SCORE8:コンフリクト・イン・クルバノフ Ⅰ
ここから、物語は第一部の主軸へと向かいます。
その本編の前に・・・。
前回のキャラクターノート
・アルゴロフ(アータルタの父。雑貨屋にして鍛冶屋。加えて地元のソルジャー・ギルドの中堅。(なおこれでも三九歳))
・フルーネ(アータルタの母。雑貨屋・経営担当。彼女は三じゅ・・・レディに年齢聞くのは失礼でしょ!!(※なお三九歳))
・カルスク(アータルタの弟。一四。ギルドに入った姉の代わりに家業を継ぐつもり。)
・カルファ(この村の村長。五〇代半ば。元ギルドの幹部。何故か早期引退。)
・エルバディー・ジルカン(ジルカン帝国・第7代皇帝。「魔道的統一国家」を目指す若き天才。)
あと一つ。少しだけピンク要素が入ります。(とは言うものの、「ノクターンノベルズ(一八歳以下は入れないという小説家になろうの別サイト)行き」にはならんでしょう。きっと。
・・・え?何故「ノクターンノベルズ行き」をシベリア送りみたく「ノクタリス行き」と言うかって?知らぬさ!!)
ジルカン帝国。カールたちの訪れている惑星「ネメシス」にて、初めて魔道的産業革命のなされた国。そこでは、魔法「ソル」が使える人が統治している。そして彼らは、自分たちのことを「エルナシア」と自認している。
かつてジルカンでは、魔法が使えない人間は冷遇されていた。最低限の教育機会しか与えられず、雇用にも影響し、ひいては公共機関のサービスもまともに受けられない、そんな扱われ方であった。
いわゆるアパルトヘイトである。市民間ではまだその動きは根強い。四代目皇帝の時に改革がなされて「国家主体」の旗印で行われなくなったものの、三代目皇帝・コバッティ・ジルカンが打ち出した「魔法の使えない劣悪な人種は排除すべき」と言う弱者淘汰論思想の元に、人々はそれに流されていた。
酷い時には「ソル」の使えない者を奴隷として売買可能・生殺与奪権の譲渡可能にする法が作られ、暗黒時代へと突入していった。それ故、国外に逃げだす人が続出。無能力者をわざわざ追う必要も無かったため、放置状態だった。
なお、コバッティ自身は無類の女好きであった。しかしながら彼の体は縦に小さく、横に大きく、そして顔の表面はヒキガエル、目の周りは蛇のような風体であったため、女性にモテるはずがない。唯一「ソル」の能力のみが取り柄だったためか、彼のコンプレックスの埋め合わせのためにこの思想を押し付けたのではないか、と言われている。
実際彼は多くの女性奴隷を所有し、晩年には二〇〇人を超えていたという。死因は毒殺。彼の酒のグラスに含まれていたものとみられている。が、成分も分からず、犯人を積極的に探そうという動きは起きなかった。
彼は「ソル」の能力はあったとしても、当時は「この世は火と水と、風と、そして大地でできている」とまだ古い価値観であり、彼の能力の幅もそこまで広くなかった。結果、彼は彼自身の信じていた能力に裏切られた結果となったのである。
その後、発展を遂げた後に帝国主義の色の強いこの国は周辺諸国を武力で圧倒。多くの国をまたいでいた筈のクルバノフにまでその支配の波が押し寄せていた。
ジルカン帝国首都・チテングラード。二人の男女が街道を歩いていた。よく似ていたため、服装が違わなければ「どちらが男で、どちらが女なんだ」と勘違いしてしまうだろう。そして実際、彼らはよく言われるのだった。
正確に言えば、ジルカン帝国の禁軍の象徴たる赤と白、そして黒の塩梅が丁度いい制服を身に着け、てくてくと歩いていた。
何故、禁軍たる者が魔法を使わずこんなところを歩いているのか。別に大した理由はない。ただ、女・・・メグリ―・ヴァンディが、
「軍師さんを呼びに行くのに軍用の『メイジ・ランサー』を使う程急ぐ必要はないでしょ?」と、言ったからである。兄のタングスト・ヴァンディは「やれやれ」と言いたそうな顔であったが。
「別に歩かなくても、俺がお前を連れて空飛んで送れば良いだけの話だろう?」
「つまんないじゃない。それに作戦の後と言っても、もう一週間たってるんだよ?流石に一日二日前とかなら分かる。でも、流石に一週間もぐうたらしてたらダメじゃん。」しかし、タングストは冷静になってこう突っ込んだ。
「・・・待てよ、前もこんなことがあったな・・・。いや、そうだ。あの時、お前にはめられてたくさんのスイーツを奢らされたんだ。今日は絶対に奢ってやらないからな。」
「えぇー・・・。あれは兄さんが外で買い物したりして遊ぼうって約束してたのに『今日は眠いからパス』なんて言ったから。」すねるメグリ―。
「彼氏ができればこんな兄貴には頼らなくて済むだろうが。」
「うるさいなあ、もう。」そう言って、不貞腐れるのだった。
タングストは困っていた。妹のメグリ―はもう一六。もう成人だというのに、まだ遊び足りないのか。モラトリアム人間だ、こりゃ。そうタングストは思った。
勘のいい人ならば、彼らが誰だか分かるのかもしれない。そう、あの山賊騒ぎの一員でもあった人物だ。キースやアータルタ、いやギルドの職員が束になっても敵わなかった人物だ。
ヴァンディ家は、ジルカン帝国の中でも有数なメイジの名家である。それ故に重宝され、リオ将軍の禁軍に入ることになったのである。タングストは風、大雑把に言えば気体全般を、そしてメグリ―は発火・爆破を専門とする。
この時代の帝国は既に「ソルは火、水、土、風だけを扱う能力でない」と言うことが分かっていた。ただ、宗教的権威の強い他の国々はまだ気づいておらず、それが陥落・ジルカンへの服従支配へと拍車をかけていた。そして、その権威はクルバノフでも例外ではなく、現にカールがアータルタに水の分解を教えなければ彼らは気づかなかったことであろうが・・・。
そしてヴァンディ兄妹が二〇分近く歩いてたどり着いた先は、リオ将軍の家であった。「〇〇将軍」と仰々しい名前の呼ばれ方から察するに大きな邸宅で何人も執事やメイド、そして多くの愛人・・・これは余計だろうが、財力的に言えば少なくとも小さい家ではないだろう。帝国には貴族階級も存在し、多くの貴族が優美な生活を好む中、沢山の邸宅がチテルグラードや固有の領地に存在していた。
しかし、リオ・ウルツワイツの家ははっきり言って、「中間層の中間層」と言うべき代物だった。チテルグラード郊外に位置するその家は、一般家庭で目にするような二階建て、三角屋根の家に煙突が付いたまさに「庶民的」と称されるものだった。
最初の頃は、二人は「こんな辺鄙な所に住んでる将軍が居るものか」とタカをくくっていたが、実際会って話をしてみて、妙に納得がいった。彼は貴族趣味が嫌いなのだ。
身勝手な貴族たちに辟易していたのだ。高級貴族の息子たちは増長して調子に乗る癖があり、それが軍行動に影響するのであった。それ故、管理職気質な将軍は苦労する羽目になる。多くの将軍はそのはけ口として色々なものに手を出すのが人のサガと言うものだった。酒、ギャンブル、愛人と、その手の部類を数えてもきりがない。
下町の酒場で流行っている帝国の将軍に対するジョークとして、こんなものがある。(どちらかと言うと、ジョークと言うよりも辛辣な暴言に類するものだったろう。)
「(平民の出からの)帝国の将軍に、まともだった奴がいない。唯一まともなのがリオ将軍ぐらいで、後の連中は下だけ御立派の腸詰めさ。」と。
将軍は愛人を嗜む、というステレオタイプなイメージを酒の肴にしながら、豚の亜種とも呼べる種類の豚のソーセージをフォークに突き刺し、声高に言うのだった。大抵、この手のジョークには続きがある。
「そいつはどのくらいの大きさなんだ?」と誰かが言う。そして、一番最初に言った人物が再び大きく叫ぶ。
「こいつと同じくらいさ!」と。最後に皆はこう言う。
「人間じゃねえぜ!!」と。ここまでがお約束。色々な意味も含まれているため、一概には言えない。他に非道なものでは、「種馬」や・・・これ以上はいけないだろう。
しかしこのネタを行うには、一人も店に女性がいない場合であるのと、軍人の制服を着けた者が一人もいない場合のみである。別に三代皇帝の様に「軍関係のポストについていたやつも侮辱したら死刑」という訳ではないが、ただ単純に失礼極まりなく、躊躇しているだけであった。決して法で戒厳令が敷かれているわけではない。
しかし皇帝一族や貴族たちに対しては普通に牢獄送りである。良くて恩赦、悪くて一家全員処刑。故に、「平民の出からの」将軍及び軍人に対してのみ言うのである。
しかし、何故リオだけはまともと呼ばれているのか。それは、愛人の噂が絶対に立たない、と言うよりも自らが夜の街に一切行かず、かといって同僚の誘い以外で他のお家へ行くことも無いからだ。それも大抵食事の誘いで、二、三時間で理由を付けて帰るのだ。
また、彼は一般女性と結婚して四年経つが、未だに結婚したばかりの初々しい雰囲気が存在していた。それが、彼を早く帰らせる要因になった。また、遅くなる時は毎回妻に連絡を入れる程で、故に彼は妻には誠実、色事には無実であった。仮に男性側が「あいつは好色家だぜ」と言っても、女性側がそれを否定する。むしろ、「あんなに奥さんに誠実な夫はあの人以外に絶対に居ない」と言う、謎の自信があったからだ。
そのため、彼に悪い噂が立たないのであった。
そのリオ将軍の家の前に、ヴァンディ兄妹は立っていた。
「あのぉ・・・。」メグリ―は黒鉄でできたドアノッカーを使って戸を叩いたが、出てこなかった。
「寝てるのか。」タングストは不思議がった。結局反応はなく、どうしようか迷っていた時。
「確かに『寝てる』の表現は当たっているかもしれないな。うん。当たってる。・・・だが、その意味は多分違うようだ。」上から声があった。玄関前の雨よけの所で、うまい具合に天井に張り付いていた男がいた。
「ジンクス!!なんでこんなとこに居る?将軍の護衛してんじゃなかったのか?!」タングストは驚いた。まるでストーカーに迫られて悲鳴を上げる女性の様に。
「ふっふっふ・・・。朝になっても『お盛ん』なあの人たちの護衛をまともにやるのがおかしいんだ。ふふふ・・・おかしいんだ・・・。ヤってばかりだし・・・気まずいぜぇ!」
寝不足でやけくそ、そして半分べそをかきながら訴えるジンクスに、二人は言葉を失った。ヴァンディ兄妹がリオ将軍の元で働き始めた二年前も新婚さながらだった。そして、倦怠期が起きる三年目ですら。そして今でも新婚気分。
「これは驚いた・・・。で、もうそろそろ地面に降りたらどうだ?」頭を抱えてタングストは言った。
言われて気づいたのか、やっと彼は降りた。
「ていうか、何で煙突付近で待機しないの?」メグリ―は疑問に思った。しかし、彼の返答は同情と涙を誘うものであった。
「うるさい!ずっと聞こえてくるんだよ!!あの『声』が!ウルツワイツ夫人がハッスルしてるときに発するあの声が!」いつもは独りよがりなジンクスの返答が妙にうまいのが気に食わない。
「つまりお前は耐性が無いわけだ。そう言ったことに関しては特に。女性が苦手、か?」
「だから何だ!こっちは君らと違って忙しいんだ!」怒り心頭なのも理解可能。
しかしこれではリオ将軍を呼べない。結局、嫌々ながらもジンクスに手紙を渡し、リオ将軍がいる部屋の窓をコンコン、と叩かせて呼んだ。部屋は二階にあるため、そしてメイジ・ランサーは生憎持ち出していなかったため、一番身軽でたどり着きやすい彼に全てを任すしかなかった。
「なんだい、急ぎかい、ジンクス?」窓の前に、一糸まとわぬ姿で出て来たリオに対し、半泣き所か大泣きなジンクスは手紙を渡してそそくさと降りて行った。
「えらい、えらい。お前は偉いよ。お前これでもまだ一五なんだからな。」
「うん、えらい、えらい。ジンクス。」代わりに行けと言い放った二人に励まされても、何の得にもならないジンクスだった。
一時間近く経った後。
「じゃ、取りあえず休日だけど仕事に行ってくるから。」
「はぁい。あ、その前に。」そう言ってリオを立ち止まらせて、玄関で待っている他の三人が羞恥心で目を覆いたくなるほどのキスをした後、リオ、ジンクス、ヴァンディ兄妹は皇帝の元へと向かって行くのだった。
自分でも気づいている。「こりゃとんだのろけだ」と。気にしないでくれ、大丈夫だ。「クラマイ・クオリティ」だ。大丈夫。心配なさることなかれ。
12/6 パートⅡ公開。




