SCORE7:マジック・エンパイア Ⅲ
今回は長め。紅茶かコーヒーの準備を!
・・・なあんてね。それでは、どうぞ。
村の畑の細い道に入り込んだカールとレベッカ。
「観念しなさい!」レベッカは、カールの腕を「腕ひしぎ十字固」という、格闘技における腕を圧迫する技で拘束した。ものの二〇秒の活劇は終わってしまった。
「分かった!放せ!放せ!もういいだろ!どうせコールかオグラ中佐があの人から例のあの本を取るんだから!」
「だったら何で渡した?」
「知るか!お前らに取られそうになったからに決まっているだろうが!」ああ、力が強まってしまった。
「だあ!分かった!分かった!腕折れる!」やっと解放された。農夫の人たちに笑われてしまった。当然だ。何よりも、二人は散々叫んでいたのだから。
「・・・何だ?」少し興味深い物に目が入ったカールだった。それは、見覚えのある子どもの顔だった。認識に時間はかかったが、アルミナと名乗っていた少女だというのを思い出した。
「何よ?」
「ほら、あれ見て。水汲んでるだろ?」
「・・・魔法を使っていないけど。」もう「普通」の概念がよく分からなくなっていたレベッカだった。
「・・・聞いてみようぜ。魔法だって、条件が色々あるはずだ。」
「ちょ・・・カール、そんな趣味だったの?」
誤解を誘う言い方はやめてほしい。そう思わざるを得ないカールだった。
「あのさァ。僕はそんな『少女(18歳以下)大好き!』な趣味を生憎持ってはいない。前、僕が住んでいたコロニーの知り合いに何人かいたが、・・・嫌な奴だったよ。それも大の大人が。何人か実名で言ってやろうか?」苦笑いしながらカールは言ったが、これ以上レベッカは追及はしなかった。馬鹿を見るのが好きなカールとて、これはノータッチらしい。
カールは一呼吸おいてこう続けた。
「シーディアさんとかに聞いてみるか?話し合いは結局平行線だろうけど、一旦頭を冷やすのも大事だと思うね。」
この時、カールは知らない。シーディアは一七歳であることを。オグラ中佐と同じくらいの年齢だと思わせられる程の貫禄があった。同じく歴戦の猛者であるカールたちとは似ても似つかぬくらいに。要は「老け顔」であろうか、だがそれを言うのをためらう最低限な理性は存在していた。
もっとも、女性に対して「老けている」などと言うのは恐らくこの場においてはカールぐらいだろうか。
「あの人が了承するかどうかよ。」たった今、ギルドの建物の扉の前でコールに例の薄い本を取られた二〇代中盤の男を見つめながらレベッカは言った。
「それもそうだ。」そう、クリプトンだ。彼は中央に命じられてここに派遣されているに過ぎない。準・公共事業のこの「ソルジャー・ギルド」は、単なる私兵集団とは違い国、つまり王国が定めたポリシーに従って行動している。
要人や商人の護衛、地方の警備、それらは多岐に渡る。職権乱用・汚職が起きたら、程度によ追っては処刑されるぐらいの法律も存在。地方の王様、という訳ではないが、それでも警察権は存在する。ギルドの仕事を介してなのだが。
そして、この手の組織はかなり大規模。下手したら国家をまたいで繋がっているのかもしれない。それは勘弁してほしい。せめて国内の話であってくれたら・・・。彼の許可が無ければ、強制的にこの村から退去させられるだろう、安全保障の名目で。それ故に、魔法のことについて中々聞き出せないでいた。
彼の判断は恐らくギルド全体の合理的な考えに従っているに過ぎない。自分たちの事以外については。「空の民」と自分たちに言い、畏怖しているのと同様、この人たちも予想外の事態でどうしたらいいのか分からない可能性もある。そこが勝機だ。だが、果たして、これで旨くいくのだろうか・・・。彼らを巻き込んで。
思い出す。昨日、彼らと話し合った日のことを。彼らに向かって「今、戦争を行っている」何て言えるはずがない。だから、誤魔化すしかなかった。文化的な話ばかりだった。
カールは黙って座り込んでいた。地べたにあぐらをかいて、片腕を顎について、目は森の奥の方へと進めていた。後悔と共に。
「・・・カール?」黙り込んでいたカールに、心配そうにレベッカは話しかけて来た。
「あ、ああ・・・。大した考え事じゃない。だけど・・・」
「だけど・・・?」
「この星が戦場になってしまったら、レベッカ、お前はどう思う・・・?」
「どうって、そりゃあ、嫌でしょ。・・・同じ目に遭わせてはいけないのよ、敵も、見方も、彼らも。」遠い目で空を見つめる彼女だった。まだ、空は明るく、太陽は宙に浮いたままだ。
「・・・そうだな。」カールらしくない目で、レベッカを見た。とても、悲しい目だった。
「・・・従妹が居たんだ。『グリフォン』部隊って知っているか?あいつらの爆撃で、起きなくなった。植物人間さ。全く傷は無かったのに。」
脳死、とは言わない。言ったら・・・死んだ、と言ったら・・・彼女の目の前で泣き出してしまうから。泣きたくはない。いや、泣いてはいけない。「自分たちを頼れ」と言ったばかりではないか。・・・言い出しっぺが呆れたものだ。
「・・・時々、暗いことを言うのよね・・・あんた。」カールの思惑とは裏腹に、悲しい声色を奏でていた彼の気持ちを感じていたレベッカは、なんともいたたまれなくなった。
「あんまり辛気臭いものは考えたくないんだけどね、こういうの。昨日のお前みたいな、ああ。何でもない。折角宇宙空間からバカンス気分で行ってるのに。嫌だなあ、僕もお前も。」すぐにいつもの調子に戻っていたカールであった。
「最初は死にそうだったくせに。」無駄な心配だったように感じ、少し棘のある言い方だった、と後々思うレベッカだった。
「これは手厳しい。」二人は笑っていても、自分自身の傷口の痛みを感じ取りながら、村のギルドの館へ再び戻るのだった。
が、その時に事態は少しだけ動いた。オグラ中佐はいきなりカールたちの背後から忍び寄り、カールの腕や足に拘束具を取り付けた。実を言うと、彼女は今まで農業用の用水路を「音を立てずに」渡って、そしてカールたちが館へと戻る際に後ろを向いたそのタイミングで出てきたのである。
そして、カールはなす術なく倒れ、腕の拘束具に取り付けられたロープに引っ張られるのだった。向かう先はヘリ。カールを強制的に基地に連れ戻し、「再教育」させるためだ。
「オグラ中佐?!」レベッカは混乱した。当然の反応だった。だが同時に、その判断が妥当だとも思えてくるのだった。
「あなたもリーチだから、レベッカ。今回のカールの問題行動は流石に肯定できない。『カールとレベッカには厳しく』ってローゼンバーグ准将からも言われてるからね。」爽やかな顔で言うオグラ中佐に、この場にいた二人にはその笑顔がむしろサタンの不気味な嘲笑にも見えた。
「あのォ・・・中佐。この『ピノッキオ・ガイダンス』は上の命令によるものですよね。」
「・・・屁理屈は聞かないよ。」取り付く島もない、とは思わないカールだった。
「あれに『文化的交流』などと言う文言が記載されていたじゃあないですか。」
「あの本はやりすぎ。知らない人が純粋無垢な子どもに向かって『サンタさんは親だよ』何て言うのと同じレベルよ?」ごもっとも。だが、そこで引かないのがカール。図々しさは「紳士」なのか、はたまたそうでないのか。
「あいつらが純粋無垢?お世辞でも言えませんよ、そんなこと。」
苦笑いしていたカールだったが、その様子はまるで問題行動を起こし先生に強制的に連行される小学生低学年程度の「クソガキ」のそれに近しいものだった。ただし、ルール違反ではないけれど、モラルには違反している。
そして何より、この星の住人の信頼(少なくとも男性のニーズにマッチした取引内容を提示していた)という事実こそはあれど、それでも「アークへシス」と言う名を背負った軍の面子は保たれない。結局、カールが基地へと拘束されたまま「輸送」されかけようとしたその時。
「・・・一〇日間だけ待っていただけないでしょうか。」助け舟。それを発した人物は、あろうことか女性であるシーディア。そして後ろに立っているのはクリプトン。
「・・・この始末をしなければ我々の面子にも関わってきます。一日だけです。一日(それも二十四時間ぶっ続けで)だけ彼を訓練させるだけです。ペナルティとして。その所をどうか。」オグラ中佐は笑顔で言った。括弧の部分は省いて。
「私が言えたことじゃありませんが、どうかあまり荒くしないでください。彼はアルミナの命を少なからず救ってくれた恩人なんです。」
シーディアは必死に擁護していたが、「せっかくならレベッカの方に言ってやれよ」ともカールは思うのだった。
もっとも、あの時〇・一秒だけアルミナを保護するのに遅れていたら、逆上していたあの大男の槍を振り回す軌道に被っていて彼女の体が二分の一になっていただろう。
綺麗に縮むのではない、アルミナの腹からトマトジュースが噴き出るかもしれなかっただけの話。「だけ」と言えるのは生者の特権だったが。
「それと、あなた方の『科学』?それも中々興味深くて。ああ、下心だけでは無いですが。」笑いながら言うクリプトンだった。
「そして、これは我々だけで解決できる問題でもありません。ですので、我らが国王陛下に判断を仰ごうと決めました。・・・そのための一〇日間でもあるのです。では、短い時間になるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。」そうして、クリプトンはオグラ中佐に対し握手をしようとした。・・・やはり似ている。「空の民」と彼らの文化は。
「ええ、こちらこそ。」そう言い返すオグラ中佐だった。そして、にこやかにクリプトンが差し出した手を取った。
これが、一時的に国交が繋がった瞬間だった―薄い本は文献には一切記載されることは無かったが。
「あのォ。ところでなんで僕・・・じゃなく小官もヘリで輸送されているので?」ヘリのプロペラ音がうるさい中、カールはホワイトスクエアを見ながら本部と連絡を取り合っているオグラ中佐に聞いてみた。
「・・・二四時間睡眠無し、砂漠内滑走路の長距離シャトルランをあなたに『再教育』の名目でさせるため。」オグラ中佐は笑顔で後部座席に芋虫の様な状態のカールに向かって言った。
彼女は満足していた。国交が繋がったのとただ単純にカールを合法的に「しごける」からだ。訓練で、なのだが。
「仕方ないだろ、俺だってあの村に第二中隊の奴ら全員を輸送しなくてはならないのだから。まあ、頑張れ。『体温管理』の名目でパワードスーツを着けれるんだから。」コールはカールに笑顔で語りかけた。
彼もまた、度し難い表情であった。苦笑いに近い笑顔で。不幸をあざ笑う気持ちと同情心の二つがコールの心を満たしていた。
彼らは、一度基地に戻って物資を村に輸送するために再び砂漠へと向かうのだった。
こうして、彼らとの交流が始まったのである。あくまでも「猶予」ではあったが。彼らが警戒している以上、「空の民の村」なんて言うものを作る訳にもいかない。(旧ヨーロッパ宗主国は植民地支配する前の最初の段階でこれを用いていた。)・・・無人の砂漠に堂々と違法建築をしていたが。
だが、砂漠の土地の所有権は、キースやクリプトンの所属する「クルバノフ王国」にある。その為、二国間での八方美人外交をしなくても良かったと言えるだろう。
無許可で建築を行い、それも半ば租借地としての利用でもあったため肯定のみは出来ないものの、それでも「良かった」と言えたのは、もし仮に国をまたいでいたとしたら後々面倒ごとに繋がるからだ。
「二国間」、と言ったが、それがキースたちの頭を悩ませる原因でもあった。
ジルカン帝国。それは、クルバノフの南に位置する山脈を国境とした、国土が二倍以上ある帝国である。面積で言うならば、清時代の中国ぐらいだろうか。
モンゴル程大きくは無いにせよ、圧倒的なランドパワーで他国を押し抜いて来た列強と言える存在でもあった。
彼らの魔法の技術は凄まじく、地下の魔法ネットワークは幾多にも巡り、かつての大英帝国の首都・ロンドンのような風貌の都市がいくつもあった。
魔道で動く街灯ランプがこの国の象徴と言っても良かった。読み書きは殆どの国民ができる、教育と技術力の向上に最初に力を入れ、「魔道的産業革命」を初めて成功させた国家であった。
この都市の光が、ロメロの写真に写っていた光の正体だ。少なくとも、魔法寄りではあるものの、技術力は一九世紀程にはあると断言できる。文化レベルは一六世紀のままだが。
しかしながら、魔法には個人差がある。この国は「魔法至上主義」の側面もあり、使えない人間には手厳しい国でもあった。いわば実力主義である意味公正。
それでも、法の範囲での魔法の使用、というルールも存在していたため、暴力ではなく冷遇という扱われ方であった。
だが、「魔法が使えない人間は雇わない」などの人種差別は横行していた。もっとも、魔法を中心とした集権国家体制の中で魔法が使えない国民には保護対象でもないのだろう。
そして対外政策は好戦的だ。第七代皇帝・エルバディー・ジルカンは、「魔道的統一国家」を目指している、少壮の皇帝であった。
統治能力は前皇帝の才を引き継ぎ、尚且つ軍事面では、皇帝直属の諜報機関にして護衛機関・禁軍の活躍によるゲリラ指導が功を奏し、今では大陸の半分を手中に収めている状況だった。
カールの降り立った場所が帝国の領土でなくて本当に良かった、と後にローゼンバーグ准将は語る。話し合いどころかむしろ排除対象になりかねない。
実を言うと、人工衛星カメラで人がいることは分かっていた。が、降下部隊であるカール達にも絶対に話してはいなかった。降下直後の砂漠地帯で開示された程だ。この件に関しては徹底した情報操作が行われた。機密保持が第一だったためである。
だが、アクシデントが起き、結果的にそれはアータルタに対して発砲という形の悪手になってしまったが。
それでも、最終的には「山賊」と言う名の騒ぎによって和解へと進み、結果的には貧乏くじを引かなくて良かった、と今になって語るローゼンバーグだった。
「おい・・・!やつれてないか?!カール!」キースは、ヘリに乗せられた・・・と言うより、ぐったりして芋虫の動かなくなったバージョンに進化していたカールを見つけるや否や声高に言った。
この時のカールは蛹みたい、と言うよりもアリがたかる直前の様に瀕死の状態、その雰囲気を醸し出していた。
カールはヘリからなんとか歩いて降りてキースに言った。それ曰く、
「死ぬほどきついぞ」らしい。
カールが弱っていたその時も、第二中隊によるテントの設営が進んでいた。森の中を汚さない・むやみに森林破壊をしないなどの条件で村の住人は引き受けた。それを最終的に決定したのは村長であったが。
村の長はクリプトンではなく、彼はあくまで地方警察組織のワン・パーソンの一角に過ぎない。村の実務的な決定権は、村長のカルファによって決められる。彼は50代半ばであるが昔はギルドの幹部の一歩手前に居た優秀な事務官僚だったらしい。何故か30代で辞め、故郷の村で静かに村長をやっている、そんな人物だった。
その彼の許可もあり、結果的に設営が許されていたのである。
カールたちが村の森で野営をしてから三日が経った。彼らは交代で本部基地へと戻るのだったが、カールは殆どその野営地で過ごした。正式に外交官や学者が来るまで無条件に聞ける残りの十数日間を無駄にしたくないという思いからだった。長くなることはあっても、短くなることは無いだろう、そう考えていた。
カールの行動を、再び基地に戻り司令官の椅子に座り退屈そうにデスクワークをしながら聞いていたオグラ中佐はそれを「仕事の一部」として容認。結果的に、カールの知的好奇心を刺激する結果になった。そして今では、キースたちの村に馴染んでいた。
「じゃあ、キース。今度は帝国の話ではなく、クルバノフの方を説明してほしい。」
「おう、良いぜ。」ギルドの図書室内で議論を重ねる二人と、それを見続けるクリプトンであった。あの時も、今も、結局断れずにいたのだ。彼らがこの村のすぐそばに駐留していることを許したのは、どうせなら彼らを利用してみても良いのかもしれないと、そう思ったからだ。
今、この付近の賊が活発化しているのは明らかに彼ら「禁軍」が「仕込んで」いる。ゲリラ戦を用い、付近の統治機能を鈍らせる。それによって隙を生じさせ、今度は「飛行強襲型特殊メイジ部隊」を使って電撃戦を行い、首都を一気に陥落させる。
その考えが、クリプトンの脳内で再現できた。彼らのメイジ・ランサーを用いれば飛行は可能。魔法を誘導する性能のある水晶のような物質が備え付けられており、飛ばすには風圧による推進力を下に向けるだけでいいからだ。
だが、結局のところ人数的な問題があり、それもうまく行くかは分からなかった。空を飛ぶにはサーカスの綱渡り並みの安定した姿勢制御と、対G対策もしなくてはならない。いくら二倍の人口を誇っているとはいえ、一部の傑出した才能の持ち主でない限りできる訳が無かったからだ。
彼に第二次世界大戦時のドイツの歴史を教えたらどう思うのだろうか。電撃戦を鮮やかに実行したことは褒めるだろう。だが、行う必要もなかったホロコーストを実行したことには怒るのだろうか。少なくともカールは、誰かに聞かれるまでは地球の歴史を言う事は無かった。
カールはキースの話を、ホワイトスクエアの録音を作動させながら聞いていた。
ジルカンの北にあるクルバノフは、国土はジルカンの二分の一、人口は三分の一の国家。どちらかと言うと農業主体の国家で、肥沃な土壌が沢山の農作物を生み出す土地だった。
当然、近代化で人口が増えるに増えた帝国が、喉から手が出る程に欲しがっているものだ。
という訳で、今は帝国の侵略の危機に瀕している彼らであった。
「・・・少し気になる事を言うけど、気にするなよ。」カールは単刀直入に言った。
「何を?」
「軍事力は帝国が強い・・・技術力も。生産力はこちらに利があるにせよ、領土が広ければ生産には困らないはず。・・・なぜ狙う?交易で作物は得られるだろうに・・・。」
「それが一番の問題なんだ。」キースは困ったような顔をして言った。
彼ら現地民は、自分自身の事を「エルナシア」と自称していた。要はエルナシア人である。もっとも、彼らにとっては「人種」と同じくらいの抽象的な概念なのだろうが。彼らは魔法が使える。それは、カールたちの知っている通りに。
彼の聞く限りだとこの星の全員が使えるのでは、と言う憶測があった。だが、魔法と言っても無条件に打ち出せるわけでもない。
燃料が必要なのだ。体内に存在する燃料が。彼らはそれを「ソル」と呼ぶ。ソルジャー・ギルドの「ソルジャー」は、下手したら「魔法戦士」という意味合いを持つのかもしれない。
そして、その燃料は主に「ソルネラ」と呼ばれる芋系の作物から摂取できる。その成分を貯める器官が彼らの内臓に存在し、そこから消費されることで初めて魔法が使えるというからくりだ。
食料イコール火薬という訳だ。故に、軍事力と食料、この二点が手に入る生産地点をどうにかして得たい帝国の思惑が存在するのである。
なお、その芋だけでなく、ありとあらゆるものを有害物質探知ペーパーに浸し、付けたりしたが、何ら反応は無かった。普段とはありえないアレルギーも無かった。基地に持って行っても変わった点はその芋以外無かった。やはり、「ソル」の成分以外は普通なのだ。この星は。
「お前が落っこちて来た時は、ただ単純に翻訳に時間がかかって、やっと話せたのはレベッカやコールに会う一時間前だったからな。」
「全くだ。」二人は思わずにいられなかった。翻訳の制度が飛躍的に上がり、今では敬語を巧みに使い分けられるようにもなった。AIというものは実に恐ろしい。
なお、キースには「自動バイタリティチェック機能」を教えてやった。彼は冷静になって、
「アータルタやシーディア・・・ましてアルミナにやっていないよな・・・?」と、グラディウスを抜く前動作を行い、カールに圧をかけた。
「見てない、見てない!俺はAIが作ったまがい物は嫌いだ!どうせなら写真の方がいい!」
「・・・正直バカなのか、馬鹿正直なのか・・・。」キースは思わずにはいられなかった。
キースは一度試してみて、分かったことがあった。カール・・・人間と違う所は、肝臓の裏に握りこぶし程の大きさの臓器があったことだ。
逆にそれ以外で臓器の違いが見つからなかった。DNAの配列も人間のそれである。・・・チンパンジーのDNAも二パーセントから三パーセント程しか変わらないが。
だが、エルナシアとカールたち「ホモサピエンス」は、種としての誤差は無い。小数点第五位程の違いはるが、正直それくらいだった。交配は可能。
ただし、今この場で欲情に駆られる感性を持った二人ではなかった。第一彼らは性別上「オス」なのだ。別におかしいとは言わない。だが、彼らにその嗜好は無いと断言できた。
しかし。
「おい!履歴に『シーディア』が入っているぞ!」剣を引き抜き喉元に突き立てた。
「・・・しまった!これオートモード機能で延々と起こる奴だ!つまり知らんうちに行われてた訳だ!」
「嘘つけ!」
「本当だ!更新履歴はともかく、閲覧履歴はこれが初めてなんだから!」確かにそうだった。
実を言うと、三日前にカールたちが再びキースたちに再会する前。
翻訳機能や自動バイタリティチェックがいきなり作動していた、という事を司令官室でオグラ中佐の前に立っているコールに伝えたところ、
「ああ・・・時々、起動したりするんだ。迷惑な話だ。持ち主の脳波に作動していたりして。取りあえずごめん、俺がお前の端末に余計なものを入れすぎた。」
「いや、いい。結果的に翻訳出来たわけだし。」カールは笑いながら言った。だが、あれのおかげで彼の命も助かっていたのも事実。
「あれさ、あの翻訳、実を言うと『自動バイタリティチェック機能』と併合して使うものだ。医療用のX線検査みたいなものがあるだろ?それをホワイトスクエアがX線の代わりに音波で脳の反応を感じ取ることができる、という事。でも翻訳の際に体全体を照射してるから・・・だから、その、つまり・・・」
「ほぉ、通りすがりの女の子を自動でスキャンして、『あの子の色々見放題』、という訳だ!成程、お前さてはスケベだな?」コールに向かって言ったカールは、流石にこの時ばかり言ったことに後悔しなかったことは無かった。
「「お前が言うな!」」コールにもその場の居たレベッカにも、殴られた。だが、その時まで履歴から過去のデータを眺め・・・閲覧することができることを
「・・・アータルタもあるのか・・・?」一度冷静になったキースだった。
「・・・あるな。なんなら、昨日襲ってきた山賊の奴全ても。消すか?」
「待て、消すな!・・・いや、消せ!」何言ってるんだ、こいつは。このムッツリめ。人前でアータルタの唇を奪ったくせに度胸のない浮かれた奴だ。と、三日前では自分に言えるはずもない事をカールは思った。
結局、全員の脳内データ以外は消すことになった。これで、翻訳以外のデータは無く、追及されることもなかった。
「・・・という訳で前置きは終わり。さあ、科学のことについて聞きたいことがあれば教えてやる。その代わり、魔法のことについても色々聞きたいことがあるから、その時は適宜よろしく。」
そして、二人は外に出た。三時間ぶりの新鮮な空気だった。青空が気持ちいい。これはあくまでカールがやりたかったことだが、それでも彼は空を飛んでいる方が気持ちいいタイプの人間だった。
外では、農民たちが賢明に仕事をしている・・・はずが、その時なぜか皆が集まっていた。
「人型のシャプトもうまく扱えるわよ・・・甘く見ないことね!」
シーディアだった。今、模擬戦をしているのか。コールはトマホークと同じ長さの棒を手に取り、土色の固いシャプトに振り下ろした。
華麗に躱し、横に振る。コールは今、革製のプロテクター(これもまた、人間にとって安全なもの)を身に着けている。流石にパワードスーツはルール違反だった。ただの棒切れでシャプトの頭から二つに割れたのだから。
だが、コールは怯まず、近づいて来たシャプトの棒を受け流し、胴を蹴り、張り倒した。見事。そして頭を叩いて、動かなくなった。内部でクオーツが割れた音がした。
「ああっ!そんな!」シーディアは腰を抜かしていた。彼女は意外性に驚きを隠せなかった。やはり、コールは強かった。
「危なかった・・・。あともう少しこいつのパワーが強かったら押されていた。」意外に冷静だったコールだった。息はまだ整ってはいなかったが。
「嘘だろ!あのシーディアを!」キースもまた、驚いていた。彼自身、魔法を使わねば太刀打ちできない。パワーで押され負けてしまう。
「手合わせありがとう。君は強い、ホントに。」やっと呼吸が落ち着いたコールだった。
「こちらこそ。」ちょっぴり悔しさを含みながら、お互いに握手してその茶番(当の本人からしたら本気だが)は終わった。
次回、「ソル」のロジックが明かされる・・・そして、彼ら「エルナシア」の真実も明らかになる。
11・19 水曜日公開




