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SCORE7:マジック・エンパイア Ⅱ

 珍しく「今回は」ギャグ回。

 ・・・カールが暴走するだけのお話。

 とは言うものの、何も最初からうまく行く訳でもない。



「・・・で、俺たちをどうする気だ?まさか戦争でもしようって言うのなら・・・」


「まてまて、キース。一応言っておくけど、そんな侵略行為はうちの軍で認められていない。そんなことをする前に逃げるか降伏する。」軍人らしくないセリフであった。

「・・・話は聞こうか・・・。一体今度は何をしようと言うのか、俺たちに分かるように伝えてほしい。お前たち『アークへシス宇宙連邦国』のことを。」

「分かった。」そう言うと、着陸したレベッカ、第一小隊らと共に、本などの文章が沢山置いてあるソルジャー・ギルド支部へと向かって行った。翻訳も同時に行うためだった。


「・・・で、今は事実上の休戦という訳ね。あんたたち『空の民』は。」

「空の民?そんな大層な・・・いや、まあ、そうか。」アータルタに言われコールは答えた。


 話せる部分は話すつもりだった。戦争のパートに入ってからは、空気が重くなり彼らの口数が減ったが。正直にいう事で、「信用できる」と思わせられる。

 これは中央からの命令だった。そのマニュアルの名前は、「ピノッキオ交渉ガイダンス」とまあ、皮肉なことに「嘘つき」の方が真っ先に出てくるのだった。中央のネーミングセンスは時々「遊んでいるだろ」と思われても仕方ない。


「と、こんな感じか。」カールは言った。最初の頃はエラー・メッセージが表示され、よく山賊との戦いでもそれが反応していた。山賊たちのセリフが汚くていらぬ翻訳に時間を割いていたのかもしれないが。 

 それでも、本をスキャンさせたりして、エラーの頻度が比較的少なくなった。だが、これはエラーの問題ではなかった。


「戦争中、そして面倒なことに、俺たちが巻き込まれようとしている・・・こればかりはどうも帝国と王国のレベルの話じゃないな・・・悪い、引き取ってくれ。」クリプトンが冷酷な表情で言った。当然だった。絶滅レベルでまずいことになるであろうからだ。


「遅かれ早かれ、あなたたちの星が見つかっていたかもしれませんよ、ノクタリス側に。」

初めてオグラ中佐が口を開いた。

「どういう事だ?」


「近いんですよ。我々とノクタリス側の境界面に。地球から―ああ、我々の故郷となった星です。半径二〇光年の境界面を境に、外周から約四・五光年先の所にあなた方の星は存在しています。光年、の概念は・・・今はいいでしょう。しかしながら今、一番言いたいことは、あなた方の星は見つけやすい、という事です。国境付近で非常に。」


「つまり、いつでも見つかっていたかもしれないという訳だ。」

「はい。どちらかと言うなら、ノクタリス側に見つかっていたのかもしれません。」

「あなた方の住処に平気で爆弾を放つ輩に・・・」シーディアはぞっとしていた。実際誰もがその事実に嫌気がさしていた。少なくとも、彼ら「アークへシス宇宙連邦国」は、攻撃しないと明言している。しかし、ノクタリスの方はどうなのか。正直分からない。


「・・・ノクタリスのトップ、アミール総帥は冷徹ですがかなりの『辣腕』を誇ります。ですが、敵や裏切りには容赦ないです。あなた方のその強力な力は、正直言うと、怖い。私たちが持っているこの技術力でさえもタメを張れる程に。だから、あなた方の命も彼女次第で・・・非常に言いにくいことですが・・・排除対象とされてしまうだろう、と考えています。彼らに見つからなくて良かった。」その大隊長は脅しに近いような事を言った。全員が黙り込んでしまった。


「隊長・・・。流石に言いすぎではないですか?」コールはオグラ中佐に小さく、されど緊張したような声で話しかけた。

「いいや、これ位がいい。只の恐喝とちゃんとした理由のある忠告とでは話が違うでしょ?生きた年数が違うのよ。五年は大きいよ?」同じく小声で返すのだった。


 そして、ベンは言った。

「・・・私たちが行いたいのは、文化的交流です。あわよくば、我々も魔法が使いたい。あなた方も、我々の技術力は興味があるかは分からない。・・・これは強制ではありません。回答は二週間待ちます。その間、我々は付近で待機していますので。できれば、森の一部区画の使用許可を。」オグラ中佐の筋書き通り、ベンに似つかわしくなさそうな穏やかな声で言った。

 ピノッキオ・ガイダンス。それは、「間に合いそうにないから可能な限り話を進めろ、弱みに付け込んでうまく切り込め、そして鉄は熱い内に打て。」という中央からの命令だった。中央からワープ・ファイバーで送られてきたのだという。


 これを送って来たのは官僚や政治家だった。だが、それ自体が「ホントは行きたくない臆病者」なのではないかと思われていた。だがしかし、これはあくまで「政府主体」であって「軍人主体」ではないのだ。その点ではまだ文民主義を保っていたと言えるだろう。


「どうしますか、コマンダー。」ソルジャーの一人は言った。それは、判断を仰いでいると言うより、むしろ「判断をいかにして先延ばしにできるか」という点である。

「国王に聞いてみるしか無かろう。」その場では判断ができない彼らだった。

 その場にはどうしようもない沈黙が流れていた。何も話すことがなくなった学校の生徒会の集まりの様に。何を言おうか考えていても、それが余計なことに繋がるのではないかといらぬ心配をしていた彼らだった。


 結局、その日の議論と言うべきものは終わった。事実上のお開きのようなものだ。ある程度の人間が外に出て日の光を浴びようとしたそのタイミングで、カールがS4の中に仕込んでいたものを持ち出して来た。

「おい、まるでお前たちは『魔法が使えない』みたいな言い草じゃないか。」キースは興味のこもった目でカールたちに尋ねた。


「そうさ。全員、『魔法』が使えないんだ。代わりに、僕らは『科学』がある。」

「『科学』?・・・あの光の魔法を撃てたりするやつか?」

「ああ・・・あの・・・うん。でも魔法じゃない。『誰でも』使えるんだ。」

「こっちだって使える。・・・全員がとは言わないが。それでも、日常レベルでは魔法は全員使える。」


「じゃあこういうのはどうだ?」そして、カールはアタッシュケース(ドラマとかで札束がよく入っている奴)の中からちょっとした機材を取り出した。21世紀産の年代物だ。

「何だ?」

「電球。ここにこうして、こう電池を繋げると・・・はい、スイッチオン。」電池をケーブルで繋いだダイオードが、光った。・・・別に大したことじゃない。

「ほお、凄い・・・。だけど・・・」その反応を示したキースに、カールは何か、期待外れな気分になった。

「「魔法でいいじゃん。」」その後すぐに、キースたち皆に言われたからだ。


「駄目だな、カール。彼らは独自の文化を発達させているようだ。」コールは呆れていた。やはり、彼らの「魔法」の力の汎用性が高いことによるものだろうか。

 万策尽きたかと思われたカールは、とあることを考え付いた。それは、自分の信用と引き換えに一部男性諸君の興味と圧倒的な忠誠心を引き付ける、とある本の存在だった。それは、カールのお守り、とも呼べる代物だった。

「・・・奥の手がある。」黒い笑みと共にコールに投げかけた。

「何だ?」

「・・・ちょっと表へ来い。」


 そして屋外へ出て五秒後、外で一発ビンタする音が聞こえた。

「どうしたの?!コール!」レベッカはこの二人がどうなっているのか心配半分興味半分で見ようと思った。

「・・・痛いじゃないか!コール!」

「黙れ!あれは一番やってはいけない!」コールは叫びながら糾弾していた。


「どうしたの・・・?」レベッカが入って来た。

「・・・こういうことだ。」コールは全部話した。そして、それを聞いたレベッカはすぐさまカールをビンタした。

「・・・サイテー!」サイテーじゃないか。二対一なんて。

 そう思うカールの右手には、あろうことか「サマー・ドリーム」などというグラビア誌が。カールのコックピットにあったいわゆる「お守り」みたいなものなのだが、偶然にもこの本はスズキ少将も持っている代物だった。

 その内容は、日焼けした美少女がビキニ姿になっているというものだ。ちなみに、これは海を宇宙空間で再現したコロニー〈パシフィック〉で撮っている物らしい。

 なお、山賊騒ぎの時にバーバラはカールのS4に乗っており、彼女に例のそれが見つからなかったのが実に幸運な事だったろうが、それは別のお話。


「うるさい!僕はこれを好きで見ているんじゃない、これを見る『馬鹿』を見るのが好きなんだから!」

 変人。二人はその変人を呆れて見ていた。変にカールのまっすぐなその目が、より事を深刻にさせていた。本気で言っているのだから。


「ビジネスだ、ビジネス!旧日本国では毎年二回そういう本が売られるイベント・マーケットが存在したんだから!ああっ!その目!まるっきり信用してないな!」二人を指さししながら抗議するのであった。

 もう、この二人は反論する気力さえも残っていなかった。


 今、レベッカとコールには、日本人とイギリス人のハーフにして、お国柄とも言うべきだろうか、いろんな要素を取り込んだ「紳士」なるモンスターが目の前に居る現実に頭を悩ませていた。ハーフの全員が全員、彼の様に頭がおかしいとは一言も言っていない。だが、彼はそうと言えた。

「どうした?」クリプトンが割って入って来た。


「・・・おたくの文化に、『ピンクな本』っていうものとかある?」カールは言ったが、翻訳不能だった。

「・・・今なんて?」当然、困惑する。普通なことだ。

「ほら、受け取れっ!」そう言ってクリプトンに投げて逃げ出した。

「こらァ!カール!いい加減にして!コール!それをどうにかして!彼にパクらせないで!これは人類の名誉を賭けた戦いなのよ!」逃げた同僚を追う導火線だった。


「俺?!」困惑が隠しきれないコールであった。

 今、半分近く導火線の「導火線」が燃えていた。イギリスの、日本の、そして人類の恥さらしを追って走るのだった。

「・・・成程、カール君が言いたいことがよく分かる。これは・・・確かに・・・ああ・・・凄すぎるな・・・。」めくりながら反応するクリプトンだった。


「何観察しているんですか。早く返してください。」コールが言ったが、クリプトンは返すどころか上着の中へと隠した。

「・・・返してください。」

「・・・嫌だ。」

「返せ!」強引に襟元を掴み取り出そうとするコールだった。

「ヤダね!これは恐らく木版印刷ではできない再現性!正に女体を鏡に映したような素晴らしさ!これを国王陛下に献上せざることあらばその価値は失われてしまう!」なぜ、こうも中途半端にも真っすぐな変態が存在するのだろうか。コールには一生分かりそうもないものだった。


「芸術点を求めるな!この手の本は大量にあるんだ!」コールはそう言ったが、逆効果で後悔した。

「大・・・量・・・?」彼の頭には小さいながらも宇宙が広がっていた。その目は輝きを隠せなかった。まるで宇宙に放り出された猫の写真のように。


「全く・・・。」ベンは室内からその様子を眺めていた。

「・・・あいつら、今何歳なので?」アータルタは言った。

「一八。」

「嘘!私より二歳上じゃん!」正直、よく分からない。彼らがませているのか、単純にカールが頭のいいバカなのか。・・・ただのどうしようもない大バカなのか。さっきから何を思っているのか分からなくなっていたベンだった。


「再教育・・・」ボソッと言ったオグラ中佐の声で、第一小隊の一同は恐怖に駆られた。顔は想像しなくても分かる。怒りと喜びに満ちた声だった。

 「懲罰」の名の元、「合法的」にブートキャンプに参加させることができると喜ぶ、子どもの様に生き生きとした笑顔。そしてカールの問題行為に対する怒り。・・・圧倒的に前者に軍配が上がるだろう。


「おい・・・!まずいんじゃねえのか?!」トマスはリューベリックに向かってこう言った。オグラ中佐に聞かれない程度の声で。

「馬鹿!そんなこと言ったら俺たちだって!!」

 そして他の第一小隊の面々も恐れおののきながら、オグラ中佐はゆっくりとカールとレベッカの元へと向かうのだった。

 土曜日公開!

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