまた別の準備をする余裕がある。これほどの好機はそうないだろう。
「では、陛下が今一番気にかけているもう一つの案を言います。ずばり、『メイジ・ランサーで王都を直接叩く』、です。」
「・・・ほう。」二人はどちらも不敵な笑みを浮かべていた。
「今国境付近に兵が分散しているため、一点突破を狙って攻撃することが可能です。」
「そうは言っても一人一人のソルには限度がある。メイジ・ランサーを使ったとしても、無茶だ。中継地点があるのなら話は別だが・・・」
「あるのですよ、それが。」リオの言葉に、エルバディーの手は止まった。
「今なんて言った?!」
「出来たんです。つい二日前に。」
「どこだ?!」
「ここから北東に進んで砂漠地帯があります。クルバノフ領ですが。」
「そこに建てたのか・・・?何と無茶な・・・。」エルバディーは呆れていた。何て言おうか考える間もなく、リオの説明は止まることは無かった。
「礫でできた台地が海から約一〇〇キロ離れた地点にあり、そこはどうも誰も住んでいなかったものなので。」
「どうやって物資を運んだのだ?・・・いや待て、まさか・・・!お前とんでもなくコスパ悪いことしてないか?!」
「従来では。・・・ですが、新技術で粉末だけでも馬車一〇台分を転移させることができるようになったのです。再利用もできるようになったので、比較的安く済むようになりました。再利用の際には微粒子に含まれるソルが減少する度に多くのソルを補充させることがネックですが。」
「それを早く言え!マジの新技術じゃないか全く・・・。」エルバディーは驚いていた。もうこれでデスクワークどころではなくなった。後に起こることに比べれば微々たるものだが、これが流通革命の始まりであった。
「ですが懸念点もあります。東に約一〇〇キロ行った所に、何やらクルバノフの騎士団の基地があるようなものなので。」
「・・・あの例の『黒い羽の生えた大鳥に乗る』騎士団か?」
「左様で。」
どちらも理解していた。この技術がまだ「エルナシア人」の技術力では再現できないという事を。
「・・・最近流行の大衆小説、『宇宙浪漫』とか言う奴か?」エルバディーは左手で頭をかいて言った。エルバディー本人は内容を知らないのだが、要はSFである。
「どうなんでしょうか・・・。ですが、ジンクス曰く、『光線のマスケットライフルみたいなものを撃つが、突起物になっている弾倉を抜けば無用の長物に成り下がる』と言っておりました。ですが我々のメイジ・ランサーでも十分な相手である可能性がございます。」
「だが大鳥の対策もしっかりしなければな。」
「はっ。」
その後、いくつかの雑談をして、リオは執務室を後にするのであった。その内容曰く。
「やっぱりお前は性格悪いと思う。『決死隊』は、要は『生き残っても絶対に処刑する』つもりの部隊だったんだろう?」
「そう言われては終わりですよ。」
「「アハハハ!」」二人は笑っていた。・・・物騒極まりないものだった。
「という訳でこの作戦の最終方針としては、『クルバノフ王の生死を問わず拉致する』ことにある。いかにも平和的だが・・・平和に行きたいものだ。」そうリオは締めくくると、多くの軍人はうなずき合った。会議は成功の様だ。
一人質問の手が上がった。
「この作戦は空の機動力がメインだと考えられますが・・・禁軍だけでやるおつもりで?」
「・・・この作戦は私と陛下の言い出しっぺだからな・・・。そうするしか。」
「では、我々空軍にもお任せください。兵はあるだけあればいい・・・訳でもないでしょうが、例の砂漠の騎士団に対する陽動にはなりましょう。」言葉を発したのは、空軍の最高司令官、ルーブ・ムスタ大将だった。
「よろしいのですか?」リオは言った。
「ええ、かまいません。他の人の作戦だったら嫌だけどね。」陸・海軍二人の顔を見て言った。
少しピリピリと危うい雰囲気が流れたが、結局、禁軍に・及び空軍による合同作戦の開幕は日数を数えるのみであった・・・。
12/10水曜日公開!




